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【ネタバレ有】大和田紋土について語る

◆はじめに

大和田紋土はダンガンロンパに登場する愉快な高校生のひとりである。冗談みたいな髪型をしているヤンキー野郎でこんなコテコテのヤンキーはダンガンロンパ発売当時ですら一周まわって新しい。
非常に判りやすい記号的な第一印象に対してかなり複雑な内面を抱えているキャラクターであり、ダンガンロンパが発売13年を迎えた現在でも多くの意見が散見される男だ。

今回は自分がそんな大和田の魅力だと思うところを主観と偏見で語っていきたい。

当然ながらダンガンロンパ無印は勿論、2やV3等シリーズに関するネタバレも含むこともあるので未プレイの人は注意されたし。
また大和田紋土の魅力を語る上で彼の欠点等にもかなり触れるのでネガティブな面の話題が苦手な人も同様に注意していただきたい。
そしてタイトル通り自分の主観と偏見にまみれている。深読みしすぎな節もあると思うし、かといって特に斬新な考察だとかそう言うわけでもない。
要は広い心で読んでほしいということだ。なんか言ってるな~くらいの気持ちで読んでいただき、少しでも貴方の中での大和田像に変化があればこれ以上の幸運はないだろう。

1:大和田紋土の印象

見た目の印象がかなり強烈な彼はそれを裏切らない「古き良きヤンキー」である。強面で怒りっぽく暴力的で、だけれど面倒見はよく情に厚い。

チャプター1にて苗木を半ば脅すような形でパシらせておきながら「何かあったら助けを呼べよ。ソッコーでオレが駆けつけてやっからよ!」というシーンがある。その後食堂を後にした苗木との舞園の会話が下記。

舞園「大和田君って、酷い人なのか頼れる人なのか、よくわかりませんね…」
苗木「うーん…。どっちも…なんじゃない?」
苗木(悪人じゃない…と思うんだけど…。善人でもないだろうな。間違いなく)

これは大和田を的確に表していると思っている。
序盤こそ理不尽なキレ方が目立つものの、舞園が殺害された際や不二咲千尋が十神白夜に罵られた際に仲間想いな怒りも垣間見えるようになった。
その後チャプター2中盤で不二咲に怒鳴らないと誓い、仲の悪かった石丸と壮大な勝負の果てに親友になるというベタすぎる展開を迎えたあたりで大半のユーザーにとって大和田紋土は「兄貴肌の良いヤンキー」となったのではないだろうか。
しかしその印象は後の裁判で大きく覆ることになる。彼はずっと弱さを抱えており、その弱さ故に最悪の過ちを犯してしまった、というのはこれを読んでいる人に今更詳細を語るまでもないことだろう。
これまで積み重ねたイメージとのギャップも相まって大和田というキャラクターに対して悪印象を抱いている人々を見ることも少なくはない。

だが自分はその弱さの在り方こそ大和田のキャラクター的魅力にもつながっていると思っていて、今回はその面について照準を合わせていきたい。

2:大和田紋土の「弱さ」について。

大和田のキャラクター的魅了を語るうえで、過ちを犯す理由にもなった彼の欠点ともいえる「弱さ」について話していきたい。

強気だった大和田が実は脆かったという印象から、彼の強さと弱さは正反対ように見える。実際苗木も「普段はあんなに強気だった彼が皆には内緒で抱えていた弱い部分」という感想を持っており、実際自分が苗木たち参加者の立場なら「意外」だとか「落差」だと思うだろう。
だが俯瞰視点で見ることのできるプレイヤーである自分は大和田の強さと弱さは紙一重だと認識している。

「強さと弱さ」というとシンプルだが、不二咲千尋との関係性も相まって一言で簡単に言いあわらせる強さと弱さの話ではない。
というわけでここからは名付けて「順を追って大和田の弱さについて説明していく作戦」を取る。

