Opinion|TikTokで#Abortionタグを解析した結果

2022.10.19 ワシントンポストの記事抄訳

私たちは、2022年1月から9月にかけて、TikTokでバズった#Abortionのハッシュタグ付きの1000本以上の動画を収集しました。閲覧数トップ100のうち、66本がプロチョイス、11本がプロライフでした。それ以外の投稿は立場を明確にしていないものです。

これらの動画は、複雑な社会・政治的議論がプラットフォーム上でどのように展開されるかを垣間見せてくれるよくできたティザーです。
例えば、ある投稿は、政治的な主張をキム・カーダシアンの画像でラッピングして見せています。
また、露骨な内容や、簡潔かつ身も蓋もない言葉でポイントを突いた投稿もあります。こうした主張が、私たちの政治的分断を煽っているのかもしれません。

今年6月、最高裁がロー対ウェイド判決を覆してからというもの、アメリカ人の中絶に対する関心は以前より増しています。
Google TrendsのデータTVニュースの追跡、世論調査のすべてが、ここ数年の中でも類を見ないほど、リプロダクティブ・ライツについて語る人々の姿を確認しています。

しかし、私たちみんなが同じ議論を見ているわけではありません。ベビーブーマー世代なら、Facebookのフィードやケーブルニュースチャンネルを通じて中絶の話題に触れることもあるでしょう。Z世代はTikTokを開いて、スマートフォンの画面を飛び交うニュースソースから情報を得ている可能性が高くなります。
そこで、アメリカのTikTokユーザー(半数は30歳以下)が見ているものを理解するために、#Abortionタグの付いたバイラルでエンゲージメントの高い動画を1000本以上集めて、統計情報と視聴の両面から分析しました。

大きく二つの発見がありました。一つはプロチョイスがプロライフより再生回数が多いこと。もう一つは、このプラットフォームが分断を煽る装置として、ほぼ完璧に設計されているということです。

中絶の議論は、判決が覆されるよりはるかに以前からずっと、TikTok上で繰り広げられていました。
「Abortion」タグが付いた英語話者の動画は、全世界で合計1,050本、のべ18億回もの再生を記録しています。

「#Abotion」トレンドの始まりは、保守派の判事、エイミー・コニー・バレットの最高裁就任のようです。
テキサス州で妊娠6週以降の中絶が禁止された時、TikTokは「#Abortion」の動画で溢れ返りました。多くはステレオタイプの政治的主張ではありませんでした。例えば@thatnurserachaelというユーザーは、看護師としての腎臓移植の経験により、生命の始まりについての見方が変わった、と語っています。

半世紀近く、アメリカ人女性の中絶の権利を守ってきたロー対ウェイド判決の結果がリークされ、「#Abortion」の投稿は再び爆発的に増加しました。
2800万回再生を記録した、TikTokで最も観られた「#Abotion」動画は、
ケーブルテレビのクオリティの足元にも及ばないシンプルな内容です。(全米家族計画連盟の元幹部、アレクサンダー・サンガーに街角でインタビューしただけのもの)

中絶問題の基本的な「型」は皆さんもご存じでしょう。保守派は「生命は受胎から始まる」、リベラルは「中絶は女性の権利であり、中絶を禁止すれば悲惨な結果を招く」と主張しています。

しかし、TikTokにおける議論は独特です。TikTokでは、他のユーザーのクリップを「Stitch」することができ、投稿者は他のユーザーの投稿に対して、ピンポイントで攻撃することができます。
私たちの分析では、プロチョイスの投稿者は、プロライフの投稿への反論としてこの手法を用いることが多い一方、プロライフの投稿者同士のエンゲージメントは低いということがわかりました。

TikTokは基本的に、短く、そして面白い動画が延々と流れ続けて、目が離せない仕様になっています。ユーザーはエモーショナルな発信やユーモアに富んだコメントをし続けるよう誘導されます。それは悪いことばかりではありません。中絶はしばしば感情的なトピックであり、気持ちのままに語ることが適切となる場合もあります。

しかしその結果、互いに真摯に向き合った対話でなく、感情的なインパクト頼みの議論が多くなります。

さらに厄介なのは、虚偽の、あるいは不快な投稿をすべて検出できるだけのリソースを有した企業が存在しないということです。プロライフの投稿には、ミスリードな表現や画像を用いたインフォグラフィックを作成し、プランBや緊急避妊と後期の中絶を混同させるものがありました。プロチョイスのユーザーには、下品な言葉で聴衆の感情を煽る人間もいました。

@michaelrapaport

Rape in Texas? Who cares! Incest in Texas? STFU. Texas we have a HUGE problem. #abortion #texas #rapaportrants #rapaport

♬ original sound - michaelrapaport

ソーシャルメディアの研究者やデータジャーナリストが巧みに立証してみせた通り、TikTokのアルゴリズムはユーザーをトラッキングし、好みを学習することによって、大量の投稿を効率的に配信します。このアプリは、政治に関心のあるユーザーの党派性や過激さを確実に悪化させるものです。

結果として、議論は二極化し、憎しみに満ちたものとなっています。リベラル派は保守派を攻撃し、保守派は聖歌隊に説教をし、アルゴリズムが人々をエコーチェンバーに誘導するのです。
そして、ひとたびTikTokが現実世界を侵食すれば、テキサス州の中絶サイトのクラック最高裁判事の個人情報晒しなど、その戦術は露骨極まりないものになります。

理想的な使い方をすれば、TikTokのユニークな特徴(高い感情的インパクト、他のユーザーとのビデオ討論を可能にする機能)は、政治的な言説に改善の機会を提供するものとなりえるでしょう。一部のユーザーにとっては、実際にそうであるかもしれません。TikTokは間違いなく、Z世代のアクティビズムのエンジンになっています。

しかし、私たちは理想郷に住んでいるわけではありません。
Z世代に人気のプラットフォームは、さらなる分断をあおる装置となってしまうのかもしれません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?