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【楽曲解説】交響組曲第2番「GR」(天野正道)

 本日紹介するのは天野正道(あまの まさみち)作曲の交響組曲第2番「GR」です。
 天野正道の交響組曲シリーズの中でも特に人気の高い「GR」シリーズより、交響組曲第2番「GR」の解説をします。

 GRシリーズについては複数のバージョンがあり混沌としているため、まず最初に本noteで解説する内容/しない内容を明記しておきます。本noteで解説しない部分についても別noteにて今後楽曲解説予定です。

[本noteで解説する内容]
 ・交響組曲第2番「GR」(管弦楽全曲版)

[本noteで解説しない内容]
 ・交響組曲第2番「GR」より(吹奏楽全曲版)
 ・交響組曲第2番「GR」より トレインチェイス・エディション(管弦楽版・吹奏楽版)
 ・交響組曲第3番「GR」より(管弦楽版・吹奏楽版)
 ・「GR」よりシンフォニック・セレクション
 ・「GR」より明日への希望
 ・交響組曲"GR"「地球が静止する日」 など

■参考音源

天野 正道指揮/ワルシャワ・フィルハーモニックオーケストラによる演奏
※Youtubeのタイトルが交響組曲第3番「GR」と記載されていますが、正しくは交響組曲第2番「GR」の音源です。

■そもそも「GR」とは?

 一連の「GR」シリーズの原曲となるのは天野正道が作曲を手がけたオリジナル・ビデオ・アニメーション(以下、OVAと記載)である、『ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日』内の劇中曲です。

 1992年〜1998年にかけて5年半かけて全7話で発売されたOVAで、総再生時間は5時間半程度なので、最近の感覚だとちょうどアニメワンクール分くらいの時間ですね。

 昨年12月にOVAの全7話がブルーレイ1本にまとまって再販されたことにより、ストーリーをいっき見することがだいぶ容易になりました。
 (このブルーレイが発売されるまではプレミア価格が付いていたりと、とにかく実際のストーリーを追う手段が限られていました…。)

 このnoteでは交響組曲「GR」シリーズ内の楽曲がどの原曲(サウンドトラック)と紐づいているのか、という点を中心に記載しますので「劇中のどのような場面の音楽なのか」を知りたい方はぜひ↑のブルーレイからストーリーを追ってみてください。

 天野正道の作曲した劇中曲に話を戻します。5時間半程度のOVAの中で使用される楽曲はなんと100曲超!一部有名な管弦楽曲・オペラの編曲も含まれますが、そのほぼ全てが天野正道氏の手によって新規に作曲・録音されています。

 しかもその100曲超の楽曲はすべてポーランド国立ワルシャワ・フィルハーモニック・オーケストラを起用している、という点も驚きです。
 オルガンやコーラスまで加えたフル・オーケストラの楽曲を贅沢に使用するというのは。劇場映画で使用される音楽並み(それ以上かもしれません)に豪華な体制でした。

 ここまで豪華なのは当時(今でもそうですが)異例とも言える力の入れ具合で、交響組曲第2番「GR」のCDブックレットでも次のように述べられています。

 アニメに限らず最近の映画音楽と言えば、シンセサイザーなどに代表される電気の音であったり、生楽器を使ったとしても小編成であったりする。もちろんそれらも良いものではあるが、オーケストラ作品をしかもオリジナルでとなると、ハリウッドでしかお目にかかれない。要するに手間とコストがかかってしまうのだ。にもかかわらずこの作品はそれをやってのけた。しかもOVAという世界の中で…。

西原大樹氏によるライナーノートより抜粋(交響組曲第2番「GR」CDブックレットより)

 これらの100曲を超える楽曲はすべてサウンドトラックのCDとして発売されています。下記リンクを見ると分かる通り、エピソードごとにCD収録されており本編のみのサウンドトラックでCDが全7枚リリースされています。

 さまざまなバージョンがある「GR」シリーズですが、いずれも上記サウンドトラックをもとに再構築・編集した楽曲なので、こちらのサウンドトラックの楽曲をもとに交響組曲第2番「GR」シリーズの解説を行なっていきます。