①:意外と寡黙

まず大和田はなんとなく大声で怒鳴ってるイメージが強いがその実かなりの寡黙な男である。
少なくとも無印男子では一番静かだろう。
山田桑田葉隠石丸は言うまでもなく元気いっぱい(オブラート)で、苗木と不二咲は人並みに喋る。「俺はクールキャラだが?」みたいな顔をしている十神もめちゃくちゃ喋る。ペラペラ喋る。愉快な奴である。

初登場シーンである自己紹介でも最初の「オレは大和田紋土だ…よろしくな…」と苗木の「よろしく」に対する「おぅ…」の二言しか発していない。「お前と話すことはない」十神や警戒心を強めており拒絶するような態度の霧切よりも言葉は少ない。これに関しては苗木も大和田におびえて特に会話をしなかったのもあるが、少なくとも山田や桑田のように自分からガンガン話すタイプではない。
それ以降のパートでも怒鳴り声をあげるときはかなりあれど、それ以外のタイミングでは寡黙を貫いている。もともと口下手なこと、身の上に後ろめたい箇所があることなどはもちろん、彼は結構古風な思考なので「ペラペラしゃべる男はダサい」という考えも持っているかもしれない。

②:怒鳴ることの意味

何が言いたいのかというと大和田は意味もなく常に怒鳴り散らかしている男なのではなく、彼なりの理由があって怒鳴っている。

そして最大の要因は、彼の心が恐怖などで不安に寄るものなのではないか、というのが本記事の見解だ。

勿論彼自身元から短気な性格であるというのはあるが、モノクマにコロシアイのルールを説明されて喧嘩になった際の仲裁に入った苗木や、探索の結果脱出手段を見つけられなかった石丸達に対して等々大和田が理不尽な怒り方をする際は彼の不安が煽られている時だ。

大和田が自分に「強い」と言い聞かせていたことを加味すると、不安になった際それを覆い隠さんと怒鳴ってしまう傾向があるというのは少なくとも全くの的外れではないだろう。

他にも大和田のシンミツイベント(所謂通信簿イベントのこと。自分はこの呼び方に未だに慣れない)にて女子に告白する際つい怒鳴ってしまうので振られそのせいで連敗中というエピソードがあったが、これもその例だろう。
告白は緊張するし不安な行為である、大和田からすれば自分を良い男に見せたいだろうし虚勢を張ろうとした結果怒鳴ってしまうわけだ。
 
大和田は家庭環境も良くなく、兄の影響でずっと不良の世界で生きてきたこと、そして兄の死以降偽りの看板を背負ってきたことを考えるとまず第一にあってはいけないのが「舐められること」「弱いと思われる」ことであり、その手段として声で相手を威圧するのは実際のところかなり有効である。それ故に大田和紋土にとって怒鳴るという行為は自分にも他人にも「俺は強い、大丈夫」だと言い聞かせることのできる暗示の一つなのかもしれない。
彼にとってその行為は不二咲にとっての女装のように己の弱さを隠すための手段でもあるのかもしれない。

③大和田の弱さとは何なのか

長らく大和田の「怒鳴る」行為について説明してきたがなぜかと言えば自分はこれこそが大和田の弱さだととらえているからである。自分のコンプレックスを乗り越えられなかったことと、対照的にコンプレックスを乗り越えようとした不二咲への嫉妬……この辺りが本人やモノクマの語る「弱み」だったわけだが根本的な問題とはそこではない。

まず大和田のコンプレックス(兄の死関連)は簡単に乗り越えられることではない。自分のせいで兄が死に、そしてその最期の言葉を守るべく嘘をつき続けている。「死に際に託した願いというのはある種の呪い」というのはダンガンロンパに限らず色々な物語で都度描かれる。大和田紋土で言うと彼一人が「もう嘘は嫌だ」と思ったとしてもチームを守ることは兄の願いであり、勝手にやめることはできないがもうこの世にいない兄に止めることの許可を求めることはできない。

この問題は一朝一夕に乗り越えられるものではなく、モノクマの動機提示によりその覚悟を一日で決めろと言われるのはいくら兄の死が大和田紋土のせいによるところがあるとはいえ、かなり酷な話だと思う。

