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開店前のバーで、バーテンダー作家と恋について話してきた。(前編)

どうしても忘れたくない恋を、人はバーテンダーに話してしまうーーー。

ふらっと立ち寄った書店で、平積みになった本の帯に書かれていた言葉。
たしかに、そうかもしれないなぁと、立ち止まる。

「恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる。」

わたしは、その本を手に取った。
著者は、エッセイストとバー店主の林伸次さん。彼が書く、初の恋愛小説。

小説は、21作のショートストーリーで構成されている。
そのどれもに、かけがえのない恋の話が丁寧に綴られていた。

読み終わる頃、胸の奥のほうが疼く。「無性に、恋の話がしたい。」
いてもたってもいられず、林さんに対談依頼のメールを送っていた。


「うまくいかない恋」という名のコンプレックス


しんみはるな(以下、しんみ) 「恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる。」拝読しました。どのお話も、とても素敵でした。小説を読んだら、林さんにお会いしてみたくなって。突然の対談依頼、引き受けていただいてありがとうございます。

林伸次(以下、林) いえいえ。こちらこそありがとうございます。でもどうして、僕に取材を依頼しようと思ったんですか?

しんみ お盆の期間に「20代の恋を、平成最後の夏に置いていく」という自主連載をしたんです。わたし、自分の恋愛がコンプレックスで。なかなか、うまくいかなくて。そういう、うまくいかなかった恋愛を振り返ってみて、気づいたことを記して乗り越えていこうという趣旨の連載でした。それで、その連載の特別編として、小説の内容に紐づける形で、恋愛についての対談をさせていただけたらなって。

林 そういうことですね。でも、うまくいかなくてコンプレックスって、どういうことですか?恋はうまくいかないから面白いと、僕は思うんですけど。

しんみ わたしはうまくいかない恋って、面白いと思えなくて。どちらかというとツライです。

林 どういうときにうまくいっていないって思うんですか?

しんみ アプローチしても、自分の思っている反応が得られないときですかね。付き合えずに終わってしまったりとか。

林 それが恋愛の醍醐味な気がしますけどね。好きだけど付き合えずに終わるとか、結構あるんですか?でも、2回くらいでしょ?(笑)

しんみ いやいや、2回どころじゃないです。もう数え切れない。

林 それって、お互いが好き同士でデートも何回もしたけど、付き合うまでには至らないってことですか?

しんみ そういうパターンもありますね。ほんと、うまくいかない恋愛は相当してて。そういう過去を積み重ねるごとに、自分が腐っていくような、汚れていくような感覚に陥るんです。それがすごく嫌で。
この夏、自分のコンプレックスと向き合うために、連載をしよう!と決めたタイミングで「恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる。」を読んだんです。そうしたら、わたし、すごく落ち込んじゃって。

林 え、落ち込む?

しんみ 東京には、こんなにきれいな恋をしている人たちがいるんだなぁって・・・。

林 あはは!していないと思いますよ。大体の人は。

しんみ え?でも、この21作のエピソードたちって、全部実話じゃないんですか?

林 実話も少しはありますけど、創作ですよ。

しんみ まったく気づきませんでした。すごいですね。

林 きれいすぎですよね(笑)きれいすぎて、なんか文句言われるかな?と思ったんですけど、でも、僕自身がこういう世界観が好きなので。

しんみ どのお話もすごく素敵でした。わたしは「こんなきれいな恋愛、あるわけない!」って思ったわけではなく、単純に、いいなぁっていう憧れが行き過ぎて落ち込んだというか。作品への肯定からくる落ち込みでした。でも、わたしみたいな気持ちになる人って、結構いると思うんですよ。恋愛小説を読んでギュッと胸を掴まれて、過去の恋を思い出す。「わたしは、こんなきれいな恋愛してないぞ!?」ってなる人。

林 たしかに。ツイッターとかみてると「きれい〜」「こんな恋してみたい〜」といった感想をいただくこと、あります。だけど、うれしい反面、いろんな恋愛の形があってもいいとは思っていますよ。だって、現実の恋愛は、もっとドロドロしているし、うまくいかないし、思いが伝わらないし、切ない。だから、心配しなくても大丈夫です。

しんみ そう言っていただけると、少し救われます。


よく笑う女に、男は惹かれる。


しんみ 「魔法の赤い口紅」と「明るいブスになる」の話を読んでいて、自己肯定感を持つことは、すごく大事だなと思いました。

林 あのふたつ、女性にすごく人気ですよ。

しんみ それぞれ、どんな層の女性にウケているんですか?

