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第1回 ハフサット・アビオラさん(ナイジェリア)

この内容は、2016年11月30日(水)に行われた、「7million Actions and Prayers」という平和を祈るイベントでハフサットさんが話した内容を翻訳し、まとめたものです。

「7million Actions and Prayers」は、人種や宗教を超えて世界の平和のために活動している人や団体、および、世界の平和を祈れる人、700万人のネットワークを作ることを目的にスタートしました。

ハフサット・アビオラさんはナイジェリア出身で、アフリカの真の民主化の実現を目指して活動する民主化運動家です。ナイジェリアの民主化運動を先導した亡き両親の意思を受け継いで、20年にわたり一貫して活動を続けています。

ハフサットさんが公益財団法人五井平和財団の2016年の五井平和賞の受賞式のために来日したのを機に、このイベントが実現しました。

以下、講演内容============================

今日はお越しくださってありがとうございます。

今回の来日は2日間という日程でしたが、この特別な時間に、私は休息をとることができました。この会は、今回の日本滞在の最後のイベントです。この会が終わったら、私は空港に行ってナイジェリアに戻ります。

今日はナイジェリア、いえナイジェリアを含むアフリカ大陸での私たちの挑戦とその美しさについてお話ししたいと思います。

ナイジェリアについて、まずご承知おきいただきたいことは、日本とはなりたちが違うということです。日本は、常に「日本」という場所としてありましたが、ナイジェリアは違います。

ナイジェリアは、ヨーロッパ諸国、とくに西欧の国々が19世紀に膝を突き合わせて、「ドイツはここをとれ」「フランスはここをとれ」「イギリスはここだ」「スペインはここを」「ポルトガルはここをとれ」と、アフリカ大陸に彼らの都合に合わせて勝手に国境線を引いて作った国々の中の1つです。

その際、西洋諸国は「アフリカ大陸の人々の文明化はとても遅れているから、私たちが助けよう。私たちはもっと発展しているから、私たちが統制すれば異なる民族でも仲良くやれるだろう」と言ったわけです。

そして何十年か経ち、私たちは西洋諸国が私たちを発展に導くどころか、何か資源が見つかると「そんなものがあったのか。それは我々がもらおう。我々に必要だったのだから」と次々に収奪・搾取してしまうという現状に気づきました。そこで、アフリカ諸国は「もうけっこう。自分たちでやっていきます」と独立したのです。しかし独立をすると、問題に突き当たりました。

日本では1億2000万人の人がいて、そのほとんどの人が日本人です。一方、ナイジェリアには1億8000万人がいて、5千万人はハウサ人という人々、3千万人がイボ人、3千万人がヨルバ人、そして残りを何百もの民族で占めるという構成になっています。

日本で何か意思決定をするときには、座って話し合えば、何かを決定することはできるでしょう。それは、言語が共通していて、理解する内容も、文化も、歴史背景も共通したものを持っていて、価値観が近いからです。

しかし、私たちナイジェリア人が意思決定をしたいと思って、座って話し合う場合、まず英語で話し合わなければいけません。英語以外に共通言語がないからです。

文化も、歴史的背景も価値観も違うため、同じことを話したとしても、ヨルバ人とハウサ人とイボ人等、それぞれで違った理解や受け取り方をします。そのため、常に諍いごとが持ち上がり、なかなか合意に至れません。

そういった諍いを繰り返すうちに、ナイジェリアの軍人は
「国は分断されている。しかし、軍は国に1つであり、それぞれの民族から軍人になる人がいて、軍は統制がとれているのだから、私たちが政権を取るべきだ」
と、考え始めました。そして30年以上、軍事政権がしかれたのです。

1960年に独立して軍事政権に変わるまでの間は、ナイジェリア経済は部族間で問題が起こりつつも成長していました。しかし軍事政権に変わると、経済はどんどん悪化しました。

そして30年たつと、経済が悪化しているのにもかかわらず、すべての人が政府に対して、「政府はうまく国を運営できていないのではないか」と疑問を投げかけることすら、恐れるようになってしまいました。

そんななか、私の父(モシュード・アビオラ)は立ち上がりました。私の父は軍人ではありませんでした。彼は優秀な会計士で、スコットランドで国際的な資格を取り、世界4位という成績を収めてビジネスマンになった人です。非常に成功した人でした。

しかし、もともとは貧しいイスラム教の家の出身で、キリスト系の学校で教育を受けた人でした。
彼は人間を愛していました。
彼はヨルバ人の人々を愛していました。
彼はイボ人も、ハウサ人という北部の人々も愛していました。
彼はすべてのナイジェリア人を愛していましたし、すべてのアフリカ人を愛していましたし、すべての黒人を愛していました。

