『となりのアイツ』を気にするわたしたち

 うちの子は乗りものが好きで、ときどき近所のおもちゃ屋さんにいくと、トミカをひとつ買ってあげる。3〜400円の手のひらサイズのものだけど、子どもは目を輝かせながら好きなトミカをじっくり選び(100種類以上ある)、大喜びして、その日の夜はトミカといっしょに布団で寝る。

 ところが困ったことに、そのトミカ売り場をたまに、大きなおもちゃを持った子どもが横切ることがある。両手でやっと抱えられるほどの大きな消防車やショベルカーで、ボタンを押すと派手な音がなったりピカピカ光ったりする、本格派のやつだ。

 すると、その様子を目で追いかけていた我が子は一転、すこし複雑な表情をみせたあと、うつろな目で投げやりに自分のトミカを選ぶようになるのだ。こうしてわが家にやってきたトミカは、残念ながらあまり大切にされず、買ったその日から混沌としたおもちゃ箱に放り投げられてしまう運命にある。

☆ ☆ ☆

 ぼくは「いや〜、気持ちはわかるけどね」と思いつつも、パパという立場があるので、ちゃんとオモチャは大切にしなきゃ!的なことを言うのだが、そんなある日、おもしろい実験動画をみつけた。

◎ Two Monkeys Were Paid Unequally: Excerpt from Frans de Waal's TED Talk

 概要はこうだ。2匹のサルを、ガラス窓で仕切った部屋に入れ、両者に簡単な課題を課す。

 このとき一頭に報酬としてキュウリを与えると、喜んで食べる。ところが、そのあと、もう一頭のほうに、キュウリの代わりにブドウを与えると、喜んでキュウリを食べていた最初の一頭は、手にしていたキュウリを投げつけて怒りだす。ガラス窓の向こうのアイツが、同じ課題で甘いぶどうをもらっていることが不公平に思え、許せないのだ。

 「まあ!子どもとサルを一緒にするなんて!」とさわぐヒステリックモンキーは、一旦ミュートモードに切り替えてほしいのだが、事実、ヒトとチンパンジーは96%以上の遺伝子を共有している*。言葉すらままならないヒトの幼児と、動画のなかのサルが、「となりのアイツ」に嫉妬心を感じて類似した態度をみせるのはなんら不思議ではないのだ。

☆ ☆ ☆

 それでは、われわれ人間のおとなはどうだろうか?おとなになり社会性を身につけるうちに、嫉妬深いサルらしさは失われるのだろうか?

 否。遺伝子レベルの性質を変えることは、不可能に近い。もちろん、他人を気にして羨むのが、社会的にネガティブな感情とされることを、おとなは理解しているので、表だってその様子を見せることは少ない。

 しかしながら、‘08年のリーマンショック以降、停滞する世界経済を尻目に急成長してきたSNS業界を見れば、いかにおとなたちが「となりのアイツ」を気にしているかがわかるだろう。フェイスブックに代表されるSNSは、誰がどこでどんな生活をしているか裏で「こっそり」覗けるようにしたというのが大発明で、言い換えれば、足跡機能のせいで「こっそり」覗けなかったミクシーがダメになった理由でもある。

 また、興味深いのは、世界的なSNSの中でもツイッターだけがここもと不調で、ほかのSNSに大きく水をあけられていることだ。これにはじつに様々な見方があるが、ぼく自身は、不調の一番の原因は、ツイッターはほかに比べて匿名性が高く、となりのよく知っているアイツの生活を覗いている感じが弱い点にあると見ている。やっぱりわれわれサルは、よく知らない誰かよりも、知人のアイツがキュウリを食べているのか、それとも甘いぶどうを食べているのか、それを知りたいもので、好調なSNSはその欲求を満たしているのだ。


 ヒトの原始的な欲求を満たすビジネスは強い。ひまわり畑の動画がエロ動画に勝つのは難しいし、雑穀米のヘルシーなお店が、脂たっぷりのラーメン店より流行るのも、なかなか想像しがたい。

 それでもぼくは、SNSが提供する「となりのアイツの生活ぶり」という強力なコンテンツに打ち克つ日を夢見て、自分のスキルを磨き、読んでくれる人にとって少しでも有益なことを書いていけたらと思っている。

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*  
Varki A. and Altheide T.K. (2005). “Comparing the human and chimpanzee genomes: Searching for needles in a haystack”
(トップ画像はWikipediaより転載)

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七瀬 充

七瀬 充(ななせ みつる)/アラサーのパパ/都内の金融機関でディーラー/記述は事実をもとにしたフィクションであり、実在の人物・団体等とは一切関係ありません/ブログはこちら→www.7se.tokyo

コメント3件

ひー、とっても面白い記事です!
特に、誰がどんな生活をしているか、こっそり覗けないmixiやよく知っているアイツの生活を覗いている感じが弱いtwitterという位置付けがとっても面白かったです。やっぱり「自分の知っているあの人がどんな生活をしているか」「本人にバレずに見られる」ということに意味があるのですよね。それに共感しちゃう私も、なんだか嫌な奴みたいですが(笑)
最近では、Instagramも流行っていますが、インスタはどういう風に位置づけられるのかも気になります。
ひさとみ えぬさん ありがとうございます!知らなかったんですが、インスタでも最近、一部で足跡機能に似たものが実装されたんですね(笑)http://www.j-cast.com/2016/11/07282763.html?p=all

やっぱり相手に都度バレるとなると、たとえば片思いしている異性の写真とかも気軽には見に行けないですよね。せっかくインスタブームきてるのに、これが水を差す形にならなければいいんですが…。
そうですね
そうですね
ノート頑張りましょう!
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