鉛筆と時計とリンゴ

お金のレンタル料『金利』とは?

 僕はツタヤに行くとよく思うのですが、ツタヤが客にDVDをレンタルし7泊8日で300円のレンタル料を得るのと、銀行が客に1億円をレンタルし365泊366日で100万円のレンタル料を徴収するのとではどう異なるのでしょうか?

 商品を貸し出してその対価を得るという点ではなんら変わりません。たまに金融業を批判する人がいて、そういう人は「金融は金で金を稼ぐ卑しい商売だ」と言いますが、ではDVDを貸すのはOKなのでしょうか。貸すものがDVDからお金に変わると怒る理由がよくわかりません。

 また、「金融はお金を右から左に流すだけ。何も生み出していない」と批判する人については、社会のみんなが大根やクロワッサンを生産してなきゃダメだと思っているのでしょうか。第一、「生む生まない」の話であれば、英会話の講師やマッサージ屋さんだって目に見える物は何も生み出さないですし、美容師さんにいたっては生み出すどころか逆に髪の毛を減らしている気がするのですが…。

★ 銀行は金利で人を差別

 冗談はさておき話を戻すと、ツタヤと銀行のレンタルには大きな違いがあります。それは、ツタヤはレンタル料が誰に対しても一定なのに対し、銀行は借り手を見ながらレンタル料を上下させるという点です。たとえば、ツタヤが、映画『ダイ・ハード』を借りにきたおじいちゃんに対価として100円をもらいながら、別のおじいちゃんに対しては500円を請求していたら大問題です。300円なら300円を誰に対しても一律に請求します。一方、銀行は同じ1億円を貸すにも、この人には100万円、あの人には500万円という風にレンタル料を変動させるのです。

 一般的に、お金のレンタル料は「利息(または利子)」と呼ばれます。そして、利息がいくらになるのか計算するために使われるのが金利です。元本(円)× 金利(%)= 利息(円)です。銀行はお金を貸すときに金利を上げ下げすることで、お金のレンタル料である利息を変動させます。同じ料金でDVDを借りるおじいちゃんたちも、銀行でお金を借りようとしたら違う金利になることもあります。銀行は人を見て金利を変えるのですから、これは明らかに差別です。

 社会から差別はできる限り無くすべきです。しかし、この差別に限っては仕方ありません。ひとたび、お金を貸す立場になって考えてみれば理解できるはずです。たとえば、あなたが自分の貯金を切り崩してお金を貸すとき、のび太とできすぎ君に同じ金利で貸せるでしょうか?あるいは、のび太みたいな人にばかりお金を貸している銀行に安心して預金できるでしょうか?

 僕は、同じ金利ならできすぎ君に貸したいですし、どうしてものび太に貸さなきゃならないとしたら、できすぎ君の3倍の金利をとった上で同居する野良猫に保証人になってもらうと思います。いや、自分は差別しない、誰に対しても平等にお金を貸せるという素晴らしい方。ぜひ僕にお金を貸してください。もちろん、あなたの銀行口座の普通預金と同じ金利(現在0.02%以下)をお支払いいたします。

★ ローン金利はこんな風に決まる

 銀行はお金の借り手を金利で差別するにあたって、色んな角度から借り手の返済能力を測ります。法人に融資する場合は、事業の概況や財務情報を分析し、どれくらいちゃんと返済できそうか見ます。外部に格付機関というものもありますが、銀行自身も独自に融資先を格付けします。

 格付は、大きなくくりで5段階評価です。そのランクによってローン金利のだいたいの水準が決まります。Sランク→1〜2%、Aランク→2〜3%、…、Dランク→5〜6%、Eランク→融資NG、といったイメージです*。銀行は1年に1回以上はこの格付を見直します。法人が銀行に自分の格付を聞いても銀行は教えてくれません。

