妖精は、ペルーにいた

あるはずのウェブサイトにアクセスしても真っ白な画面が表示されたときから、いやな予感はしていた。おそらくダメだろうと送ったメールの返信は、予想を数ミリ斜めに超えたものだった。

何の話かというと、娘の誕生日会の出し物のことです。

8月の末に娘は6歳になる。いまから誕生日会の準備をしないと、諸々間に合わない。

6歳の誕生日会? そんなにやることある? とあなたは思っているだろう。

もちろん、どれほどの規模にするかはご家庭次第。けれど、七五三や桃の節句といった子どもの年中行事がないニュージーランドでは、わずかばかり誕生日会にかける熱が高い。

なんというか、誕生日会の主役がどこまでも子どもだ。家族やおじいちゃん・おばあちゃんを呼んでパーティー、では終わらず、子どもの友達を招待して、食べて、遊ぶ。

この「遊ぶ」が厄介だ。6歳の子ども達、顔を見合わせれば楽しくなる年頃とはいえ、遊具もない家で2時間(パーティーはだいたい2時間)、野放しにはできない。おそらく招待するのは5名前後だけれども、放っておいたら家が破壊されるぐらいのパワーを秘めている。

誕生日会には、ファシリテーターが必要だ。しかし、私はあいにく英語非ネイティブ者。学校で「Hibernation(冬眠)」とか「Deciduous tree(落葉樹)」とかの単語を覚えてくる娘に、とっくに英語力を追い越されている。

誰か、子ども達を退屈させずに、パーティーを盛り上げてくれる適任はいないだろうか。そうして思いついたのが妖精だった。

世の中には、いろんなサービスをつくる人たちがいる。子どもの誕生日会というのも、ちょっとしたビジネスチャンスだ。お泊り会をしたい子むけに、おしゃれなテントセットを貸し出す会社もある。

妖精サービスもそのひとつ。なにかというと、妖精の恰好をした女性が誕生日会に来てくれ、お話をしたりゲームをしたりフェイスペインティングを施してくれるというもの。妖精コスチュームの貸し出しもあるというから、至れりつくせりだ。

この妖精さん、街のイベントでみかけたことがある。私の住んでいる地域に、妖精サービスをしている会社はただ一つ。独占市場である。

きっと、それなりのお値段がするだろう。2時間よんで、数百ドルだろうなあ。けして気軽に出せる金額じゃないぞ。それでも、年に一度の誕生日会、娘がよろこんでくれるならいいかもしれない。

とりあえず、値段とパッケージの詳細を聞いてみよう。なぜなら、ウェブサイトにはアクセスできないし、Facebookページの更新は今年の1月で停止している。料金表をネットで公開せず、問い合わせの導線が不完全というのは、こっちの国では別に珍しいことではない。ぜんぶちゃんと発信してよーともやもやするが、ネット検索よりも圧倒的に口コミでの問い合わせが多いのだろうと推測する。

1. 実は、すでに廃業している(確率40%)
2. 返信がこない(確率55%)

以上2点の予測を立てて、イエローページから問い合わせのメールを送ってみた。それが昨日。そして、受信箱に返信をみつけたのが今朝。おお、ちゃんと返ってきた。しかも早い。ほんの少しの期待をかけながらメールを開くと、こう書いてあった。

問い合わせありがとう!もうしわけないけど、いまペルーにいるの。戻るのは10月。ほかに同じサービスが街にないから、ごめんなさい……バウンシーキャッスルの貸し出しや、マジシャンのサービスは助けになると思うわ!

3 .ニュージーランドにいない」の回答は想像しなかった。きっと、夏の方が繁忙期なので冬は妖精をお休みしているのだろう。自分が対応できないから、まったく別会社のサービスをおススメしてくる辺り、こんなこというと主語が大きくなりそうだけれど、ニュージーランドっぽさを感じさせる。

かくして、娘の誕生日会の計画はまだなにも決まっていない。せめて暖かい時期ならば、遊具がたくさんある広々した公園でパーティーができたのに。8月末は冬なので、外でのアクティビティは憚られる。この季節になると、ああ、春か夏に産めばよかったなあと、どうしようもないことを考えたりする。

都会なら、もう少し選択肢があるけれど。ここは田舎。誕生日会で使える施設も、片手で数えるほどしかない。

どうしようかなあ。悩んでいたら、noteが1本かけてしまった。まさか妖精がペルーにいるなんて思わなかったよ。マチュピチュにでもいるのかな。

「お誕生日会に、妖精さんくるの?」

娘が期待を込めた目で聞いてくるけど、ごめん、妖精は旅行中だ。

朝日を浴びた気球の光景は、たしかに妖精に似合うよねと思って調べたら、あれはトルコのカッパドキアだった。


(おわり)

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