そして不二咲千尋への嫉妬。これも正直に言ってそこまで責められる話ではないと思う。この大和田の感情に厳しい意見をする人の気持ちもわかるが嫉妬という感情自体には正直正当性があると感じている。

不二咲は自己否定のつもりで「嘘に逃げ続ける人間」を否定した。それが大和田を突き刺した。
不二咲に一切非はないが、彼は自己評価が低くそして大和田への評価が高かったゆえに、『自分なんかが抱えている悩みを大和田君も持っているわけがない』という意識すらしていないだろう大前提のもとに自己卑下をした。それが結果的には大和田のコンプレックスをも否定するものだったのは、憧れにより大和田像が感光してしまったゆえの悲劇としか言えないだろう。

そしてそのうえで大和田と違って乗り越えられるという姿勢を見せてしまった。

情けないと言われればそれまでだが正直に言ってこれで嫉妬するなというほうが無理な話だと自分は思う。そもそも前述のとおり動機提示で大和田も己のコンプレックスとどう向き合うかで感情がぐちゃぐちゃになっていたのだから。それゆえに自分は大和田紋土の「嫉妬」を特別弱いというつもりはない。
お世辞にも褒められた感情ではないが、嫉妬を全くしない人間はいないと思っている。

では何が弱さだったのかというと、話は先ほどの「大和田は精神的不安になると怒鳴る。自分を大きく見せようとする」というところに集約してしまう。
大和田が怒鳴る際そこには高確率で暴力も付随する。実際手を出すことは少ないが少なくとも暴力をチラつかせるのは必ずと言っても良い。彼が不良であることを、自分を強く見せようとしていることを考えれば暴力は怒声と並んで単純かつ明快な威嚇手段である。つまるところこの男は不安になると怒鳴り、場合によっては手をあげてしまうこともあるのだ。

不二咲に嫉妬した際の大和田の精神状況と、彼のこの特性を考慮すると不安にかられ自分を強く見せるために我を忘れて暴力を振るってしまうのは必然と言える。つまるところモノクマにより精神不安に陥られされたところも、不二咲の自己卑下と憧れが逆に刺さってしまったことも仕方のないことだが、結局のところ自分を大きく見せ、心を守る手段として大声と暴力しかもちあわせていないところがこの男最大の落ち度であり、弱さなのだと思う。

つまり大和田の本当の弱さは今までと正反対のギャップではなく、これまでも散々見せられていた箇所であり、それが強さのように見えていただけ……というのが持論である。冒頭で「紙一重」と述べたのはそのような意図だ。

④:力を持つこと

勿論大和田が暴力的な方法でしか自分を守れないように育ってしまったことは彼の環境を思うと仕方のないことではあるのだがやらりコンプレックスや嫉妬の感情そのものはともかく暴力に頼ってしまうというのは大和田の看過できない欠点だと私は考えている。

あまり世間一般論で語るのは好きでないのだが、流石に暴力という行為に肯定の意を示す人間は少ないだろう。暴力とは相手の意思等を破棄して一方的に優位に持ち込める手段であり、時代や文化などあれど基本的には忌避されている。

しかも大和田は人一倍力がある。戦刃やジェノサイダーのような伏兵は除くと仲間内で大和田よりも強いのは大神だけだろう。

これはかなり自分の考えになってしまうが、力のある人間がその使い方を制御できない罪ははかなり重い。

我を忘れて人を殺めるレベルの過ちはあそこまで追い詰められないと起きないとは思うがそれ以前にも苗木を気を失わせていることを踏まえると、もとより危うさをはらんでいる要素ではある。
少々厳しい物言いにも聞こえるが、大和田以上に力がありながら決して衝動的に仲間を傷つけない大神さくらがいることを思うとある程度制作側も意図してこの暴力性を大和田の弱さとしている気がする。後にチャプター4で大神が心身ともに強いエピソードが語られるのも中々に残酷な話である。

