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【短歌連作】快速の止まらない町

この町はどうしようもないとこだからめちゃくちゃ甘いケーキが売れる

きみが書く飛ぶという字の筆順が間違っていて逆に飛べそう

父ほどの年齢である非正規の森さんと食うしずかな牛丼

夕立をやり過ごしてるロッテリアでバイトの李さんだけが元気だ

それぞれの神に祈りて糧を食う語学学校の昼餉うつくし

価値なんてわたしが決める 半額の白身フライはけっこう美味い

六限にきみの視線をたどりつつ同じ窓から見た空の青

教科書の渡来人ってすっぴんのわたしにめちゃくちゃ似ていて嫌い

どうしようもない男だな原付に元カノの名前つけちゃったりして

独り身も不自由でありAmazonの荷物が届くからまだ泣けない

夏の夜を往く暴走族 壊したいものはおれにもあった気がする

生きるのが下手くそなので今日もまたUSBの向きをまちがう

あの頃のパソコンに居たあのイルカはきちんと海へ帰れたのかな

丸善に檸檬を置いてスキップで逃げたいような台風一過

へんな顔した置物を買っちゃって旅行かばんのへんな膨らみ

言うべきじゃないことばかり言った日にさるぐつわとして買うドーナッツ

東京が好き。いま私が死んだってきっとバレない東京が好き。

ギターの子佐藤とやったらしいよと聞かされながら見てるステージ

乗り換えの駅でかきこむ立ち食いのうどんみたいにあたしを抱くな

まだ大丈夫だなって思う 泣きながら食うラーメンがきちんと美味い

約束の時間に帰らぬひとを待つ日々にも慣れて味噌汁の凪

湯としての三十六度は冷たくていのちは熱いものなのだろう

引き菓子のバウムクーヘン切り分ける おれにしろよと言えばよかった

クリスマスだしあいつらもちょっとだけなら幸せでいいやと思う

掃除機が棄てられているごみ捨て場 そうかお前もつらかったよな

取り柄なきひとを優しきひとと褒む世なれどごらん星はきれいだ

肉まんの最後のひとつ購ひて誰かの不幸がわたくしの幸

スタバって星の裏って意味かなと笑うきみには狭すぎる地球

快速の止まらぬ駅に住んでいるすべてのわたしたちに幸あれ

あかねさすグーグルマップのこのへんできみと暮らそう 好きに生きよう

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