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今日という日を楽しくするクレープ

やぶれかぶれな気持ちになる休日の朝。予定はとくにない。というか、娘が「お家で遊ぶの!」と主張して外に行けそうにない。

時計の針が、10時半をすぎる。「お母さん、パンケーキつくろ?」小腹が空いた娘に提案された。

パンケーキかあ。正直にいうと、私はちょっと苦手。つくるのは好きだ。だけど、いざ食べるとなると、バターとメープルシロップをたっぷりつけても、口の中でモソっとする食感に残念な気持ちになってしまう。

「クレープにしない?」代案を娘になげかけた。「クレープ」がなにかを知らない娘は、不満そうな顔をしている。楽しいんだよクレープ。といっても、私も作ったことはない。イメージは、『きのう、なに食べた?』のシロさんとケンジだ。

スマホでレシピを検索して、粉砂糖とシロップたっぷりの写真をみせると、娘はようやく「うん」とうなずいた。大丈夫、ちゃんとおいしいから。

ボールに、卵、砂糖、牛乳を入れる。小麦粉をふるわなくてもダマにならないよう仕上げるには、液体に粉を投入する順番のほうがいい(と、私は思っている)。

カシャカシャかき混ぜたら、小麦粉をドバっといれる。ぐるぐる混ぜているうちに、白い滑らかな生地が出来上がった。超かんたん。

ほのかに熱した黒いフライパンにバターをいれ、じゅわじゅわしたところに、お玉ですくいあげた液体を垂らす。

液体をうすーく広げ、待つこと数分。表面が乾き気味になるまえに、えいっとひっくり返す。じんわり待って完成。クレープを皿にうつし、よし次と第2回戦。

リビングでは、「おうちピクニックをしよう」と一人で決めた娘が、忙しく動き回っている。ソファーにかけている大きなひざ掛けを床に敷き、子ども用の机をおいて、お気に入りのロールストランドのモナミのお皿をセットする。

「おかあさん、フォークつかう?」とちゃんと確認して、カトラリーをセットし、ちゃっかりと冷蔵庫からチーズを出して切る。さらにiPadを起動させ、SpotifyからBGMの選曲までしている。テーブルセットはばっちりだ。

生地をじゃんじゃん焼いて、10枚ほどのクレープができた。さあさあ、ピクニックしよう。

ふたりでニコニコしながら、やわらかくした冷凍マンゴーとメープルシロップをぽたぽたかけて、白いクレープ生地をくるくるっと巻いて、ぱくっと口に運ぶ。

皮がもちもちしている。ほのかに甘いところに、メープルシロップのさらっとした甘さと、マンゴーのとろみ。うんうん、ちゃんとおいしい。

せっかくなので、ベーコンと目玉焼きも焼いた。クレープに包んだら、立派なランチだ。しょっぱいと甘いのが交互に。永遠に食べられそうだなあ。シロさんみたいに、ビールがほしい。

未知なるクレープをいぶかしんでいた娘も、気にったようでぺろりと平らげた。

気づくと、BGMに初音ミクが流れている。おお、これが噂のボカロイド。35年生きてきて、はじめてまともに聞いた。娘は、青い女の子の曲を気に入ったらしく、さっそくお気に入りに登録している。

「これ、コンピューターが歌ってるんだよ」と娘に教えたら、「ふーん」となんとでもないような顔をしていた。そうだね、産まれたときからiPadがあるきみたちの世代にとって、ほんとうになんでもないことなんだろう。

知らないものを手繰りよせたら、案外楽しかった。スマホがなかった時代は、レシピを知らないお菓子なんて作れなかった。興味のない曲とも、ずっと出会わないままだっただろう。

いい時代になったなと思う。わるくない休日だ。


▼今日という日を楽しくするクレープのレシピはこちら


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