もっと言えば作中でも「弱いから暴力に頼る」と本人に指摘した人がいる。これが誰なのかはこのあとの話にかかってくるのでそこで改めて紹介しよう(覚えている人は覚えているだろうが)。

力があることは本来大和田の「強さ」の一つである。実際不二咲は彼のそこに憧れた。不安に陥る状況下にあり、そういう生き方しかできなかったという理由はあれどその強さを正しい方向に使えなかったことこそ大和田最大の弱さだと自分は思っている。

厳しい言い方にはなってしまったがこういった弱さこそが大和田の魅力だと自分は思っている。嘘ではない。自分は不正や嘘がモノミの次に嫌いである。

とはいえいくら好き故という建前込みでもここまで言われっぱなしは流石に大和田が可哀想なので次の節では彼に少し寄り添った内容を書いていく。

3:本編での大和田

この節では本編における大和田がどういう状況に陥っていたかを改めて整理する。
大和田は決定的な弱さを持ち、そこに付け込まれ許されない過ちを犯してしまったが日常的に救いのない男ではなかったと思っている。確かに元から弱さを隠すために手をあげてしまう節はあったかもしれないが、それでも決定的な踏み外しをしてしまったのはこのコロシアイにより追い詰められたせいだと信じたいところ。

例えばシンミツイベントでは大工の道という腕っぷしを人のために使う方法を検討しているし、平和な世界を描いた「育成計画」や「ハッピーダンガンロンパ」では狂うことなく面倒見のよさを発揮している。

ここではそんな大和田を蝕んだ状況を整理することで、そんな「普段の大和田」への手向けとしたい。

①閉鎖空間

これに関しては無印キャラ全員なのだけどやはり閉鎖空間というのは本当にストレスが溜まると思う。2やV3も一定の区間に閉じ込められてはいるが一応は開けた外の空間外があることを考えると監禁そのもので78期生の受けたストレスは桁違いである。

その中でもさらにストレス解消手段すら監禁により奪われた面子は悲惨で大和田もその1人である。大和田は不良のイメージが強いが細く言えば「暴走族」であり喧嘩だけではなく走りも生業としている。というか本来そっちが主体である。実際シンミツイベントではバイクについて熱弁してくれる大和田を見ることが出来る。
自分はバイクは愚か自転車の運転すら怪しい人間なので大和田の気持ちに同調はあまり出来ないが自分の運転で風を切って走るのはかなり爽快感があるだろう。このバイクで走る行為が大和田にとってかなりのストレス解消だったことは想像に難くない。

ダンガンロンパ無印において、ストレス解消を奪われたキャラクターは大抵悲惨な目にあっている。代表例は山田一二三だろう。彼は分かりやすくストレスをためており、破滅の一因にもなっている。山田にとって大切なアニメや漫画などの二次元の供給は閉鎖された希望ヶ峰学園に一切なく、結果として貴重な「萌え」であるアルターエゴに傾倒し、正常な判断力を失い暴走した愛をセレスに悪用され命を落とす。

他にも本人が好きではないという態度なのでわかりづらいが桑田怜恩も監禁数日で野球ができないことをストレスに感じていたが、それも彼を凶行に走らせた原因の一部になったのではないかと自分は踏んでいる。
 
正反対の例として朝日奈葵を挙げると彼女にとってかなり大切な要素の水泳とドーナツはどちらもしっかり供給されており、不安になったさいはそれらによりストレス解消をしている描写も見受けられる。

まあ他の面々に関してはどうあれ、大和田は閉鎖空間によってストレスを貯めやすい部類に属するのは間違いないと思う。

余談だが、世界が滅んでいる以上(少なくともこれまでの作品での描写を見る限り)大和田が仮に外に出られたとしても、彼が心地よく走れる道があるかは怪しい。そう言う意味では彼が親密イベント等で決意した「大工」の道はある意味走り屋を救うことにもつながっていたのかもしれない。