だから、南アフリカのアパルトヘイトを廃止するために資金援助をし、他国の軍事政権を終わらせるために支援し、アメリカに行って様々な大学に進学する黒人のための奨学金を創設しました。
世界の人々は黒人を、「底辺にいる人」として見なします。しかし父は、黒人は他の人と対等な存在だと信じていたのです。

そしてナイジェリアでは、父は起業支援を行い、建物を建て、学校を設立しました。そうやってナイジェリアのために働く父の目には、政府が国を駄目にしているように見えました。そこで、彼はこの状態を止めようと考えて、官職につくことに決めました。

そして、大統領選挙で勝ったのです。

この勝利を、軽く見ないでいただきたいのです。

ナイジェリアの中で、私たちヨルバ人は南西に住んでいます。3千万人ほどの人口がいます。北部にはハウサ人が住んでいて、5千万人ほどの人口がいます。父の対立候補はハウサ人だったのです。

父は出馬した後、まずヨルバ人の住む地域で選挙に勝ちました。別の民族が住む、南東の地域でも勝ちました。そして、北部に行き、なんと対立候補の住む通りでも勝ったのです。

私は、この決断をしたナイジェリアの人々を誇りに思います。この、西欧諸国が彼らの利益だけを考えて人工的に作った国で、人々がある日目覚めて、力を合わせて国を発展させようと考え、民族の違いを超えて一人の人を選んだのですから。

想像してみてください。

何らかの恐ろしい、狂った力によって、中国の1/3、韓国の1/3、日本の1/3が強引に1つの国にさせられ、そこで生まれるいざこざにあなた方は長い間苦しんでいたとしたら。そして、ある日、あなた方がこの「国」を発展させるために、誰かひとりを選ぶとしたら。私たちにとってはそんな状況だったのです。

しかし、軍事政権はその選挙結果を認めず、父を投獄しました。そこで私の母は、軍への対抗勢力を組織し始めました。

そのとき、私は大学生でアメリカにいました。

私は大学で、そしてアメリカ国内で、カナダで、イギリスやヨーロッパで、ナイジェリアの人々を、お金儲けを目的とするのではなく純粋に人々を助けることを目的として支援する人々を組織し始めました。

それに対して軍事政権がしたことは、私の母を殺すことでした。

NYに行ったことがある人はいますか? NYはとてもすごい場所です。
東京に似て人も建物も多い場所ですが、NYの人々はとてもユニークです。

私はその年の1月にNYに行って、NY市政府の人々と会談していました。そして6月、半年後に母が殺されたのです。

その時、NY市政府は「彼女の娘はここにいる。私たちは彼女を無駄死にさせることはしない」と発表しました。そしてNY市政府や人々は、「NYにはネルソン・マンデラの名にちなんだ通りがあるのだから、あなたのお母様の名前にちなんだ場所も作っていいはずだ」と、東45ストリートの2番街、ナイジェリア領事館のある角に、クディラット・アビオラ・コーナーという名前をつけました。

http://naijagists.com/kudirat-abiola-corner-new-york-street-named-after-nigerian-woman-mko-abiolas-wife/

これは、軍事政権にとって
「彼女を殺すことはできても、彼女の意志は死なない」
という警告になり、ナイジェリアの人々にとっては
「私たちは民主化のために戦うナイジェリアの人々を支持します」
というメッセージとなりました。

こういった活動が3年の間に大きなムーブメントとなり、国際的なうねりとなった結果、ついに軍事政権は撤退以外に道はないと、彼らは政治犯の釈放を決めました。そして、彼らは父の釈放を待つ私に、彼の遺体を返したのです。

私たちがナイジェリアをより良い国しようとするときに、一番大きな課題となるのは、「いかにして権力や富を欲する人々を退ければいいのか」ということです。アフリカへの愛の力で行動する人々とともに行動するのには、大きな障害があるのです。
そして、それはナイジェリアだけの問題ではなく、アフリカ大陸全体に言えることです。

おそらく、アフリカは世界で最も豊かな大陸です。金、ダイアモンド、銅、原油、天然ガス……。希少鉱物のなかで、アフリカにないものはないと思います。冬や秋は、南アフリカにしかなく、その他の場所では一年中、美しい天気に恵まれています。2期作ではなく、2毛作ができるほど肥沃な土地もあります。私たちは、とても恵まれているのです。

だからこそ、権力や富を欲する人がいれば、アフリカでは簡単に手に入れる方法があります。ダイアモンドも、金も銅も原油も、どんな地下資源もコントロールしうる環境にあるのですから。

