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【ラムネ炭酸寝顔】921文字 ⑩

木造の店舗に『ラムネ』の吊り下げ旗が揺れる。
私と二階堂くんは喉の渇きを癒す為、その店へ入った。

観光客向けの菓子箱がずらりと並んだ奥に、ガラス貼りの冷蔵庫が一つ。私はラムネ飲料を二本取ってレジへ向かった。お会計を済ませると店員が手際よくラムネの栓を開ける。ポンと音を立ててビー玉が沈み、炭酸が噴き出す、フルーツの香りが漂った。


私たちは店の軒下にあるベンチに並んで座り、ラムネを一口飲んだ。

「おいしい!やさしい甘さで飲みやすいね!」

「そ……う……」

隣にいる二階堂くんに話したつもりだったが、知らない声が聞こえた。
高齢男性のような声?
私は辺りを見渡したが、該当する人物がいない。

「二階堂くん、なんかしゃべった?」

「なにも…」

二階堂くんは瓶の口を手のひらで塞いでいる。

「なにやってるの?」

「炭酸が抜けるとおいしくないから」

「そこまでする?」

「山本さん、俺、部長に進捗状況報告してなかった。ちょっと電話してくる」

二階堂くんはラムネを持ったまま、足早にどこかへ行った。





二階堂は誰にも見られないように電柱の影に隠れた。そして瓶の口を塞いでいた手を離し、中にあるビー玉を凝視した。

「眠ってる?」

ビー玉は自ら回転しカラカラと音を立てしゃべり始めた。

「あんた名前は?」

「二階堂」

「聞いたことがある。思念を読む一族か?」

「当たり」

「はははっ!まさか会えるとはな。わしはビー玉に宿る前の記憶がない。ただ誰かに『ありがとう』と言われたくてここにいる」

「そっか」

「あんた、近しい人に『ありがとう』って言ってるか?」

「言ってるよ」

「それじゃ、あんたの靴には?」

「靴?言ってない」

「言っておけ、損はない。心の奥底から湧き出る『ありがとう』には上限も境界もない」

「小さい頃、うちの母さんも似たようなこと言ってたな」

二階堂は瓶を左右に軽く振った。シュワ~っとラムネが渦を巻く。

「わしは…そうだ、思い出した。二階堂ありがとな……」

ビー玉はカランと音を立てて静かになった。
二階堂は瓶を太陽にかざして透かして見た。ビー玉の中から魚のような影が生まれた。それは瓶の口を通り抜けると空へ向かって成長しながら泳いで消えた。

昔、似たようなものを見たことがある。
あれは鯉のぼりだ。



「ありがとう」



【トラネキサム酸笑顔】が難しすぎて裏お題【ラムネ炭酸寝顔】で書きました。お題に沿ってるかな?怪しいところです😅
5月5日子供の日が締切だったので、どうしても鯉のぼりと絡めたくて、がんばってみましたが、どうかな、、、ちょっと苦戦しました。
でも苦戦するほど楽しいというか、クセになりますね(笑)