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【吹奏楽曲解説】巡礼の島(酒井格)

色彩豊かな楽曲が多く、好きな作曲家の1人である酒井格さんの楽曲が先日の東京佼成ウインドオーケストラの宇都宮公演で特集されました。

予定が合わず聴きに行けなかったことを悔やんでいましたが、まさかの音源化!しかもセッション録音!のお知らせがTwitterで流れてきました。

一般販売されているCDでは音源化されていなかった『148の瞳』『さよなら、カッシーニ』、様々なアマチュア団体で録音されているもののプロによるノーカットでの録音が無かった『森の贈り物』、そしてこの公演のために特別に演奏された『たなばた(初稿版)』『いちご協奏曲』と、発売日が本当に待ち遠しい1枚です!

という訳で、今回は酒井格作曲『巡礼の島』を紹介しようと思います。


■参考音源

中福島昭洋指揮/陸上自衛隊第14音楽隊による演奏

■作品について

作品について紹介していきます。引用部分は作曲者による楽曲解説です。

2021年、陸上自衛隊第14音楽隊より「四国を題材にした作品を」と言う依頼で作曲しました。

14音楽隊は香川県善通寺市を拠点に活動しているので、香川県が題材ならば色々と(うどんはもちろん、金比羅山や与一の弓など)思い浮かぶのですが、四国全体でとなると…やはり四国八十八ヶ所巡礼でしょうか?私自身はまだ未体験なのですが、友人の体験談や巡礼者の紀行文、テレビでの特集などで知り、大変興味を持っています。そんな四国の旅をヒントにこの作品を書下ろしました。順番通りにめぐると、阿波(発心の道場)→土佐(修業の道場)→伊予(菩提の道場)→讃岐(涅槃の道場)のことですが、この作品も緩・急・緩・急の四つの部分で構成しています。

尚、今回の依頼は、私の大学の後輩にあたるトロンボーン奏者の隊員から、私の友人であるトロンボーン奏者を通じてお話を頂いたこともあり、後半にはトロンボーンセクションの見せ場があります。もちろん他の吹奏楽で使われている楽器が活躍する場面も多くありますので、演奏してくださる皆様には吹奏楽の響きを楽しみ、そして聴いてくださる方たちに伝えてくださると嬉しいです。

・四国八十八ヶ所巡礼について

まずは作曲者による作品解説でも触れられている「四国八十八ヶ所巡礼」について解説していきます。

この楽曲は空海ゆかりの四国八十八ヶ所の仏教寺院を巡礼する「四国八十八ヶ所巡礼」がテーマとなっています。

私も以前四国を訪れた際に巡礼を行うお遍路さんを見かけたことがあります。
いつかはやってみたい…と軽い気持ちで考えましたが、八十八ヶ所すべてを通しで歩くと全長1,400km、1日20~30km歩いても40~50日かかるということを後から知って驚きました。

四国八十八ヶ所の巡礼には1番から88番まである札所(霊場)を数字通りに訪れる「順打ち」、88番から1番まで戻るように巡礼をする「逆打ち」といった巡礼の方法があります。

『巡礼の島』では順打ちの阿波(徳島)→土佐(高知)→伊予(愛媛)→讃岐(香川)のルートで楽曲が展開されていきます。

・阿波(発心の道場):1小節~22小節(参考音源冒頭~1:25頃)

徳島・熊谷寺の修行大師像。
熊谷寺は八十八ヶ所中の第八番目の札所で、四国霊場のなかで最大級の仁王門が有名。

Andantinoの緩やかなテンポで楽曲が始まります。低音楽器によってFの音が伸ばされた上に、トロンボーンやユーフォニアムなどの楽器によるヘ短調(F-moll)の旋律が奏でられます。

普段オーケストラをやっている身からすると、ヘ短調というとチャイコフスキーの交響曲第4番の1楽章を思い浮かべてしまいます。やや暗い響きの調ですが、暗い中でもどこか情熱があるドラマチックな調のイメージなので個人的には好きな調です。

トロンボーンやユーフォニアムによる旋律はその後トランペット、木管楽器へと受け継がれ、全奏で頂点を迎えます。

四国巡礼における阿波の札所は発心(ほっしん)の道場とも表現されます。発心とは「悟りを求め、これから巡礼を行おうと決心すること」を指すそうで、この部分の楽曲の雰囲気もまさに意を決したような様子が表現されています。

