見出し画像

今で言うスーパーコミュ障おじさん

・FF内で見かけて矢も盾もたまらず書いた。白饅頭noteの影響も多々。

・Aセクです。
・といっても、私が青少年の頃には、しかもど田舎にはそんな概念なかったので、年頃になったらするもんだという慣例に従いセックスはできます。嫌悪感はない。なんも思わないけど。これは男性だったら無理だろうなという感じ。
・まあ、したいものではない。本当になんも思わないし。

・恋愛感情もない。独占性愛契約、理解できない。「人が嫌がることはしてはいけません」の規範に則って、まあ積極的にはしない、という感じ。
・私は私を優しい人間だと思うよ。

・大学のころ、mixiの「友達」に今で言うアルファアカウントがいた。書き言葉のセンスが半端なくて、めちゃくちゃファンも多かった。私もファンの一人だった。その人の日記が更新されてないかな、と、毎日楽しみにしていた。
・当時でたぶん40代半ば〜。仕事内容は詳しく書かれてないけど警備とか駐車場のおじさんとかそういうあれ。シフトはきつそうだった。もう十数年前やのに、今でもいくつかのフレーズははっきり思い出せる。教育レベルのほどは知らんけど、「ウィットに富んでいる」というやつだったと思う。
・日記にまめにコメントをくれたりした。私もした。きっとファンに囲まれて、いろんな人とメッセージのやりとりとかしてるんだろうなと勝手に思っていた。真実は知らない。もう知る由もない。
・ある時、ご家族の具合が相当芳しくない(ありていに言えば先が長くない)というような日記をその人が書いた。急に発覚したみたいな感じだった。仕事を辞めて駆けつけなければならなそうな空気を漂わせていた。はっきりとは書かないけど色々のことが伝わってくる書き方ができる人だった。叙情的だし、滑稽劇のようでもあった。
・私は彼の言葉が本当に好きだった。

・少しして、私からその人に稀覯本譲りますみたいなことになって、リアルで会うことになった。
・11月で、寒い夜で、新宿の桂花ラーメン(以前話題になったことがあって)で、その人は昔のスキーウェアみたいなピタピタの青いダウンを着て、サビ猫みたいな毛糸の帽子をかぶっていた。やせて、背が高く、細かな髭がびっしり生えていた。
・ネットで話しているときは湯水のように出てきた言葉が、対面では本当に少なかった。あまり目も合わせてくれず、若い娘さんの前にこんな姿を晒してすまない、みたいなことを、何度か違う言い回しで言われた。
・らくだみたいな目をしていた。
・そんなことないですよ、と、言ってもなんの意味もないことを知っていた。話せるだけのことを話して、油っぽい中華そばのラーメンをすすった。
・店の中がとにかく赤かった。

・なんせアルファだし、あんなにこまめにコメントをくれる人だし、きっとたくさんのファンとウェイウェイしてるんだろうと思っていたけど、あの物腰を見るだにほとんど人と会うことないんじゃないのかな、と思った。私から会いたいと言ったし、会えて喜んでいたから、すまなそうにしているのが本当に気になった。
・コミュ障、なんて言葉すらなかった時代のことだ。
・もしかして無理やり引っ張り出してしまったんだろうか。めちゃくちゃ負担になってるのでは。と思い始めたくらいの頃に、ラーメンが尽きて別れた。
・地下鉄に乗る人と小田急に乗る私は正反対で、店の前で別れた。
・大きく手を振っていた。

・程なくして、いよいよのっぴきならなそうな、遺書みたいな日記が上がった。
・お別れだと思った。
・相互になって、一年と少ししか経っていなかった。一度だけ自分の誕生日がきて、メッセージをもらった。
・「誕生日おめでとう。健やかに。」
・めちゃくちゃ美しいなと思った。出過ぎず、遠巻きでもない。私はこの言葉を今でもいろんな人の誕生日に贈っている。こんなに絶妙なフレーズはそうないと思う。
・元気でいてくださいねというようなことを書こうとしたけど、書けなかった。元気でいられそうな前途を感じる日記ではなかったから。
・また会いましょうとか、生きていてくれればいいとか、幸あれとか、もう何を書いても余計だと思った。
・「健やかに」すら効力を失う。無敵のエンパワメントだと思ったのに。
・ファンになったのはたった3行の短い日記だったんだけど、今でもあれよくおぼえています、みたいな、だからなんじゃい的なことしか書けなかった。どうにかそれだけを記した。
・数日後、アカウントが消えた。

・生きていてくれたらいいな、と思っている。でも、生き地獄みたいな日々を過ごしているくらいならその限りではないな、とも。
・Aセクなので、恋うという気持ちはわからない。独占したいみたいなこともわからない。
・ただ、すごく幸せを願ったなという記憶がある。この感情を名付けられる人はいないだろうな。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?