②暴力の通じない世界

暴力が大和田にとって心身ともに自分を守る武器でもあるというのは散々触れてきたが、そもそもコロシアイでこの暴力というものはあまり役に立たない。参加者は皆モノクマという圧倒的暴力に脅され、従うしかない状況。実際モノクマも大和田の動機を語る際にこう揶揄している。

モノクマ「そんな折、スタートした”コロシアイ学園生活”で、彼は思い知ることになるのです。いくら強がっていても、自分は簡単に死ぬ”弱い存在”でしかないのだと…」

これまで多くを暴力で解決してきた大和田にとってそれが通じないモノクマはかなり恐ろしかっただろう。特に大和田は他の面々と違い開始早々に死にかけている。霧切の忠告がなければ危うかった。黒幕の趣向的に本当にあそこで数を減らすような真似をしたかは微妙だが少なくとも大和田の体感では暴力で解決しようとしたら命を落としかけた、という認識なのは間違いないだろう。
この直後十神と対立し仲裁した苗木を殴り気絶させるというかなり理不尽かつ悪印象なシーンがあるが、私見ではここでの大和田は二章での動機関連の次に内心追い詰められている。その発露が過剰な暴力という方法なのでわかりづらいところではあるが。怒声と暴力=不安から身を守る行為というここまでの仮定を当てはめるとそれも納得がいく。

そして死にゆく仲間たちを見て大和田が自分の暴力が通じない世界に恐怖したのは言うまでもないだろう。
「ただでさえ本当は弱いのに、それを無理やり力で強く見せているオレから力を取ったら何が残るんだ」といったような葛藤があったのではないだろうか。

モノクマという圧倒的力は全員にとって恐怖の対象だが、強さに自負がありかつそれに頼って己を守ってきた大和田にとっては人一倍恐怖の存在だったのかもしれない。

③周囲との関係

①と②で大和田はそもそも追い詰められていたことを証明したがそのうえで人間関係に着目する。
人間関係はダンガンロンパにおいて時に救いとなり、時に絶望の入口となる。
大和田にとって関係の深い仲間はやはり不二咲と石丸の二名だろう。
この二人が大和田に対してどう作用したかというとこれはかなり冷たい見方だがあまりプラスには働いていないように見える。……誤解のないように言うと自分は彼らの関係は結構好きである。そのうえであまりプラスになっていない説を提唱したい。

不二咲は言うまでもなく向こうに一切の悪意はないが大和田の心にトドメを刺した。石丸との関係は良好に見えるものの、その実大和田にとってはそこまで良い働きをしたとはあまり思えない。石丸にとってはかなりの支えだっただろうが。

彼らの友情を疑うだとかそういう話ではなく、そもそも友情の構築の仕方を誤ったように感じる節があるという話だ。

ここまで大和田の弱さにたくさん触れたことを踏まえて彼に必要な人間関係とはなんだったのだろうか。考え方はそれぞれだが自分は弱音を吐ける友人だったと思っている。弱音を他人に見せることの是非や、その相手を友人とする是非は個人の価値観によるが、少なくとも客観的目線で見た時大和田が過去を乗り越えるためにはそういった存在が必要不可欠なのではないだろうか。
荒れた環境育った大和田にとって唯一の甘えられる存在は兄で、その兄の死以降彼は誰にも甘えられてないのかもしれない。大和田に最も近い暮威慈畏大亜紋土の面々は、同時に最も弱さを知られてはいけない相手でもある。

そして不二咲や石丸も大和田を「強い」と慕っており弱みを見せられる関係とは言い難かった。二人との関係は大和田にとって悪いものではなかったが、ここまで述べてきた彼の抱えている問題点を解決するような存在にはなり得なかったのだろう。寧ろ二人にもまた弱みを見せられない、強く振る舞わなくては行けない関係だったように感じた。

実際不二咲と石丸が大和田をどう見ていたかということがわかるシーンがある。チャプター3でアルターエゴが石丸を励ますところだ。あそこでアルターエゴが再現した大和田のセリフは下記の通り。

