自由と生の研究

 私が精神病になったのは、色々な理由・原因が考えられるだろうが、その「意味」としては、「狂気と絶望に関して体験的に知り尽くすこと」そして「その経験を生かして精神科医になること」だったと考えている。これは事後的な都合の良い自己正当化のための解釈ではなく、実際、狂気に陥るときには半ば自覚的にあえてそうしたのである。当時は「方法的狂気」と自称しており、また、「誤謬パターンの網羅」ということも言っていた。間違った生き方をあえて網羅的に試すことによって、正しい生き方の本質を掴もうとしたわけだ。もちろん、本当に病気になってしまったので、体験は本物だし、意図せず、あるいは無意識的に精神病になってしまった人の苦しみと私のそれとは些かも変わることはないだろうと自負している(*)。海の恐ろしさを知るために裸で沖まで単身泳いでいけば、本当に溺れることになる。それと同じことだ。

(*) 精神病の罹患と、精神病への意志との関係は、それほど単純ではない。病気というものは総じて意図とは無関係に生じるというのが通常の考え方であるが、こと精神病に関しては、そこに何らかの意図が(意識的にせよ、無意識的にせよ)含まれている可能性がある。もちろん、意図があったにしても、「止むを得ずそうなってしまった」というのが本当のところで、私の場合も、興味本位で罹患したのではなく、そこには運命とでも呼ぶしかない、回避不能の必然性があった。(私はそれ以前に「意図せず」睡眠障害に罹っていた。)それを「意図があった」と呼ぶかどうかは哲学的問題であるが、私は自分の意図を自覚していたので、罹患はやはり意図的であったと解釈している。

 大学2年目の春に狂気の世界へ入ってから十年以上が経つが、その間、実に様々な心的現象を体験した。その中には神秘体験と呼べるようなものさえあった。詳細は省くが、天国が実在するということと、この世は(何らかの意味で)夢=幻であるということの確信は、これらの体験によって得られたものだ。といっても、悟りを開いていわゆる覚者となったわけではないところが私の独特な部分なのだが…。つまり、私は未だに迷いのうちにいる。

 エビリファイ(=様々な精神症状に効果のある薬のひとつ)の筋肉注射を始めてからは、徐々にではあるがまともさを取り戻しつつある。だが、完全に元通りというわけにはいかず、生(*)に関して、さまざまな問題を常に意識せざるを得ない状況に置かれている。つまり、生き方に関して、私は現在、そこに含まれる無数の要素を(その全貌を把握しきれないまま)常に意識しながら、いわば「生きる自分」と「考える自分」の二重人格として生活している。これは(程度にもよるだろうが)おそらく不自然なことであり、そのため、「行き詰まり」を感じたとき、弱気になって、この二重化自体が問題の元凶なのではないかと考え、やめてみようとしたことはある。だが、それはそれで無理なことだった。考えないようにしていると何かが失われていき、結局は、うまくいかない。そうしてまた考える生活に戻ると、生き方への意識はやはり必要なものだったのだ、と思うのだ。

(*) 超越的な視点から見た、誕生から死までの「人生」ということではなく、どちらかといえば「(日常)生活」ということなのだが、いずれにしても語弊がある。ここでは「生」としたが、この言葉に通常与えられるような意味とはやはりずれているような気がする。日本語には適切な言葉が見当たらないが、英語で言えば、単純に'life'ということなのかもしれない。

 だが、不自然なことをしているという罪悪感というか、「もっと普通でいなければならないのではないか」という疑念がやはりあって、それが邪魔をしてくる。とはいえ、思い返してみれば、もう何年も、このような「考える」生活を送ってしまっている。そこで私は、もう開き直ることにした。どうせやってしまうのだから、それをあえてしているのだということにしよう、と。そして、そのために、この作業に名前を与えることにした。とりあえずは、「自由と生の研究」としておく。とにかく、内観と試行錯誤によって、(自由に)生きるということの研究をしているのだ。それを常にやっているのであって、何もしていないということではないのだ。これはきっと必要なことで、価値があって、したがって、私のライフ・ワークであり、なんなら「使命」と呼んだっていいし、当然、いずれは何らかの形で報われるべきものだろう、と。このように信念を形成していけば、それ自体が生きる力になってくれる。

 というわけで、これからはできるだけ記録をつけていくことにした。昔、アメブロなどでものすごい量の(まとまらない)思索を繰り広げていたことがあったが、今回は、断片的な思考はEvernoteに記録し、かつ、noteを使って、定期的に思考を整理していきたいと思っている。

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