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寝る前に、おとぎ話の続きをきかせて

子どもの寝かしつけって、どんなイメージだろう?

お布団に横になり、お母さんが子守歌をうたう。子どもは、うつらうつらと静かに目を閉じる。そんな、平和な寝かしつけが世界のどこかにはあるのかもしれない。まあ、うちは違ったけど。

寝かしつけと言われて、最初に思い浮かぶのは、そうだね、「スクワット」だ。娘が、だいぶ小さかったころ。立ち上がるどころか、寝返りもままならなかった赤ちゃん時代。

娘は、すんなりと寝落ちできない不自由な機能を搭載していた。疲れているので、泣く。泣くと、眠ることができない。そんなとき、娘を両手で抱っこしながら、ゆっくりとスクワットをする。

すると上下運動が加わったことで、泣いていた娘が一瞬びっくりする。ゆらゆらとした動きに身を任せるように、赤ん坊の娘が眠りに落ちていく。そうなるまで、最低20分は格闘する。

ベッドに置いたら背中スイッチが軌道して、最初からやり直し。2時間かかるなんて夜も珍しくない。それが、私が最初に経験した寝かしつけの世界。

あの頃を思い返すと、最近はずいぶんと平和度が増した。5歳の娘の寝かしつけの定番は、絵本だ。1歳ぐらいから寝る前に絵本を読むようになった。「娘ちゃんは、5歳だから5冊読んで」と絵本を指定してくる。

遊びで就寝時間がずれても、「絵本を読まないと寝ない!」と娘が言い張るまで習慣化している。正直、ちょっと面倒くさい。

でも、そんな娘との寝かしつけの一コマが、とってもかわいかったので、日記みたいに残しておこう。

昨日は、ベッドで塗り絵をやめない娘が大興奮だった。

「タイマーが鳴ったらおしまいよ」から始まり、鳴った後に「この1色だけだよ」と色鉛筆を渡し、「このイヤリングを緑で塗ったらおしまいね」まで粘り、やっとのことで寝室の明かりをけした。

娘は、何回も瞼をこすっていてねむそうである。それでも、「絵本よむー!」とのコール。

「きょうはお母さんがお話してあげる」

こちらも絵本を読む体力がないので、ダメもとで妥協案を掲示した。すんなりとうなずく娘。よほど、眠いらしい。

さあ、どんなお話にしよう。布団にもぐりこんで、小さな明かりだけをつけて、天井を見上げながらとりあえず口を動かしてみる。

「ある日、娘ちゃんのおうちに三匹の猫ちゃんがやってきました……」

お話の主人公は、いつも娘だ。

夫が猫アレルギーで我が家ではペットを飼えない。でも娘は猫が好きなので、おとぎ話に登場させると喜んでくれる。

ほかにも、鉄板のキャラクターはユニコーン。空を一緒に飛んでみたり、たらふく綿菓子を食べてみたり。お話のなかは、娘の自由な世界なのだ。

三匹の猫ちゃんが、家のドアをノックする。とんとんとん。あけてみると、白猫、黒猫、トラ猫がお行儀よく座っている。

「ぼくたちに、名前をつけてくださいな」

にゃーんと、かわいい声でなく猫たち。

娘ちゃんは考える。どんな名前がいいかなあ。白猫は、ちいさくてふわふわの雪みたい。ピンクのリボンをつけている。

「どんな名前にする?」

横でユニコーンのぬいぐるみを抱き、寝る体制にはいっている娘に尋ねてみる。

「んー……しろちゃん!」

しばらく考えて、ものすごくまんまの名前を口にする娘。お話を続ける。

次は黒猫のばん。黒猫は、ふわふわの長い毛で真っ黒な体にきんぴかのおめめが光ってる。さあ、黒猫ちゃんの名前はなににする?

そういって娘のほうを見ると、視線の定まらない目が半分閉じている。片足を夢の世界に突っ込んでいるようだ。

お、これは珍しい、と思う。俗にいう、「寝落ち」だ。

なにかしていると思った子どもが、気づいたときには寝ているというもの。5年半の子育て人生の中で、娘の寝落ちに遭遇したのは、数えるほどしかない。

レア中のレア、ゴールドランクのかわいさに輝く「ごはんを食べながらの寝落ち」が2回。まさかのそこで寝ちゃうの!?と、驚きと戸惑いが隠せない「買い物カートでの寝落ち」が1回。すんなり寝てくれると大変うれしい「寝かしつけで絵本を読みながらの寝落ち」が1回だ。

今回は、はたして「お話を聞きながら寝落ち」になるのかどうか。

眠気と戦いながら、黒猫の名前を考えているのか、娘の目がきょろきょろとうごく。ちょっと怖い。

娘は、まばたきをぱちぱちする。だんだんと、まぶたがくっついている時間がながくなる。このまま、寝てくれるのだろうか。

私は、息を殺す。1秒1秒が、とても長い。まるで時の流れが止まったようだ。

腕に感じられるたしかな重み。ちょっとでも動かそうものなら、娘が覚醒しそうで身動き一つできない。頭のなかで、この瞬間にどうか夫が帰宅しませんように…と念じる。

ぱち、と瞬きを最後に娘の目が閉じた。

よしよし。夢のなかで猫ちゃんの名前を付けてねと心で語りかけた瞬間

「くろちゃん!あ…ちがった!しろくろちゃん!」

娘がぱっと目をひらき、叫んだ。

びっくりした。完全に、寝たものだと思ったよ。まだ起きてたのか。お話の続きをしようと思ったけれど、よく見ると娘は両手でごしごし目をこすり、再び視線はかなたへ。

ぱち、ぱち、ぱち、と三回瞬きが続いて、すぐさま静かな寝息が聞こえてきた。

限界まで、起きて遊んでいたかったのね。もうお母さんの声は届かず、きっと3匹の猫を引き連れて夢の世界で遊んでいるはず。

もう一匹の猫はなんだっけ。そうだトラ猫だ。

どんな名前にするのかな。また明日、お話の続きを聞かせてね。





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