■一言でまとめると

 ・OVA全7話の楽曲を加筆・再構築して55分程度にまとめた組曲。
 ・交響組曲第2番「GR」の元祖。(交響組曲第2番「GR」"より"とついたものはこの組曲からの抜粋)

■解説

 管弦楽版の交響組曲第2番「GR」は天野正道がOVA「ジャイアントロボ」の完結後に全7話の楽曲を加筆・再構築して55分程度にまとめた組曲で、Part1とPart2の大きな2部構成に分けられた楽曲です。

 この後に登場する『交響組曲第2番「GR」より(吹奏楽全曲版)』や、『交響組曲第2番「GR」より トレインチェイス・エディション』など、交響組曲第2番「GR」"より"がついているものは、こちらの管弦楽全曲版をもとに抜粋した楽曲となります。

 激しいリズム、不協和音の多用、弦楽器によるノイズ、不気味でグロテスクな木管楽器などのメロディが入り乱れ緊迫感の中で曲が進んでいく不穏な印象を与える「Part1」、全体的に勇敢・ロマンティックな楽曲が多く華々しい印象を与える「Part2」と、全体で55分程度の楽曲でありながら飽きさせない作りになっています。

■使用楽曲について

 以下、楽曲で使われている原曲と合わせて解説していきます。
 サントラの曲名の後ろに記載している数字の(n-n)部分は該当のサントラが収録されているCDの番号(=OVAのエピソード番号)と曲順を示しています。

[Part1]

Part1はOVAの後半のエピソード(5〜7)の楽曲を多く使用しています。先に述べた通り、全体的に緊張感のある不穏な雰囲気が特徴的です。

0:00〜 →  十傑集出撃せよ(6-7)

 オーケストラの低音群によるミステリアスな序奏によりPart1が始まります。こちらで使用されている楽曲はエピソード6の「十傑集出撃せよ」です。サントラの内容がほぼそのまま使われています。

7:00頃〜 → 水中での会話(2-13)

 弦楽器の伸ばしの上にピアノ・ハープのアルペジオが乗っかり、その後弦楽器のグリッサンドなどが自由に動き回りノイズ的な役割を演出します。
 全体的に不気味な雰囲気で、こちらはエピソード2の「水中での会話」のサントラがほぼそのままの形で使われています。

8:30頃〜 → エマニュエルとファルメール(5-8)

 ファゴットなどの8分音符に乗っかり、行進曲風の音楽が奏でられます。エピソード5「エマニュエルとファルメール」の楽曲で、こちらもサントラほぼそのままの内容です。

11:30頃〜 → 幻夜の宣言(5-2)

 打楽器セクションが目立つ拍子感の掴めない音楽で始まります。途中7/8拍子となる箇所もあり、緊張感のある楽曲です。エピソード5「幻夜の宣言」の楽曲が使われています。

16:10頃〜 → 大団円へのプレリュード(7-1)

 低音楽器のロングトーンにスネアなどの打ち込みが加わる伴奏と、それに続くホルンの勇敢な旋律が印象的な楽曲です。こちらはOVAエピソード7より「大団円へのプレリュード」の楽曲の冒頭1分程度を抜粋した抜粋した楽曲です。

17:40頃〜 → 追憶(6-10)

 弦楽器による暗い雰囲気の音楽から始まり、その後16分音符の刻みで若干前向きな音楽となります。こちらはOVAエピソード6「追憶」の楽曲を抜粋して使用されています。(冒頭30秒ほどがカットされています)

20:30頃〜 → 十傑集VS幻夜(6-1)

 クラリネットの低音によるミステリアスなフレーズから始まります。途中コーラスなども加わり、全体的に不穏な雰囲気のまま楽曲が閉じられます。
 こちらはOVAエピソード6「十傑集VS幻夜」の楽曲をほぼそのまま使用しています。

[Part2]

Part2ではOVA前半(1,3)などのエピソードも使用されます。Part1での不安に立ち向かうような華々しい楽曲が多く、全体的に勇壮でロマンティックな楽曲が多い印象です。

0:00〜 →  G.R.発動す!!-G.R.1号vs-G.R.2号(5-4)