林 「魔法の赤い口紅」は、最初あさみさんとか、キャリア系の女性にいいねって言ってもらうことが多いです。「明るいブスになる」は、意外と、どんな女性にも好きって言ってもらえるんですよ。

しんみ どちらの主人公も、自分の見た目についての何かを変えることでうまくいったように思っていたけど、実はそうじゃないって結末ですよね。大事なのは、心の持ちようだったっていう。容姿がどうこうって話ではない。

林 そうそう。実際、モテるモテないって観点だと、顔の良し悪しって関係ないんですよ。美人なのにモテない人もいますし、美人じゃないのにモテる人もいます。もちろん、見るだけなら美人のほうがいいって、みんな言うだろうけど。パートナーとしてどうか?っていう目でみるときに、美人かそうじゃないかって、あんまり気にしない。

しんみ それ、すごくわかります。自分の連載にも書いたんですけど、わたし、何をしても「ブス!!!」って言われていた時期があって。当時、暗くて笑わない子だったから、そういうところだったのかなって。愛想や表情がない=かわいくないっていう式が、あるんでしょうね。

林 そもそも、そんなこと言う男、ひどいですね。それ、付き合う人たち間違っています。悪い人とつるんでたんじゃないですか?

しんみ うーん、どうだったんでしょう・・・あんまり覚えていないんです。でも、このままじゃダメだ!と思って、仕事とか勉強とか、恋愛以外のことも頑張るようにしたんですね。そうしたら、自己肯定感があがって、表情も明るくなって、蔑まれるような発言をされることがなくなりました。けど、その頃と今で、容姿が大きく変化したわけではなくて。だから、心の持ちようで印象がガラッと変わるんだなって、身をもって実感しました。

林 いや、ほんとにそうなんです。容姿よりも、心の持ち方とか、発言とか、明るさ、みたいなところのほうが大事。うちの店で婚活パーティやってるんですけど、参加者全員に、気に入った人の名前を紙に書いてもらうようにしていて。この子は書かれるだろうなぁ〜って、わかりますもんね。

しんみ それは、表情をみていてですか?

林 そうです。以前、その婚活パーティにすっごいきれいな女性がきたんですよ。でもその方、途中で「なんでこんなところにいるんだろう?」って思ったのか、ムスッとしはじめちゃって。すごく美人なのに、結局、誰にも名前を書かれなかったんですよ。だから、表情って大事です。
逆に、何を言っても、きゃはは!ってすっごい笑う子っているじゃないですか。あの子たちは、絶対書かれる。うちの婚活パーティでも、いちばんモテる子って、何言っても笑う子です。やっぱり美人か美人じゃないかは関係ないですね。

しんみ 笑顔とリアクションが、モテる秘訣かぁ。

林 男性はやっぱうれしいんですね。リアクションがあると。特に、婚活パーティにくるような男性って、ちょっと自信なかったりする人が多いんで。自分が言ってたことに、あの子すごい笑ってた〜って思うと、認められた気になって好きになっちゃうんですよね〜。男は単純ですからね(笑)


恋のための、恋。


しんみ 自分に自信が持ててやっと、それなりにいい恋ができるようになると思うんですけど、自分も含めて、恋のための恋をしている人が多いなぁって印象があって。「恋の春夏秋冬」の話とか、まさにそれだなぁって。

林 「恋の春夏秋冬」に関しては、似たような話を女性からけっこう聞いていて。秋(ラインの返事がこなくなったり、あまり会わなくなったりする。別れを予感する時期。)が来るのがつらいから、もう別れましょって早めに言って、しばらく苦しい思いをして終わせるって人もいるみたいです。あと、作中では、冬の恋(別れ)も大事に、というようなことが書いてあるけど「そんなにきれいな冬、ない!もうぐちゃぐちゃです!」って、女性によく言われました。

しんみ bar bossaのお客さんにですか?むちゃくちゃな別れ方してきたったわー!ってご来店?ですか?

