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香りに纏わるエトセトラ

昨年、秋も半ばという頃、タイムラインのエモいことを言うアカウントが一斉に金木犀の香りがするのに姿が見えないツイをし始めた時期があった。そういう企画なのかと思ったが、なんということはなく、ただ単に各自が金木犀の香りはするのに姿がないことを呟いているだけだった。香りがするのに姿が見えないという状況こそエモさなのだろう。あと姿が見えなくても香りは分かっちゃうエモい俺たち…っていうのも多分にあると思ったらなんだか悔しくなって、私も金木犀の香りがするツイをしたのだった。香りの源の木は目の前にあったんだけど。エモい状況からはまるで程遠い、これが現実である。見つけたのも駅前の居酒屋の横だ。焼き鳥の香りの方が強かった。肉食べたい。
最近見かけたものでは、「香りは五感の中でも特に記憶に残りやすいから、好きな人に会う時には同じ香りをつけてみましょう(うろ覚え)」的なツイートがある。これもなかなかショッキングだった。世の中の人はそんな洋画のスパイみたいな手段を使って恋の駆け引きをしているのか…という衝撃を受けたが、よく考えてみれば私の知っている映画の中のスパイは名前を名乗るだけで女を抱けるし干し草の中でも女を抱ける。抱かれる方も抱かれる方な気がするがとにかくボンドガールのタフさはこの際置いておいて、顔がジェームズ・ボンドじゃない場合、香りの印象はかなり有効だということなのだろう。金塊欲しいマンとスパイの攻防など見ずとも、シーブリーズのCMを知っていればわかる話なのだ。石鹸の香りのする女の子は強い。

そういう香りに纏わるエトセトラみたいなのを詰め込んだのが今回訪問したお店である。その名も「NOSE SHOP」。実に分かりやすい店名だ。トワレやコロンをはじめとしたフレグランスと、ボディクリーム、ルームフレグランス等々、とにかく香りに纏わる製品を集めたセレクトショップ、故に「鼻の店」。ジェームズ・ボンドは何代目が至高だとかゴタゴタ言ってないでさっさと店名を紹介すればよかったのだ。

同伴して下さったフォロワーはこじろさんとこくりこちゃんである。お前フォロワー以外に遊ぶ相手いないのか?居ないよ。遊ぼうね〜って言ってたのがうやむやになるのがリア友で遊ぼうって言ったら本当に遊ぶのがフォロワーなんだよ。オタクなんだから許せ。

オタクといえば、近頃俺たちオタク界隈においても、香水という媒体が確立されつつあるのはご存知の通りである。公式がキャライメージの香水を出してくる時代だ。残念ながら私の推しはそういう恩恵にあずかるタイプではないので今のところオタクな香水とは縁がないし、今回も単純に自分がつけたい香りが欲しいなという考えだけで臨んだ。何よりまともな匂いを持ってる推しが居ない。ちょっと考えてみたものの、大体の推しが血と火薬と汗の臭いか、医薬品の臭いか、土の臭いか、無機物の無臭のどれかだった。絶望的。

気を取り直して店の話をしよう。

NOSE SHOPは都内に銀座、新宿、六本木の3店舗を構える。今回は新宿店。新宿バスタと共に新南口を賑わす駅ビル、NEWomanの2階に位置している。

都会的でスタイリッシュな外観。この時点でめちゃくちゃ今時の店である。

店内に並ぶ香水に、シャネルの何番とかそういうのは無い。ニッチでマイナーで、コンセプトが独特なブランドが多い。価格は3000円〜2万円弱まで、結構幅広い感じ。後述するが500円のガチャポンもあるので、一通り嗅いで回ってからそちらを引くのもおすすめだ。

香水を店頭で嗅ぐ時は、大抵ムエットが用意されている。まとめて置かれているあの細長い白い紙だ。私は「香水試すアレ」と呼んでいたので、ムエットとか今ググって知った。
NOSE SHOPにはムエットが無かった。ではどうやって香りを嗅ぐかというと、このお洒落な何かを持ち上げて鼻を突っ込む。