 トランペット・トロンボーンによる3連符の掛け合いのファンファーレが印象的な楽曲です。終盤には感動的なコーラスのフレーズも入り、1曲のなかでも様々な表情を見せる楽曲です。
 エピソード5の「G.R.発動す!!-G.R.1号vs-G.R.2号」楽曲がほぼそのまま使われています。

5:30頃〜 → フォーグラーの上陸(3-10)

 8分音符の伴奏、その上に乗っかる弦楽器のフレーズ含め全体的にガシガシ進んでいくような印象の行進曲的な楽曲です。途中、ストラヴィンスキーの『春の祭典』を彷彿とさせるような強烈なリズムの箇所もあり、トロンボーン・ホルンの歌うようなソロも印象的。
 エピソード3の「フォーグラーの上陸」のサントラの楽曲を使用していますが、フルではなく冒頭4分程度まで(スネアのロールまで)の抜粋となります。

9:30頃〜 → エンディング・テーマ/ビッグ・ファイアのテーマ(5-15)

 ティンパニの強烈な打ち込みとそれに続くホルンセクションの勇敢な音楽が印象的な楽曲。エピソード5の「エンディング・テーマ/ビッグ・ファイアのテーマ」の楽曲がほぼそのまま使用されています。

11:45頃〜 → 雪山のグレタ・ガルボ(5-1)

 低音の伸ばしと金属系(アンビルでしょうか?)の打撃音による印象的なイントロの後、弦楽器と木管楽器による歌うような旋律が続きます。これまでの雰囲気とは打って変わって落ち着いた雰囲気の楽曲で、束の間の休憩のような安心感があります。
 エピソード5の「雪山のグレタ・ガルボ」の楽曲がほぼそのまま使われています。

15:00頃〜 → 発令!電磁ネット・ワイヤー作戦(3-9)

 スネアと弦楽器の刻みで雰囲気が一変し、ホルンの勇敢な旋律が奏でられます。
 エピソード3の「発令!電磁ネット・ワイヤー作戦」の楽曲をほぼそのまま使用しています。

19:00頃〜 → トレイン・チェイス!~黒いアタッシュケースの行方(1-3)

 弦楽器の疾走感と緊張感のあるフーガが印象的な楽曲です。その後、木管楽器なども加わりカオスな雰囲気に。そのまま5分半ほどスピード感を増しながら駆け抜けるような楽曲です。
 エピソード1の中でも強い印象を与える「トレイン・チェイス!~黒いアタッシュケースの行方」の楽曲を使用しています。

24:45頃〜 → エンディング・テーマ(3-15)

 前の楽曲がひと段落し、平和的な弦楽器の旋律が奏でられます。最初は小さい音量から始まりますが、コーラスなども加わり徐々に音楽が広がり、最終的には圧倒的な感動のクライマックスを迎えます。
 エピソード3のラスト、「エンディング・テーマ」を使用した楽曲で55分の組曲が締めくくられます。

■収録CD

・天野正道指揮/ポーランド国立・ワルシャワ・フィルハーモニックオーケストラ 『交響組曲第2番「GR」』[CAFUAレコード CACG-0017]

 参考音源として紹介したYoutubeの管弦楽全曲版の収録CDです。公式サイトだと現在は品切れ状態のようですが、CAFUAレコードからの発売のため流通量も比較的多く、エピソード1〜7のサウンドトラックCDよりは入手しやすいと思います。
 (若干割高ですが)上記Amazonから購入するか、フリマサイトなどでも稀に出品されているので見かけたら購入してみると良いと思います。

■最後に

 今回は天野正道の交響組曲シリーズの中でも一番最初に人気となった交響組曲第2番の管弦楽全曲版について解説しました。

 本当は同じ枠組みで吹奏楽版全曲版である『交響組曲第2番「GR」より』や、『交響組曲第2番「GR」より トレインチェイス・エディション』も本noteで解説をしたかったのですが、既に5,000文字を超えており読む方も(そして書く方も)しんどくなってくるので別途解説していきます。

 Youtubeでの音源試聴や収録CDの入手が容易となった時代ですので「GRの吹奏楽版は聞いたことあるけれど、管弦楽全曲版やさらにその元となったサウンドトラックを聴いたことがない」という方は、このnoteを参考にぜひ聴いてみてください。

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