アルターエゴ「まあ、立ち止まるのはしかねー…。せいぜい時間をかけやがれってんだ。時間かけて落ち込んで…。時間かけて後悔して…。そんで、気づいたらいつの間にか歩きだしてる…。人間ってのはそれくらいテキトーに出来てんだ」

これをどう思うだろうか。初見時は自分も案外「言いそうだな」くらいに思った覚えがあるが何度かプレイしているうちに首をひねるようになってきた。穿っているだけかもしれないが少なくともコロシアイ下の大和田紋土からこの言葉は出ない気がする。大和田自身が簡単に拭えない後悔を背負っていて、歩き出せなかったからだ。
そもそもこのアルターエゴ大和田は不二咲から得た大和田像なので彼の後悔や心の闇などは知り得ない。
不二咲が大和田をかなり美化して捉えていたのは言うまでもないがアルターエゴ大和田のシーンはそれが実態として現れていると思う。

そしてこれを受けての石丸は石田を名乗り大和田と合体する。本人は霊が宿ったと言っているが要は一種の狂気に陥り大和田のエミュレートをはじめた石丸である。この石田による大和田のなりきりだがアルターエゴ大和田よりも如実に解像度が低い。アルターエゴ大和田の解像度論は解釈にも寄るだろうがこちらは誰が見ても「大和田そんなキャラだったか?」となるだろう。
印象の項目でも言ったように大和田は普段案外寡黙であったが石田は常に大声で喚き散らす。お世辞にも大和田を再現できているとはいえない。

大和田の「強く見せる嘘」はとても成功してたのだろうが、結果として特に仲良の良かった二人でも大和田を理解するには至らなかった。

ここで前述の大和田と石丸が関係の構築のしかたを少し間違えた、という話に戻るが、不二咲は双方のコンプレックスがかち合う関係にあるの仕方がないが石丸に関しては実は惜しい節があると思っている。

というのも先程述べた大和田の弱さを指摘した男こそかつての石丸だからだ。

大和田「こいつが、さっきからナメたことを抜かしやがんだよ。オレのことを根性なしだとかよぉ…」
石丸「根性なしだから、すぐに暴力に頼ろうとするのだろう⁉ 根性なしだから、社会やルールを守れずそんな格好で珍走しているのだろうッ⁉」

ご存知チャプター2の大和田と石丸の喧嘩シーン。このあとサウナ対決で仲良くなる前の石丸のセリフは実はかなり的を射ていた。正論のナイフで滅多刺しである。石丸が人間観察に優れているタイプとは思えないので恐らく彼の偏見によるものなのだろうが「根性なしだから暴力に頼る」は本記事でさんざん述べていた大和田の弱さそのものだ。
皮肉なことにこの後仲良くなり、そのあとはそういう大和田の駄目なところは見えなくなってしまっている。石丸としてはシンミツイベントの苗木を除けば初めての友人で、相当嬉しかった故なのだろうが結果としては喧嘩していた頃のほうが大和田を理解してた。

そしてこれは完全に想像だが大和田はむしろ石丸の自分に最後まで歯向かってくるところを気に入り友情を抱いたのではないだろうか。
結果的には大和田と石丸の友情も結構すれ違っているようにも思える。

結論としては大和田にとって不二咲と石丸の二名の友人はどちらも好意的でこそあったが、絶妙にすれ違っており理解もあまりされていなかった。チームの仲間同様慕われる関係であり心を許して弱さを見せるまでには至らなかった。

ちなみのシンミツイベントを本編としてどう扱うかは、正直難しいのだがそこでの苗木はかなり大和田にとってかなり良い存在だと思っている。
最終段階まで仲良くなると大和田は苗木に弱みを見せてくれる。腕っぷしの強さを暴力ではなく人のために使おうという決意も固めていた辺りシンミツイベントの最後はかなり大和田にとって救済ルートなのかもしれない。残念ながらシステム上本編には反映されないが。

