【逆噴射小説大賞】『全裸中年男爵の冒険』

 山あいに朝日が昇る。日の光が差し込み目覚めた鶏が一声、告げる。

「コッケコッコオオオオオオ!!!!!」

 かき消すような咆哮が朝の静けさを破り、あたり一面を揺るがすように響いた。
 当然、鶏の鳴き声ではない。人間の男の声だ。

 町の広場の中心にある物見やぐらのてっぺん、屋根に突き立っている風見鶏に片手でつかまり、男はもう片方の手で口に手を当て、大きく息を吸い、叫んだ。

「すぅ……コッケコッコオオオオオ!!!!!」

 男は、全裸だった。

 やがて、やぐらの下を囲むように野菜や果物を積んだ手引きの荷車が一台、二台と集まってくる。今日は朝市だ。

 老人は帽子を取るとやぐらのてっぺんを見上げ頭を下げた。

「男爵さまァ、今日もええ天気ですなァ」

「おはよう、ジョゼ!」

 若い少女は頭巾を取ると、硬く尖った殻に包まれた木の実をそれでくるみ、投石器の要領で男めがけて投擲した。

「男爵! 朝っぱらから汚いもの見せんな死ね!」

「おはよう、アン!」

【続く】

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