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誕生日を心待ちにしている子がいる

8月だ。

娘がうまれてからというもの、8月はちょっとソワソワする月になった。日本でいえば、夏の終わりが娘の誕生日だから。誕生日会はどうしようと、頭を悩ませる。それから、「生まれてから、もうこんなに経ったのかあ」としみじみする。

6年、はそれなりの長い年月だ。赤ちゃんの頃の娘は、確実に遠い。もういない。でも、「6年も経った」なんて、ほんとに?と聞き返したくなるんだよなあ。

はじめての誕生日は、ヨーグルトのデコレーションケーキに指を突っ込んでいた娘が、「今年の誕生日プレゼントはこれね」と母にむかって細かにプレゼンしている。ひとってすごい。

子どもの誕生日は、この国ではわりと一大イベントだ。クラス中の友人を招待して、盛大にバースデーパーティーをするご家庭もある。規模の違いはあれど、誕生日会をするのはスタンダード、というかマスト。娘も、「私の誕生日会はなにする?」とやることが前提である。

子どもの誕生日会といっても、親にとってはなかなか大変。飾り付け、食事の用意、なによりも2時間子どもたちを飽きさせない催し物……

10歳くらいになれば、「お泊り会」とか「友達と映画」とかで特別感を出せそうだけど、6歳だと好き勝手に遊ばせるわけにもいかないので悩む。

ほんとうは、誕生日会に妖精を呼ぶつもりだった。でも、ペルーにいるからと断られた。最終的に数少ない選択肢から、子どもたちが存分に遊べる室内施設を選んだ。

パーティープランがあるから、親は基本的にはバースデーケーキを持ち込むだけ。それなりの値段はかかる。今月もがんばって稼ごう、うん。

招待状をつくって早めに渡さないとなあと考えていると、娘がバースデーケーキはこうしてね、と注文をつけてきた。

彼女のイメージと完成作品に齟齬があるといけないので、googleで画像検索しながら、要望を紙に落とす。

うさぎがいて、ニンジンをもっていて、お花もあって……ふんふん、と色鉛筆で形にするとこうなった。

まじか。これ、私が作るのか。

いまの時代、マジパンもお店で手に入るし、動画で作り方もわかる。でも、こういうのって技術と経験を要するものだから、素人がつくると理想と現実にはげしいギャップが生じちゃうんだよ。わかる?

カフェやベーカリーに、イラストを持ち込んで注文する選択もある。でも、高い。最低賃金が$17.70(約1250円)のこの国は、人件費と原材料をきっちりサービスに上乗せする。オーダーメイドのケーキ、安くても$100(7000円)はするだろう。うーむーむー、である。

子どもの願いは、なるべくかなえてあげたい。でも、時間やお金の現実的な限界がある。「でも」を3回も繰り返している点から、煮詰まっていると察して。いつも、どうやってバランスをとるか悩ましいのだ。


さてどうしたものかと、散らかった部屋を片付けていたら、リビングに卓上カレンダーが転がっていた。拾い上げて、8月を表にする。

四角いマスのひとつに、赤いペンでニコちゃんマークが描かれていた。娘だ。ちゃんと、誕生日にしるしをつけている。

楽しみにしてるんだよね。スペシャルな一日にしてあげたいなあと思う。

マジパンの完成品を売っているケーキショップのウェブサイトをのぞきながら、(花は6つで$4だからいける)(ニンジンは1個$2.5もするからつくるか……?)とか考えちゃうお母さんなのである。

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