4:あったかもしれない大和田

大和田の弱さを分析し、多くの要素が彼の心を折り、そしてだれもそれを止めることはできなかったことを此処まで長く語ってきた。

最後に78期生の魅力の醍醐味でもある「平和な学園生活」ではどうだったのかを考えていてこの記事の締めとしたい。当然だがこの項目はこれまで以上に妄想と願望が多めである。

大和田に限らずだが78期生の平和な学園生活に関しては好きに妄想することは無限にできるが、ある程度説得力のあるものとなるとかなり限られ、基本的には作中で出てきた数枚出てきた学園時代の写真が貴重な根拠となる。

大和田に関しては生憎舞園らの写真を除く全てに顔を出しており比較的想像しやすい。
意外にも本編では親友となった石丸と距離の近い写真は強いていえばアニオリの雪合戦写真程度である。まあ写真がないから仲良くなかった!とは言わないがもしかしたらあの友情は極限下だからこそ生まれたのかもしれないと考えると興味深い。あるいは本編ほどベタベタ(この言い方はどうかと思うがこれしか見つからなかった)ではないもっとさっぱりした友情を育んでいたのかもしれない。完全に好みの話をすると自分はこの説を支持している。本編の二人は疑心暗鬼の不安定な中で急速に仲良くなったためああ言う形になり、結果的には悲劇を生んだが日常のなかで時間をかけた友情であれば違う形もあったかもしれない。
夢が広がりまくりすてぃーなである。
【1/28追記】完全に失念していたがPSP版の「超高校級の限定BOX」には「もうすぐ希望ヶ峰学園祭」という平和な希望ヶ峰で苗木達が文化祭の準備をするドラマCDがついている。時折ファンメイドの動画で使われる「わったあめだよぉん」ボイスの出典だ。
このドラマCDのことだけでも無限に話せるが大和田だけにフォーカスすると石丸との会話が主である。そもそもこのドラマCDがどれくらい正史なのかは微妙なところ(名目も『もしも』である)がこちらのドラマCDでも仲は良いがコロシアイほどベタベタではない。良い距離感のように見える。ちなみに不二咲との会話はない。


そして大和田解釈としてどの写真よりも大切なのが、チャプター3で苗木が目撃するものだろう。大和田が不二咲と桑田と笑い合って写っている。これから読み取れることがまず高確率で不二咲千尋が性別を明かしているということだ。
制服は女子のものにも見えるが距離感は同性同士と捉えたほうがしっくり来る。他人との距離感に関してはかなり人それぞれなので「ペロッ!この距離感は同性!」という断言は愚かかつ危険だが大和田という男はダンガンロンパが昔のゲームであることを加味しても硬派というか、かなり古い男女感を持っている。そんな大和田が女子に対してこの距離感を取るとは思えない。

故にこの写真を根拠に学園生活時代の不二咲は性別に関してカミングアウトしていたと捉えている。個人的には全員にだと思っているが最低でも大和田には告げている。学園生活時代とは別の世界線でこそあるが同じく平和な世界を描いたハピロン時空でも大和田には明確にその件を伝えているのがわかる描写がある。
不二咲にとって力があって逞しい大和田はコロシアイ関係なく憧れの存在なので不二咲がカミングアウトしようとすると大和田から、になるのは当然だろう。本編ではそのカミングアウト後に大和田に殺されてしまったが、平和な世界ではその悲劇は起きていない。

しかしここで一つ気になるのは大和田はそのカミングアウトを素直に受け止められたかである。たしかに本編ほどの悪夢にはならなかったが平和な世界だからといって楽観視出来るほどでもないと個人的に思っている。結果的には写真で笑いあったり、育成計画系列で相談役になっていたりを見るに上手く行ったのだろうけれど、不二咲から打ち明けられた大和田があのサムズアップした笑顔の立ち絵とギャハハ笑いのパートボイスで素直に「そうか!じゃあオレも協力するぜ不二咲!」と言えるイメージはあまり沸かない。

