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スティーヴン・キング『書くことについて』小学館、2013年。 #書評

今回の「書くことについて」では、スティーヴン・キングが「小説の書き方」について書いた本を紹介します。

世界的な超・人気作家のキング。著書を読んだことがない人でも、彼の著書を原作とする映画はどこかで見ているはず。

キャリー Carrie (1976年)(2013年)
シャイニング The Shining (1980年)
スタンド・バイ・ミー Stand by Me (1986年)
ショーシャンクの空に The Shawshank Redemption (1994年)
グリーンマイル The Green Mile (1999年)
IT/it(1990年)(2017年)

などなど。
名前どおり「現代ホラー小説の『王様』」であるキングが書いた本書ですが、とても丁寧で親切に、かつ文学的な比喩を交えながら、単なる「ノウハウ」以上のものを伝えてくれる本です。

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「ノウハウ」以上のものについては、本書の章構成を紹介するとわかりやすいと思います。

<章構成>
履歴書
書くこととは——
道具箱
書くことについて
後書き 生きることについて
補遺(1.2.3)

「書くこと」について、直接関係する技術やノウハウについて書いているのは、「道具箱」「書くことについて」の2つと、補遺の箇所だけ。
一見すると、「書くこと」と直接関係しない内容が、全体量の約3分の1程度を占めています。
以下、章立てに沿って、内容を紹介します。

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まずは、「履歴書」について。
キングが2,3歳のころから始まり、『キャリー』が出版されてベストセラー作家になるまで。そしてアルコールやドラッグの中毒になり、それを克服する過程についても書いています。
「書くこと」が履歴書の中心ではあるけれど、書くこととは関係しない内容も多く、自伝や自己紹介のようです。ただ、よみものとして、面白い。
「わたしがこういう人間だということを知ったうえで、この本を読み進めてほしい」という気持ちを示すための章のようです。

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「道具箱」及び、「書くことについて」は、直接、テクニックについて書いている箇所です。

彼がアメリカ人であり、いわゆる世俗小説の作家であるからかもしれないけれど、本当に説明が丁寧です。
例を多く挙げて、ユーモアも交えながら、必要な要素を紹介している。
文法について、一日の目標とする字数について、ストーリーの叙述、描写、会話について、校正についてなどなど。出版エージェントに出す手紙の文例まで掲載しています。
おそらく、言われると「そうだよなぁ」と思うような基礎的なことも多いのですが、チェックを積み重ねていくことの大切さを気づかされます。

特にわたしが印象に残っているのは、ストーリーの背景情報(例えば2年の空白があったときに、登場人物におこった出来事)の必要性について書いた、以下の箇所。

背景情報は面白いところだけをとりあげ、そうでないところは無視した方がいい。個人の長ったらしい昔話はバーで聞いてもらうのがいちばんだ。できれば、閉店の一時間ほど前に。できれば、あなたが感情を持つときに。(P304)

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「後書き 生きることについて」
この本の執筆途中の1999年、キングは大事故に遭っています。車にはねられて全身を骨折し、生き残ったのが不思議なくらいの大けがだったそうです。
「書くことについて」の章は、事故前に執筆を始めていたけれど、一度行き詰まって、1年間、筆をおいていた章だそうです。
事故から5週間が経って、再び執筆を開始したんだとか。

「生きることについて」の章では、この事故や、そこからの復帰の詳細と、この本を書くに至った経緯が書かれています。そして、いかに自分にとって「書くこと」が大切であるか、について。

私が書くのは喜びのためだ。・・・書くことは人生ではない。だが、人生につながっていることは多い(p333)
(※・・・は中略箇所。以下同様。)

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繰り返しになりますが、ほんとうに丁寧で親切な本です。小説の書き方について、これほどまでに基礎や、必要な技術を教えてくれる本はあまりないと思います。補遺では、校正前後の文章比較や、参考になるブックリストまで載せているという親切ぶり。
ノウハウ本として、十分な条件を備えている。

それでいて、一冊の「よみもの」としても面白い。単純に、洒脱な文章表現や、紹介されるストーリーに、引き込まれる。

作者から読者に向けた、手紙やメッセージとしても読める。読むことや書くことへの愛や敬意が溢れていて、読んでいて「書きたく」なる。
最後に、以下の文章を引用します。

ものを書くのは・・・幸せになるためだ。・・・本書のかなりの部分は・・・わたしがどうやってそれを学んだかと言うことに費やされている。そして、その多くはどうすればもっと巧く書けるかということについての記述である。残りは・・・許可証だ。あなたは書けるし、書くべきである。最初の一歩を踏み出す勇気があれば、書いていける。(P358-9)

ほら、書きたくなってきたでしょう?

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