持ち上げて気づいたがお洒落なこれ、三角漏斗だった。ろ過を行う際、ビーカーの壁に脚をつけて用いなければ即アウトなアレである。高校受験の理科における頻出問題である。
この内側に香水が吹き付けられているから、いちいち紙吹き付けずとも香りを嗅げる訳だ。これが良くない。次々嗅いでしまう。鼻が麻痺してきた頃用にコーヒー豆も用意されている。「鼻の麻痺、コーヒー豆でリセット可能な件」に関しては常々疑念を抱いていたので己の鼻でリセットを実感できたのは良かった。

気になる香水も勿論、そもそも用意されている香水がかなりの数だったので、ここでは買ったものを中心に紹介しようと思う。

kerzon


フランスのアロマブランド。ルームスプレーとして売っていた商品を肌につけられるよう改良したというオードトワレ、ひと瓶(100ml)で4,500円という香水としては破格の値段である。キャンドルとかサシェとかも豊富。お土産に良さげだ。

▶︎チュイルリー庭園:ヒヤシンスとブーケの香り
パリのスポットをテーマにした「パリの散策シリーズ」のひとつ。ブーケの香りと聞いて侮ってはいけない。本気の花屋の香りである。それは花自体の芳香だけではなく、あの独特の青臭さ、あれまではっきり香る。ここまでリアルに青臭い花の香りはなかなか無いと思う。絶対に被らない香りで、人と差がつく香水。一瞬良くあるフローラル系と思わせての癖の強さに惹かれて最後まで迷ったのだが、香り方が強めだったので今回は見送りした。個人的には身体につけるよりはルームスプレーの方が使いやすそうで気になる。部屋を青山フラワーマーケットにできるに違いない。

▶︎リュクサンブール公園:ライラックとハチミツの香り
こくりこが購入。
物凄くリアルな蜂蜜の匂いから、甘さだけを控えめにしたような香り。こくりこちゃんがしばらく手首につけて過ごした後には甘さの無いライラックが残っていた。面白いしめちゃくちゃ使いやすそうだ。朝ちょっと甘さを感じながらつけて、たぶん昼前ぐらいには爽やかな香りになっている。仕事とかにもつけて行きやすそう。
蜂蜜の名が入った香りものは基本甘さが強いものか殆どなのだが、この香水は大人の蜂蜜だ。蜂蜜の瓶を開ける前の、甘さは控えめで、でも確かに蜂蜜が入っているとわかるあの香り。すっごい魅力的。
黄色い蜂蜜の可愛らしさと青紫のライラックの大人っぽさの同居というあたりが、こくりこちゃんの性格とそのデザインセンスにそれぞれ一致していてぴったりだと思う。本当に面白いね香水って。

△あとパケもかわいい。神ってる。

ETAT LIBRE D’ORANGE

なんて読むんだよ。
こちらもパリのブランドなのだが、かなり型破りで独創的な香水が多かった。アイデアで殴る感じのブランド。そもブランド説明文からして「理性のエッジに誘う危険な香りなジュース」である。何言ってるんだ?そしてどの香水の説明文にもだいたい官能というワードが出てくる。国立現代美術館に行った気分になるブランドだ。香水の説明文も、何言ってんだこいつの嵐でよかった。(褒めてる)
▶︎ゴミの花
初っ端から型破り感マシマシ。ゴチになりますに出てくる創作料理レストランのメニューっぽい。
他の香水を作るときに出た残滓を使ってより良いものを作ってやろうという、名前に反してヘルシーでエコな感じのコンセプトを持っている。香りはよく覚えて…ません…ごめん…コンセプトが強すぎるんだわな…。ご自分で嗅いで確かめてみて欲しい。
▶︎コロン/ああ、いい香り
コロンという名前のコロン。その名の通り、「香水」と言われて10人中9人が想像するような、余りにも皆の思う香水すぎて逆にないみたいな香水である。柑橘系と、ちょっと重めの花の香り。嗅がせてもらって「ああ〜いい香り〜」って言ってたらそれがこの香水の副題なんですと教えられてめちゃくちゃ恥ずかしかった。先に教えといてよ。
▶︎あなたのような誰か
原題、“You Or Someone Like You”。名前に物凄いスティーブンユニバースみを感じる。”Love Like You”は名曲です。