嫉妬して我を忘れて暴力をふるい殺してしまうほど追い詰められていたのは江ノ島のせいだが、不二咲の「嘘に逃げる自分」を乗り越える姿勢が大和田を突き刺すことは極限下でも平時でも変わらない。本編のような逆ギレはないにしても、乗り越えようとする不二咲を羨み気まずくなる、くらいはあったと思う。

ただ本編と違って相手を殺してしまうという取り返しのつかない状況ではなく、本人の努力、あるいは周りの協力で大和田はこの嫉妬を乗り越えたのだろう。この嫉妬を乗り越えるには彼自身の嘘と強がりを解決するのは割と不可欠なので、自分はこれらを加味して学園生活での大和田紋土は兄の死によって始まった嘘によるコンプレックスを解消していたと捉えている。

不二咲の姿を見て己を顧みたのか、石丸や苗木と弱音を吐ける関係になれていたのか、そのあたりは流石に空想が過ぎるが少なくとも大和田紋土はコロシアイ学園生活では乗り越えられなかったそれを超克出来たはずだ。
再度ハピロン時空の話になるがこちらでも兄の大亜が死んでしまったのは恐ら揺るがなさそうなのだが会話の随所にその重荷を外せたような匂わせが感じられるので環境次第ではそれを乗り越えられるというのは間違いないだろう。

そもそもチャプター2の恥ずかしい秘密や過去を江ノ島がどこから仕入れたのか、となった時江ノ島のスペックなら独自調査で手に入れることも不可能ではないがそれよりも本人の口から聞いた方が可能性としては高いと思っている。不二咲や大和田の過去をモノクマが語る際は本人達の気持ちにも触れており、これは彼女が調べたとて本人が口を割らない限り知り得ないはずだ。それこそエスパーでもなければ。そして何より本人が乗り越えて告白した秘密で本人を殺すほうが江ノ島好みの絶望だ。

これらの点を加味しても大和田は兄の死と己の嘘を乗り越え、皆に打ち明けていたのだと思う。
石丸との関係もだが本来余裕のある環境で時間を欠けて悩んだりぶつかったりしながら関係を構築していくところをコロシアイという環境下で急促進させられた煽りを大和田はかなり受けている。

大和田と不二咲が桑田を交えて屈託のない笑顔で笑っているあの写真は二人がかつてはコンプレックスを乗り越え、強さを手にしていたことの証明だったら良いなと、そう思わざるを得ない。

終わりに

というわけで以上になる。大和田の魅力を語るつもりだったのだが結果としては大和田の傷をえぐるような記事になってしまって彼には申し訳なく思う。こればっかりは彼に殴られても文句は言えない。殴るなら万代大作の見ていないところでお願いしたいところだ。

だが彼の日常生活における頼れる強い男と抱えている弱さが表裏一体のようで紙一重であること、そしてもしかしたら弱さを乗り越えられていたかもしれない可能性の示唆があること。これらこそが大和田を魅力的なキャラクターたらしめていると自分はここに断言したい。

余談にはなるがハピロンでは大門達希望の戦士を気に掛ける大和田が見られる。虚勢ではない兄貴分としての振る舞いを見られるだけではなく、彼の家庭事情がよろしくなかった大和田が同じく家庭環境の悪い子供に手を差し伸べているという構図がかなり好きだ。
後は茶柱との関係に悩む不二咲にアドバイスしたり、バイクで走りたいけど音が他のメンバーに迷惑じゃないか悩んだりこの男余裕さえあればかなり気の利く回せる面倒見の良い男なのだ。兄ほどの器量はないのだろうけど、彼の「超高校級の暴走族」という肩書のすべてが嘘ではなかったと自分は思っている。


さてこれを読んでくださった方がどんなコトダマを構えていて、文字が黄色く見えているか青くみえているかは判らないが読んでくださったことに心よりの感謝を。

ダンガンロンパという作品についての感情を改めて整理したくて筆を執ったが結構楽しかったので今後も気さえ向けば色んなことを主観と偏見で語っていきたい。

それでは。

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