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暗黒労働おとぎ話 『ヘンゼルはグレてる』

あるところに、田中 辺是流(ヘンゼル)という
キラキラネームの男の子がいました。

キラキラネームが珍しくもない昨今、高校生のヘンゼルは友達の明日(トモロウ)くん、騎士(ナイト)くん、彼女の雲母(キララ)さんらと、楽しい学生生活を送っていました。

大学は、目標のMARCHレベルの大学に入学できました。
(※MARCH: 明治、青山学院、立教、中央、法政大学の頭文字をとった関東の難関私立大学)


人生順風満帆と思っておりましたが、就活が始まる3年生になり、自分の名前が少し不安になりました。

学生のうちは、名前のことでとやかく言われなかったものの、社会人になると、ヘンゼルという名前は通用しないかもしれない。

道端に落ちていた、知らない会社の営業マンの名刺を見て「⚪︎⚪︎産業株式会社 営業部 田中 辺是流(ヘンゼル)」
という将来の自分の名刺を想像したら、マズい気がしてきました。



大学まで、難なく卒なくやってこれた田中ヘンゼルですが、就職活動は惨敗。

110社にエントリーし、うち、最終選考までいった数社も、最後の最後で「お祈りメール」という結果に終わりました。

今まで頑張ってきたのに、名前のせいで全て台無しにされている気がしました。


大学は卒業したものの、進むべき道を見失ってしまったヘンゼルは、就職出来なかっため、グレました。





ヘンゼルがグレてるらしいぞ」

地元で噂が広まると、それを聞きつけた友達や、あまり縁のなかったヤンキー達が、街のアーケード商店街で声をかけてきました。


ヘンゼルは自暴自棄になって、ヤンキー友達と毎晩飲み明かしていました。

ある晩、ヘンゼルは、キャッチに連れられ、おかしなぼったくりの店に入ってしまいました。

ヘンゼルは、そこで請求された30万円が支払えなかったので、怖い人たちにボコボコにされて、店の裏のゴミの山に捨て置かれてしまいました。


早朝、上品なおばあさまがゴミ山の前を通りがかりました。

ヘンゼルに心惹かれるものを感じたお婆さんは「私が30万円を支払うから」代わりにヘンゼルに、自分の「日常のサポート」をしないかと持ちかけました。


"街で見かける怪しい求人「リッチな女性の日常サポート」"ってやつか。
本当にあったんだ。そんな仕事。


ヘンゼルは、金がないので、おばあさんの提案に従うしかありませんでした。



実は、おばあさんの正体は、美魔女の実業家。
海外の会社と取引をする会社の社長だったのでした。

おばあさんは「人を見る目がある」人間でした。

その洞察力は、『ガラスの仮面』の月影千草のごとく、天才的なものでした。

田中ヘンゼルを見て、一瞬で「この子なら、出来る」と思い、立派な会社員として育てることにしたのです。



もともと海外留学経験もあり、英語が得意でTOEICスコア740のヘンゼルは、おばあさん社長の秘書とはいかないまでも、アシスタントとして、仕事を頑張りました。


やがて律儀に仕事をしたのが評価され、彼は希望していた営業部に配属されました。




今、彼の名刺には、こう書かれています。

「 Hansel Tanaka

 Chief 
 Sales Promotion Department 」
  



田中ヘンゼルは、キラキラネームから、ミックスとか日系人っぽい表記になることで、親のかけた呪いに勝つことが出来たのでした。




めでたし、めでたし。




※このお話は、ゴミ山で捨てられた人以外、フィクションです。

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