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売春の非犯罪化から16年、スウェーデンで起こっていること

2015年のMICの記事の抄訳。

売春は本質的に搾取なのか?それとも、ステークホルダー全員の自由と平等の最大化のため、改善の余地があるだろうか?

欧米諸国はこの問いに何年も取り組んできた。売春が規制されていない場合、セックスワーカーにとって危険であることは広く理解されているが、労働者を保護し、エンパワーするためにこの産業を改革することができるのか、それとも完全に廃止すべきなのかについては、議論百出である。

改革のプロセスの中で、欧州のいくつかの国では、これを合法化し、職業として標準化しようとする動きが見られる。2001年、ドイツでは、セックスワーカーを他の産業の労働者と同様に扱うことを義務付ける法律が成立し、これによりセックスワーカーは賃金改善を訴えることや、健康保険・年金などの福利厚生を十全に利用できるようになった。しかし、今日でもドイツでは虐待や性的人身売買が深刻な問題として残っている。セックスワーカーの供給過多は、賃金を引き下げ、労働水準を低下させた。国内の風俗店は活況を呈している。2013年、ドイツの雑誌『シュピーゲル』は、善意の法律を厄介な "ポン引きへの補助金プログラム "と表現した

スウェーデンを筆頭とする北欧諸国の中には、性産業廃止のために従来とは異なる方法を模索した国もある。ドイツが売春を合法化する数年前に、スウェーデンは、売春は犯罪とみなされないが、買春は犯罪とみなされるパラダイムを作り出した。この非犯罪化モデルは、人身売買と売春の減少という大きな結果をもたらしたが、そこに論争がないわけでもない。

スウェーデン性売買法が施行されて以来10年半の間に、売春と人身売買は劇的に減少した。スウェーデン法務省によると、国全体の売春は完全に半減した。スウェーデンにおけるセックス購入のコストは、欧州で最も高いと推定され、セックスワーカーは、売春が合法であるアムステルダムよりも組織化されていると言われている。この法律がセックスワーカーに対する暴力の増加につながるという懸念は、2010年の政府報告書において、そうした現象が起きている証拠はないと示唆されたことにより、緩和された。

「北欧モデルは単なる法律ではなく、包括的なパッケージです」と、国際的な売春法について幅広く執筆しているジャーナリストのメーガン・マーフィーは、Mic宛のメールの中で書いている。「強力な福祉国家、業界を離れたい女性のための離職支援、警察官の再教育、売春婦は犯罪者ではなく被害者であることを理解させるための指導・公教育などが含まれています」。

スウェーデンが売春や人身売買の減少に成功してから約10年後、ノルウェーとアイスランドがスウェーデン・モデルを採用した。
その根拠:スウェーデンの近代的な売春に関する法律は、原因に関する特定のフェミニズム的視点、すなわち「売春の存在はジェンダー不平等の産物であり、その性質上、女性を暴力的に商品化する」という解釈に根ざしている。政府は、売春を、例外なく従事者を犠牲にする取引であり、したがって男女平等の社会では成立しないとして、立法技術を転換させた。

スウェーデンのジャーナリスト、カシャ・エキス・エクマンは、『Being and Being Bought: Prostitution, Surrogacy and the Split Self』の中で、この法律の起源を、1970年代にスウェーデンで行われた、セックスワーカーのナラティブという新しい視点の調査に見出している。

この研究は、タブーを超えて、売春の実際の社会力学に焦点を当てるという野心という面で画期的なものだった。Herizons誌(印刷物のみ)に掲載されたマーフィーによる2014年のレポートによると、「研究者や女権活動家、ソーシャルワーカーは、これまでのように売春を道徳的逸脱の問題としてアプローチするのではなく、社会的不平等に焦点を当てるよう対話をシフトさせた」とある。

独断的に聞こえるが、スウェーデン・モデルの支持者たちは、抽象的な原理ではなく、「ほとんどのセックスワーカーはその立場にあることを望んでいない/むしろ虐げられる立場である」という経験則に基づき議論している。ある研究によれば、セックスワーカーの89%が「性産業を離れたいが、生きていくために他の選択肢がない」と答えている。また、ストックホルム大学の博士学生マックス・ウォルトマンは、2/3が「PTSDのベトナム帰還兵、拷問やレイプの被害者相当」の心的外傷後ストレス基準を満たしている、と指摘している。北欧モデルの支持者は、崇高な理念に反して、セックスワークの合法化によって人身売買が増加することを示す研究の存在を指摘している。

「北欧モデルとは、単に法律を変えるだけではありません。文化を転換するという発想でもあります。法律的なアプローチだけでなく、文化も変える必要があります」と、マーフィー氏はMicに語っている。「北欧モデルとその支持者は、お金を払ったからといって、男性が女性や少女の体にアクセスする権利はないということです」。

批判:スウェーデンの経験は全面的に賞賛されているわけではないし、批判も多い。ネイション紙の調査によると、セックスワーカーが法的に被害者とみなされる社会では、警察に捕捉された場合、より苛烈なスティグマに直面することがわかった。スウェーデンの刑事司法制度はセックスワーカーを保護すべく設計されているにもかかわらず、警察や家主との関係にはトラブルがつきもので、子どもの親権などの問題いつも逼迫している。

スウェーデンの現役セックスワーカーで、性産業組織「ローズ・アライアンス」のナショナルコーディネーターであるパイ・ヤコブソンは、労働者の搾取は売春に限ったことではなく、他の産業と同様、仕事の経験は千差万別だということを忘れてはいけないと、Micに語った。

すでに疎外されている集団に汚名を着せ、「見ろ、お前の人生はゴミだ、だから辞めろ」という態度を取ることが、あなたがたの辞書では進歩だというのか、とヤコブソンはMic宛のメールに書いている。「ここスウェーデンでは、かの人たちはそれをフェミニズムと呼んでいます。“すべての女性”が自分の体について選択の権利を持ってなどいないのが明らかです」。

スウェーデンの現行モデルよりも非犯罪化を支持するヤコブソンのキャンペーンは、法律が言うほど有効ではない(セックスワークは地下に深く潜るだけ)という確信と、女性の主体性、「私の体は私のもの」を奪ってしまうという思想に支えられている。

スウェーデンでは、売春は家父長制の最も残忍なあらわれであるという信念が、金銭授受を伴うセックスについて、男性に責任を負わせ、女性を透明化する一種の父権主義を生んだ。それは、金銭とセックスを交換する際に、男女が対等なパートナーであるためのグレーゾーンの可能性を排除してしまう。顧客と安全な関係を主体的に実現できているセックスワーカーたちが、不満を抱くのは当然だろう。しかし、性産業における人身売買や暴力の偏在が示すように、現在のような世界でそうした絵を描き、守ることが容易であるとは言い切れないのだ。

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