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トラちゃんの社交辞令で思い出した、バイト面接での苦い経験

 トランプ氏の外交デビュー戦として注目された、安倍・トラ初会談がきのう無事に終わり、トランプ氏からは「すばらしい友情が始まった」とのコメントがあった。→トランプFB

 どこからどうみても社交辞令なのだが、少なくとも、会談前に一部でささやかれた『暴君トランプ丸出し』予想、つまり氏がいつもの癖で「おい、日本。おれはfu〇kin’ greatトランプ様だぜ!世界の中心だから従えよな!」とつい口走っちゃうかも…といった観測はぜんぶ外れたことになる。

 また、選挙前は、トランプ政権の誕生=北斗の拳の世紀末の世界がやってくる、のような報道が多かっただけに、選挙後「おとな化」したトランプ氏の態度に、いい意味で面食らった人も多いかもしれない。

 たとえば、ファミレスで落ち着いて食事ができない子どもを持つ親目線でみれば、「ああ、トラちゃんはじつはTPOをわきまえてちゃんとお利口さんにできる子なのね、お友達ともケンカせずに遊べるんだ」と確認し、ひとまず見直したことだろう。

 しかしよくよく考えてみれば、トラちゃんは生粋のアメリカ人だ。アメリカ人は「one of the best /greatest 〜」というふうに、「<最上級>のうちのひとつ」という表現をよくする。そのおかげで、英語を学ぶ日本全国の中学生たちは、エミリーやボブが3ページに1回のペースで最高最高いってることに驚き、「最高の〇〇」ってじつは6万個ぐらいあるんじゃ…?と戸惑っている。

 そんなリップサービス大国アメリカ(※もち大いに偏見込み)の、特にディープなところで何十年と生き抜いて今の地位を築いたのが、我らがトラさんなのだ。だから、一国のトップになったらなったで、侍アベの目をまっすぐ見て「すばらしい友情です」と言うのなんて、朝飯前(ブレックファースト前)なのかもしれない。

☆ ☆ ☆

 政界という特殊な業界に限らず、おとなの社会全般では、やはりどうしても「社交辞令」や「本音と建前の使い分け」が必要だ。また、それがちゃんとできるかどうかが、当人の社会性を測るうえで一つの物差しとなりうる。この際、その社交辞令や建前がどれほどスケスケの嘘だったとしてもあまり関係はない気がする。トラさんのように、とにかく堂々と言い切ることが大事なのだ。

 そう信じるのは、ぼくにちょっとした苦い経験があるからでもある。大学生になりたての頃、ブックオフのバイトの面接で「どうしてここでバイトを?」と聞かれたときだ。ちゃんとした面接はそれが初めてで、ぼくの頭にはなんの想定問答集もなく、5分前に書いたホカホカの履歴書を抱えて面接時刻に滑り込むのがやっとだった。

 もちろん、若き日のぼくにも、かしこまった面接で志望動機を聞かれ、「お小遣いが欲しいからっす」「自宅にも近くて都合がいいってのが一番っすわ」「お店が暇な日とかは、ワンピース読んだりできるかなと…」——こうした本音は言っちゃダメなんだ、と思えるぐらいの分別はあった。ただ、建前を言うにしても、なにをどんな風に言えばいいかまったく分からなかったのだ。

 面接では、これらの本音をいったん頭に収納し、適切な建前をサーチして、じっさいに返答するまでに、4秒ほどかかったと思う。なお、この時間には、「あ、この店長、誰かに似てると思ったらアンタッチャブル柴田さんか!全体的に地味だけどメガネだけ異様に目立つ人いるんだよな〜」と、余計な思考がふいに入ってきたことも影響している。わずか4秒といえど、対面の会話では不自然すぎる「間」だろう。

 結果としてぼくは、「……えっと、なんというか、本が好きだから……、ですかねぇ↑」と上げて答え、次の瞬間、はっきりと空気が歪むのを感じた。ずっとうつむいて履歴書を見ていた店長のメガネは、一瞬たりとも光ることがなく、残念ながら、それ以降いまだに彼と再会できずにいる。

☆ ☆ ☆

 社会人になってからも、何度か時空のはざまに陥ってきた。そして、建前やお世辞には、なんのひねりもいらずむしろ使い古された決まり文句がよいこと、重要なのは間髪入れずに打ち返すこと、この2点を学習した(暫定)。

 幼い子どもには、単なる嘘と、上手な嘘の違いを理解するのは難しいため、親は「嘘は全部ダメ」とひとくくりで教える。嘘ダメの教えにどっぷりと浸かった子どもは、中学生になると、ボブとエミリーの「最高」乱発の件によって、心にどことない違和感を植え付けられる。その後、成長して社会と接する部分が大きくなるうちに、ときに時空をさまよう経験をしつつ、心に引っかかっていた違和感を解消していく——。

 うーん。われながら、いいストーリーだな。誰かに映画にしてほしいとさえ思う。もちろん、その中ではエミリー側からみたシーンも入れてほしい。

 誕生日にエミリーが友達に向かって200回ぐらい「今までで『最高』のすばらしいプレゼントだわ!ありがとう」と言うけど、パーティが終わって一人になったときに、「これは13番目にいい。あれは8番目。あのセーターは過去最低クラスかな〜。メルカリにだしちゃお」とリアルガチで精査するシーンとか…。まぁ、この映画はR15かな…。

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