 忘れてはならないのが、こういった審査では、財務分析などの定量的評価だけでなく、経営者の資質や会社の特殊事情などといった定性情報の評価も同時に行われるということです。そのため、同じ法人に融資するにしても、銀行の融資担当者の主観が入ること(要はさじ加減)によって格付結果やローン金利に差が出ても不思議ではありません。

 ちょっとした都市伝説ですが、融資担当者によっては、借り手がハンカチを常に携帯しているか、事務所のトイレの便座の裏がキレイかどうか、申請書類に誤字脱字がいくつあるか、靴がしっかり磨かれているかどうかなど、ややオカルトチックな細かいチェックを重点的におこない借り手の人柄を見たりするようです。借り手からすれば、どんな融資担当者にあたり、どんなチェックを受け、その結果どんな印象を持たれるのかはけっこう運次第なのかもしれません。

 なお、個人が相手だと、銀行は(住宅ローンを除く)少額のローンをちまちま時間をかけて審査していられないということもあり、職業や年収、信用情報などでざっくり色分け(差別)しながら、かなり安全に高め高めの金利を取りにいきます。現在、借金まみれの日本政府が0%(=無利子)でお金を調達できるほどの歴史的な超低金利環境ですが、それでも個人(普通のサラリーマンなど)が銀行のキャッシングやカードローンなんかで借金しようとすると、5〜18%ぐらいの金利を取られます。こうした個人には何らかの理由で突発的に大金が必要になった人も多いので、銀行は足元を見つつ、別にイヤなら借りなくていいですよという強気な態度で高金利を要求します。たしかに金貸しは卑しいボッタクリ商売なのかもしれませんね。

★ 銀行が貸さないのであれば…

 しかし、それほどの暴利でも借金できない人たちがいます。無職で収入が無かったり過去に借金を踏み倒したりして銀行から信用できないと判断された人たちです。理論上は、お金が返ってこない可能性がべらぼうに高くてもその分 金利をべらぼうに高く設定することで銀行はお金を貸せるはずなのですが、残念ながら、法律で金利に上限が定められており(10〜100万円の融資は年率18%が上限金利)、べらぼうな金利は取れません。これは、時給1,400円でマグロ漁船に乗ってくれと言うようなものです。無茶なバイトなのにちょっといいぐらいの時給では割りに合わないと誰もが思うでしょう。銀行もハイリスクに見合ったハイリターンを享受できないのであればお金を貸せないのです。

 もっとも、これは「法定」の上限金利です。銀行から背を向けられた人たちも、法定外、銀行以外のところではお金は借りられます。つまり、漫画「闇金ウシジマくん」や「ナニワ金融道」の世界です。ウシジマくんだと10日で50%の金利なので、年率(複利)に引き直すと約268万%の金利です。これをイメージしやすく言い換えれば、あなたが自動販売機の前で財布を忘れたことに気付き、たまたま居合わせたウシジマくんに130円借り、そのまま放置していたとします。すると、1年後にはウシジマくんに3億5千万円(!!)を返済しなくてはなりません。無理ゲーもいいとこです。なお、これは金利の高さに加えて、複利の効果が大きいです(また別の機会に紹介します)。

 ところで、ヤミ金に関して、まことに僭越ながら最後に二つだけ忠告させて下さい。一つは、ヤミ金は違法なうえ、借金の方法としても最悪なので絶対に利用しないでくださいということ。もう一つは、「闇金ウシジマくん」は売れているだけあって非常に面白い漫画なのですが、読後感は最悪でほぼ間違いなく陰鬱な気分になります。日曜の夜なんかにうっかり読んでしまうと、ただでさえ「専業主婦サザエさん」を見て陰鬱な気分なのにダブルパンチを喰らうことになります。そういう日をできるだけ避け、金曜日の夜や海外旅行の前日などハッピーエネルギーが十分ある日に読むようにしてください。

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* 実際のローン金利は、借り手の信用力のほか、資金使途、取引実績、担保/保証人の有無、借入期間、市場金利などの諸要素を総合的に勘案し決定。

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