そうやって権力や富を欲する人がいるので、私たちが普通のアフリカの人々を愛し、助けたいと思って行動すると、大きな抵抗にあいます。なぜなら、そういう人々にとっては私たちは、権力や富を得る可能性を潰す存在、つまり彼らの「脅威」だからです。

大きな道のようなものがあると想像してください。

多くの人がその道を行きたいと思っても画策しています。なぜならその道は、貧しい人々を搾取することで、富を隠すスイスの口座やプライベートジェット、南仏の別荘などを持てるような巨万の富を素早く得るための、高速道路のようなものだからです。
富や権力を欲するアフリカ人がその道に殺到するだけではなく、おこぼれに預かりたい外国人もそういった人々を支援します。

そして、私の想像の中には、小さな道もそこにあるのです。

その道は未舗装で、立派な高速道路とは程遠い道です。非常に多くの人が大きな高速道路のような道に殺到する中、私はその小さな道の脇に立って、「こっちの道に来ませんか」「私と一緒に行きましょう」と、声をかけるのです。「私と一緒に、こっちに来て」と。

もう500年も経っているのです。
(翻訳注:ヨーロッパに大航海時代が到来し、アフリカの西欧諸国からの搾取が始まったのが、15世紀末のこと。)
私たちは多くの人から搾取されてきています。

もう十分です。今こそ、別の道に行きませんか。私と一緒にいきませんか。そして、アフリカの人々のために、別の道を開きましょう。その大きな道では、私たちは発展を見込めません。その大きな道は、一見魅力的に見えるかもしれませんが、希望はそこにないのです。こちらに来てください。

人々への愛をもって立ち上がり、美しいアフリカ大陸を作り上げようではありませんか。私の支えとなってください。

そう、声をかけるのです。

これは、権力や富を愛する人々にとっては考えられない誘いです。なぜなら、私が誘う道には、「お金を得る方法」はないからです。お金は今すぐには得られず、将来的に得られるものだからです。

私たちがこの道を作り上げれば、おそらく子供の世代は、この道でお金が生み出せるかもしれません。でも、今現時点では、スイスの銀行口座も南仏の別荘も、そこからでは得られないのです。

しかし私たちはこの小さな道に立ち、優しい人々とともに波紋を起こしています。私たちは貧しい人々に尊厳ある暮らしをもたらしているのです。

世界の人々は黒人を、「底辺にいる人」というように考えています。
(翻訳注:黒人差別の一因には、西欧諸国が黒人の部族同士を徹底的にいがみ合わせ、奴隷貿易に積極的に協力するように仕向けたという歴史的事実や、「黒人」と言っても文化も言語もまったく違う様々な民族・部族がいるという事実を知らずに、「お金のためなら仲間を売っても構わない民度の低い人間」とみなすということがある。)

でも、私は、私たちを世界のどの人々とも対等な人間だと確信しています。だから、一緒に来てくださいというのです。

富や権力を欲する人々は私を見て、
「馬鹿な娘だ。彼女は富や権力を得る機会をいくらでも持っているのに」
と、私の話を聞きません。

そんなとき、五井財団が、遠い日本という国から私を見出して賞を与えてくれました。すると彼らは立ち止まり、
「もしかすると、彼女は馬鹿じゃないかもしれない」と
考えるかもしれません。

私たちの仕事は常に孤独でとても困難なものです。五井財団は私に活動を振り返り、休息を取るための2日間を与えてくれ、この大切な仕事を続けるための勇気を与えてくれました。両親に代わって、感謝します。

私は命についてこんなイメージを持っています。私たち人間が、こうやって人間として生きているのは、何か「究極の存在」の一部、イメージとしては星のようなものが
「”何か”をやりたい」「地球上で”何か”を経験したい」
と決意して地上に舞い降りてくるからではないかと。その舞い降りてきたものが「魂」になるのではないか、「魂」が「肉体」を得て人間になるのではないかと思うのです。

本当に「魂」の求めるものをやっていると、不思議と、何か「究極の存在」を感じられます。私は一人で庭にいる時にも、不思議と太陽、風、植物、私を取り巻く全てのものがエネルギーを与えてくれるように感じます。

私は、何か意思決定をする時には、「魂」がそれをどう感じるかで決めます。

例えばそれが「魂」と相容れないものだったならば、どんなにお金を積まれようが、受け入れません。そこで受け入れてしまえば「究極の存在」を感じることはできなくなりますし、それを感じることは、私にとってプライスレスなものなのです。

私は、多くの人にナイジェリアの民主化を支援してほしいと思っています。でも、ナイジェリアを支えてくださらなくても、どうか、ご自分の「魂」が求めることをやってください。そうすれば、世界はもっとよくなっていくのですから。

聞いてくれて、ありがとう。

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