・土佐(修行の道場):23小節~68小節(参考音源1:25~2:50頃)

高知・金剛福寺。
金剛福寺は八十八ヶ所中の第三十八番目の札所で、遍路旅の最大の難所として知られる。

楽曲はそのままAllegro agitatoのテンポが速い部分に繋がっていきます。冒頭のモチーフが形を変えて再びトロンボーン、ユーフォニアムによって演奏されます。シンコペーションのリズムが多くなり躍動感がある音楽が続きます。

土佐(高知)は四国巡礼では「修行(しゅぎょう)の道場」と呼ばれています。札所と札所の間の間隔も長く、ひたすら続く海岸線を歩いていかなければならず、まさに修行です。

空海も四国巡礼ではこの土佐の地で悟りを開いたと言われています。楽曲も壮大な大自然や、どこまでも広がる空と海を表現しているような音楽が流れます。

・伊予(菩提の道場):69小節~97小節(参考音源2:50~4:40頃)

愛媛・観自在寺の山門。
観自在寺は八十八ヶ所中の第四十番目の札所で、第一番札所より最も離れていることから「四国霊場の裏関所」と呼ばれている。

テンポが落ち着きAdagioでサックスアンサンブルが奏でられ、楽曲は伊予(愛媛)の部分に入ります。

変ロ長調(B-dur)の明るく柔らかい響きで始まったサックスアンサンブルのフレーズはその後、木管楽器に受け継がれます。

個人的には緩やかなテンポで奏でられる色彩溢れる音楽が酒井作品の特徴だと思っているので、この辺りは酒井作品らしさが1番出ている部分だと思います。音楽はその後金管楽器も加わり徐々に盛り上がっていきます。

この曲で度々重要な役割を与えられているトロンボーンセクションはハーモニーを奏でたりシンコペーションのリズムを吹いていたりと、一見すると裏方の役割を担当しているように思えますが、実はそうではありません…!

例えば86小節目からの6小節間、他の楽器が気持ち良く旋律を奏でている部分でトロンボーンはシンコペーションのリズムを吹いていますが、ここでこの役割を担っているのはトロンボーンだけなのです!

トロンボーンがもしこの場面でこのリズムを吹いていなかったら音楽が停滞してしまうようは箇所なので、裏方のように見えても非常に重要な役割だと思います。

トロンボーン目線で長々と書いてしまいましたが酒井さん、オイシイ楽譜を書くなぁ…!と思ってしまいました。笑

・讃岐(涅槃の道場):98小節~ラスト(参考音源4:40~ラスト)

香川・大窪寺。
大窪寺は八十八ヶ所中の最後の札所で、無事満願成就した人が今まで一緒に巡った「金剛杖」が納められています。

Allegro agitatoの速いテンポに再び戻り、楽曲は讃岐(香川)に入ります。

土佐の場面でのトロンボーンのフレーズが再び登場し、すぐに金管楽器も加わり盛り上がっていきます。

盛り上がりが頂点に達すると、突如視界が開けたかのような一瞬のパウゼの後にトロンボーンセクションの美しく力強いコラールが奏でられます。いやぁ、本当にトロンボーン大活躍ですね…!

トロンボーンのコラールが終わると、今までの巡礼の旅を回想するかのような推進力のある音楽で曲はそのまま終盤に向かいます。

曲の最後にティンパニが大活躍する部分がありますが、この辺りは同じ酒井作品の『藍色の谷』を彷彿とさせます。

■収録CD

・福本信太郎指揮/昭和音楽大学 昭和ウインド・シンフォニー

先日紹介した阿部勇一作品の『交響詩《鯨と海》』も収録されている令和新風シリーズの第4弾。冒頭の陸上自衛隊による参考音源も良いのですが、CDで聴くならこちら安心して聴けるのでおすすめ。

■最後に

トロンボーン吹きの目線で解説してしまったため、ほとんどトロンボーンの活躍しか触れていませんが、他の楽器も満遍なく活躍する場面が与えられています。

オーボエやファゴットなどはオプションで編成的には中編成、出版社表記のグレードも4で中学生~高校生のバンドでも充分演奏可能な楽曲かと思います。

四国のご当地バンドを中心に様々な団体で演奏して欲しい1曲です!

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