林 そういうときもありますね(笑)逆に男性だと、別れが近づいてきたら、早く終わらせたいな、どうしようかな、と悩んでお店に来たりします。「きれいな別れ方ってないですか?」って聞かれたり。「そんなのないない!」って答えるけど(笑)

しんみ 男性は、穏便に別れたがりますよね。

林 お店でそういうことをよく質問されるから、妻に「きれいな別れ方ってどんなの?」って聞いたら「そんなものあるわけない調子にのるな。」って言われましたよ。「ちゃんと伝えてちゃんと傷つけ!」って(笑)

しんみ さすがですね(笑)でもわたし、穏便に済ませたい気持ちもわからなくはないというか、最近はきれいに終わらせるように気をつけるようになったかもしれないです。昔はそれこそ、お皿飛んできたりとか、スマホ割られたりとか、いろいろあったんですけど。もうそんな別れ方してたら身がもたないなって。

林 えー!お皿!?スマホ!?なんですかそれ!気になるエピソードですね!

しんみ いや、もう昔の話です(笑)いまは出会う男性の雰囲気も変わって、そんな修羅場みたいなことはなくなりました。恋愛を始めるときも、終わらせるときも、ちゃんと一緒に考えて付き合ってくれる人といられるようになって。

林 自分がレベルアップしたってことですね。やっぱりステージがあがると、出会いの質も変わりますし。いいことだと思います。

しんみ うーん。だからこそ、お付き合いまで至ったなら、別れる=冬がくることって考えたくないです。でも、現実はそんなにうまくいかないじゃないですか。「ああ、この人じゃないな。」って決定打を打つ瞬間が来てしまうと、もうどうしようもない。どうやって別れるのがいいか?って考え始めます。そうなると、今回も恋のための恋だったなぁって、思いますね。


女だって、恋に夢を見ている。


しんみ どんな男性でも、恋に夢見がちなところはありますよね。「女優の同級生とディズニー」の話なんかは、どちらかと言うと男性に支持されるんじゃないですか?

林 そうですね。この話は、男性の食いつきがいいです。しんみさんは、あまり好きではなかったですか?

しんみ わたしは、物語として、すごくいいなと思いました。自分が女優でもないし、高校の同級生と密にどうこうっていう甘い青春もないので(笑)現実味がないぶん、物語として楽しんでいました。根は筋金入りのロマンチストなので、好きですね。こういう話。

林 ロマンチスト!男は、ほんとにロマンチストが多いですからねぇ。

しんみ その通説があるわりには、大抵の男性って、最初だけすごく頑張って、3ヶ月くらい経つと急に頑張らなくなりません?ロマンスもへったくれもなくなる。

林 なりますね。釣った魚にエサやらない問題ですね(笑)

しんみ この問題、最近になって解明できたんです。それって、時間が経って飽きたとか、ないがしろにしてるってことじゃなくて、ただ本来の自分に戻っただけなんじゃないか?って。いつまでも恋に浮かれていられませんからね。でも、その本来の自分に戻るっていう男の生理現象が、女から言わせると「大事にされなくなった。」という風にうつるんですよね。それが、小説で言うところの、春夏を経て、秋にかわった、と。ああ、もう冬が近いな、と。

林 すごい分析ですね。その通りだと思います。

しんみ だから、男子は張り切りすぎないほうがいいよって、思いますね。最初から無理をしなければ、恋に浮かれた時期が去った後でも、テンションにほとんど差はないから。普段どおりの自分でいればいい。その方が、女子も安心していられる。女は現実的だって言うけど、みんな、ほんとは恋に夢見がちなところありますからね。好きな人と、ずっと仲良くしていたいって思ってる。女だってロマンチストです。
 

(後編に続く。8月31日に更新予定。)

さいごまで読んでくれてありがとう!うれしいです!🌷