△天使の落ちた街って…。


配合が完全非公開なせいでコピペ紹介ができないこの香水、普段つけている香水の傾向(ユニセックスで柑橘系とグリーン、甘さのないフローラル)を伝えた店員さんが選んできてくれたものである。殆ど甘さはなく、中性的で落ち着いた、付けていて1番馴染む香りだった。同じような香水*を既に持っているので迷ったが、付けて暫くすると出てくる雨上がりの植物の香りが独特で最高だった。付けたてには無かったベビーパウダーのような甘さが出てきて、いろんなハーブが植わってる庭に雨が降って上がった時、みたいな複雑な香りがする(語彙力の限界)。馴染んでいるけど新しいのだ。良い…。

持ち運べる1番小さいサイズをお買い上げ。正しい判断です!


*カルバンクラインのck oneと、4711のオーデコロン。後者のナチュラルスプレーは瓶がかわいいし香りが控えめでオススメだぞい。どっちも10年くらい前に親がお下がりでくれたのだがいい加減捨てた方が良い気もする。


そして待ちに待った選定の時。

ガチャである。


オタクたるもの、そこにガチャがあるなら引かねばならない。しかも500円だし。ほぼ無料。
引くと店員のお姉さんが開けてくれるのだが、それがちょっと寂しかった。ガシャポンのケースは持って帰りたいオタク。中身はお試しサイズの香水で、こちらも店員さんがしっかり解説してくださる。

こじろさんは2連ガチャ。見事気になっていたという香水をどちらも引き当てた。ガチャ運が良すぎる。

こちらがその2つ。香りもボトルも、重厚で耽美で非日常感のある香水だ。私のTLにおける耽美とタナトスと宗教モチーフと言えばこじろさんなのだが、あまりにイメージ通りで最高である。最高としか言えない。説明文もこじろさんみが強い。是非この香水をモチーフに小説を書いていただきたい。右側とかもはや墓石じゃない?葬式を書かせるならこじろさんなのである。

私はと言えば購入した”あなたのような誰か“を再度引き当た。ピックアップガチャを引くと既存鯖の宝具が重なる呪いにかかっているマスターなので納得の結果である。店員さんには「香りに呼ばれている」という評価を頂いた。お洒落な店の人は考え方がお洒落である。それはそれとして我がFGOアプリのピックアップ機能しなさすぎ案件はどうにかして欲しい。

こくりこちゃんは同じくETAT LIBRE D’ORANGEの”NOEL AU BALCON/賢者をも狂わす魅力“。そしてなんとまた蜂蜜の香りだったのもあって、私の”あなたにような誰か“とトレードしてもらった。ありがとうこくりこちゃん。蜂蜜とバニラの甘さをスパイシーさが追っかけてくる、官能的な香りである。夜の街に繰り出す時に付けていきたいね。公式の説明によると、“パーティに現る、誘惑のダンシング・クイーン“。さあ!あなたもダンシングクイーンになるのよ!もうとっくに17の歳は過ぎちゃったけどね。

△ガチャポンで出てくるお試しサイズはこれくらい。かわいい。

という訳で、NOSE SHOP 新宿、店舗面積自体は小さいながら無限に楽しめる空間だった。ニッチなブランドと言えど、ラインナップはパリの街から土の香り(動物の食べているものをテーマにしたブランドの“コウモリ”。厚い地のスーツにつけたい、癖の強い雨の香りだった)まで。数種の香りがセットになったトライアルセットもかなり手頃な値段で手に入る。店員さんの丁寧な説明が受けられるので、香水マニアもビギナーも楽しめるお店だと思う。ふらっと見に行ってガチャポンを回してみるのもあり。思わぬ出会いがあるかもしれない。


おまけ
渋谷は千駄ケ谷、ずっと行きたかった鳩森八幡神社にも参拝できた。
登れる富士塚があり、鳩の絵馬があり、鳩のおみくじがあり、御朱印に鳩スタンプが押される最高の神社である。今は梅と河津桜にミツマタが咲盛り、近くに広くて良いカフェがあるし千駄ヶ谷いいな。東京の穴場だわ。

最最の高高。

3月、早々にやばい月っすよ…。生きるしかねえ…。

あとチラッと見えた国立競技場が全然建ってなくて不安になった。間に合うのかオリンピック。2020年すぐそこだぞ。



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