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【競馬コラム】我々は田中勝春をどう語り継げばよいのか

エヒトで七夕賞を勝った田中勝春。これが3年ぶりの重賞勝ちだという。19年の函館記念をマイスタイルで勝って以来。さらにその前となると15年の福島牝馬S。もうすっかり大舞台とは縁の遠い乗り役となってしまった。

最近になって競馬ファンになった人には「誰?」と言われても仕方がないレベル。たぶん僕が競馬を見るようになった90年代後半の、大崎昭一さんや大塚栄三郎さんみたいな空気を、今のカッチーはまとっているのであろう。

若手・中堅時代から彼を見てきた我々は一体、彼をどう語り継いでいけばいいのだろう。

中央競馬の歴史に残る名手、だと思うんですよね一応。通算勝利数は1800を越え、重賞勝ちも50以上。デビュー4年目にヤマニンゼファーで安田記念を勝ってG1初勝利を飾ると、長きにわたって関東リーディングの上位に君臨し続けた。外見もちょっとかわいい反町隆史みたいで、若手の頃は女性にもさぞかし人気だったことだろう。

しかし、語り継がれるエピソードは「G1で139連敗」とか「サクラプレジデントで負けた皐月賞でミルコにしばかれる」とか、あまりにもネタ要素が多い。確かに実績の割に大舞台で頼りになるイメージはないし、「あの騎乗はうまかった」と感心するようなレースもあまり思い浮かばない。後輩の武幸四郎からも「カッチャン」と呼ばれているように、歳を重ねても威厳や渋みみたいなものとも無縁のキャラである。

G1を勝った相棒とのエピソードもちょいと足りない。前述の通り初G1を勝ったパートナーはヤマニンゼファーだが、後に同路線のお手馬セキテイリュウオーとの兼ね合いもあってコンビを解消している。また、G1連敗を止めた立役者ヴィクトリーも、テン乗りで皐月賞を勝った後の日本ダービーで敗れると一瞬で降板を余儀なくされた。結局そういう自虐ネタに走るしかないのかw

そういう意味でもベストパートナーはバランスオブゲームなんじゃないか。

G2までは滅法強く、G1になると頼りない。田中勝春を象徴するような馬だ。現役通算29戦中23戦でコンビを組み、重賞を6勝。59kgを背負いながらダイワメジャーを完封した中山記念や、時の名牝ファインモーションを沈めた毎日王冠など、長年にわたって前哨戦では鬼のような強さを発揮した。

だからといって「田中勝春はバランスオブゲームみたいな騎手」では何の説明にもなっていないので困ったもんだ。カッチーよ、一体あなたは何者なんだ。25年間、競馬を見続けた身でも答えは簡単に見つかりそうにない。

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