見出し画像

【吹奏楽曲解説】吹奏楽のための交響曲「ワインダーク・シー」(J.マッキー)②

 今回はアメリカを代表する作曲家ジョン・マッキー(John Mackey)作曲の「吹奏楽のための交響曲『ワインダーク・シー』」(原題:Wine-Dark Sea : Symphony for Band)の第2楽章について、解説をしていきます。

 第1楽章の解説をしたのが2022年の2月でしたので、そこから2年ほど間が空いてしまいました…。
 第1楽章の解説はnoteで書く1本目の曲解説だったためいま見返すと拙い文章ではありますが、noteのアクセス状況を確認すると第1楽章の記事は今でもそこそこアクセスいただいているようなので、先延ばししていた第2楽章の解説を書くことにしました。
 こんな自己満解説の記事ですが、読んでいただいている方ありがとうございます。大変励みになります!

※第1楽章の解説記事は以下からどうぞ。

 今回は第2楽章「儚い永遠の糸」(Immortal thread,so weak)の解説です。


解説:第2楽章「儚い永遠の糸」(Immortal thread,so weak)

ざっくりイメージ「オデュッセウスとカリュプソー」

 1楽章ではオデュッセウスの物語も序盤、長い旅が始まったばかりの場面でしたが2楽章「儚い永遠の糸」(Immortal thread,so weak)では物語後半に飛び、海の女神カリュプソーの島のエピソードとなります。

 ワインダーク・シーの曲ではほぼほぼすっ飛ばされていますが、カリュプソーの島に辿り着くまでのオデュッセウス一行は
・魔女キルケーの住む島に辿り着き部下を魔法で動物に変えられてしまう
・冥界(あの世)にいるテイレシアスという預言者に会いに行く
・上半身は人間の女性、下半身は鳥の姿をした怪鳥セイレーンに襲われる
…などそれはもう壮絶な旅をしています。

海の女神カリュプソーの島でのエピソード

ヤン・ブリューゲルの絵画『オデュッセウスとカリュプソー』(Wikipediaより)

 部下が全滅しながらもオデュッセウスは一人海を漂流して十日、瀕死の状態で海の女神カリュプソーの島に辿り着きます。
 今まで散々な目に遭ってきたオデュッセウスからするとカリュプソーの島は楽園のように感じたかと思います。
 島に唯一住むカリュプソーも島に訪れたオデュッセウスに一目惚れしてしまい、二人の間に恋が芽生えなんと7年もの歳月をこの島で過ごしてしまいます。(妻がいるというのに…!)

 第2楽章冒頭、ハープ・ヴィブラフォン・ピアノによって静かな浜辺の波を表現したような和音で始まります。
 その後、クラリネットのソロを始めとした木管楽器によって旋律が奏でられます。献身的に看病する女神カリュプソーの結ばれない恋を表しているのかのような、美しくもありどこか切ない音楽です。

 カリュプソーとの甘い生活を送っていたオデュッセウスですが、ある日ふと我に帰ります。
 「自分を待っている妻や友のもとに帰りたい…!」そう考えたオデュッセウスはカリュプソーに故郷へ帰ることを告げます。

ざっくりイメージ「故郷に帰りたいオデュッセウス」

 7年もの歳月を一緒に過ごしたオデュッセウスが故郷へ帰ると聞き、悲しみに沈むカリュプソーですが、別れを受け入れオデュッセウスの帰国のための準備を手伝います。
 長い旅路に備えた食料や水、酒の準備だけでなく、オデュッセウスのいかだ船が無事に航海出来るよう、自らのタペストリーから紐解いた糸をいかだの帆の部分に織り込みます。(カリュプソー、健気で性格が良すぎます…!)
 しかし、オデュッセウスの気持ちはこの時すでに故郷に向いており、出発の際にはカリュプソーのことを振り返ろうともしませんでした。

 第2楽章中間部は不安定さを感じさせる各楽器のソロが折り重なり、徐々に盛り上がりを見せひとつの頂点を迎えます。
 このあたりの音楽は上記のような「オデュッセウスとカリュプソーの心の移ろい」「悲しみながらもオデュッセウスとの別れを受け入れるカリュプソーの心情」「故郷への帰還を決心したオデュッセウス」などを表現しているのかもしれないですね。

 第2楽章後半は再びクラリネットの旋律が戻ってきます。オデュッセウスが船出をし再び島で一人過ごすこととなったカリュプソーを表すかのような儚い音楽で、ハープによって静かに第2楽章が閉じられます。

最後に

 今回は吹奏楽のための交響曲『ワインダーク・シー』の第2楽章「儚い永遠の糸」(Immortal thread,so weak)の解説をしました。
 海の女神カリュプソーの島でのエピソードはWikipediaなどでも細かく書かれているので演奏の際には参照すると良いかと思います。

 第1楽章、第3楽章は金管・打楽器を多用していて迫力はあるのですがどうしても長く聴いていると疲れてきてしまいます。
 木管・ハープ主体の美しく切ない響きの第2楽章が間にあることによって楽曲全体のバランスが取れているように思えます。

 なお、余談ですがマッキーはこの第2楽章だけを抜粋・改作した「ディス・クルーエル・ムーン(残酷な月)」(原題:This Cruel Moon)という楽曲を作曲しています。
 ワインダーク・シー全曲を演奏するのは難易度が高い(演奏時間が長い)…というようなバンドはこちらの楽曲を演奏会などで取り上げてみるのも良いかもしれません。

 別途第3楽章の解説もnoteに書いていこうと思いますので、気長にお待ちいただければと思います。

 ※2024/2/29追記:第3楽章の解説を投稿しました。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?