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【書籍レビュー】吹奏楽作品 世界遺産100 後世に受け継がれゆく不朽の名曲たち

 Amazonで予約していた『吹奏楽作品 世界遺産100』の書籍が届いたので早速ざっと読んでみました。
 以下、書籍の紹介と感想です。

■書籍情報

タイトル:吹奏楽作品 世界遺産100 後世に受け継がれゆく不朽の名曲たち
著者:伊藤康英、鈴木英史、滝澤尚哉
出版:音楽之友社
定価:1,980円 (本体1,800円+税)
判型・ページ数:A5・160頁
発行年月:2024年3月
ISBNコード:9784276147058

※音楽之友社ホームページより抜粋

■書籍の内容について

 作曲家の伊藤康英氏、鈴木英史氏と吹奏楽指導者で洗足学園音楽大学非常勤講師の滝澤尚哉氏の3名の執筆者が選んだ100曲の吹奏楽作品について紹介する「吹奏楽の楽曲ガイド」のような位置付けの書籍です。

 執筆者の1人伊藤康英氏の前書きにも以下のコメントがあるように「優れた作品を吹奏楽関係者だけでなく音楽愛好家にも知ってもらいたい」との想いが詰まっています。

 これからの日本の吹奏楽の行く末に思いを馳せたとき、吹奏楽に携わる人たちには、優れた作品をまず知ってもらいたい。そこで「世界遺産」とでも冠するにふさわしい作品100を選び出した。そして玉石混淆の情報夥しい昨今ながら、なるべく正確な資料、そしてこれまで知られていなかった情報なども加味して、この本を上梓する運びとなった。
(中略)
 なお本書は、2024年に創立100周年を迎えた洗足学園の100周年記念プロジェクトとして、洗足学園音楽大学の共同研究費を利用し製作された。多くの吹奏楽愛好家の役に立ち、日本の吹奏楽の将来がより活性化することを祈念する。そして吹奏楽関係者のみならず、一般の音楽愛好者にも吹奏楽を知ってもらうきっかけになることを願っている。

※書籍の「はじめに」より抜粋

 本文中に取り上げられる100作品はまず最初に作品名、作曲者(出身、生誕年~死没年)、演奏時間(組曲等は楽章ごとの時間も表記)、難易度が見出しに記載されています。
 そして本文中に委嘱者・団体、初演データ、出版社、編成(打楽器も省略なし)を記載し、執筆者の解説という構成になっています。3人の執筆者のうち誰が書いた文章なのかは作品ごとに解説の最後に明記されています。

 他の吹奏楽関連の書籍と比較してみます。
 コンクールで取り上げられた作品を中心に、広く浅く作品を紹介するアルテスパブリッシング社『聴かずぎらいのための吹奏楽入門』と比べると、触れられている作品数は少ないかもしれませんが、作品ごとの基本データはこちらの『吹奏楽作品 世界遺産100』の方が内容が充実しています。

 1曲ごとに丁寧に作品を紹介していく書籍なので、昨年出版されたスタイルノート社『アルフレッド・リードの世界 改訂版』や、発売から25年以上経った今でも色褪せない名著である立風書房『200CD吹奏楽名曲・名演:魅惑のブラバン』に近いスタイルの書籍かと思います。

■書籍を読んだ感想

良かった点:必要な情報がコンパクトにまとまっている

 本を手に取った最初の感想は「思ったより薄い…?」でした。A5サイズで160ページなので持ち運びもしやすいサイズかと思います。

同じくA5サイズの昨年発売された「アルフレッド・リードの世界 改訂版」と比較して半分程度の厚さです

 しかしながら内容はしっかりと充実しています。作品の基本データが100曲すべてに記載されており、特に打楽器を「Percussion1〜4」などと省略して表記せず使用楽器をきちんと記載しているのは流石です。この本をもとに選曲する方のことまで考えられているのかと思います。

 また、もとになる原曲・民謡がある場合はそれらも譜例付きで紹介されていて解説が充実しています。特にグレインジャーの『リンカンシャーの花束』は独特の音楽用語の紹介含め、8ページにわたって解説されています。

良かった点:本文中で触れられている楽曲は100曲以上ある

 執筆者による解説の中では同じ作曲者の他の楽曲や、作曲家と同じ出身の別の作曲者の作品を紹介するなど「少ないページ数の中で如何に色々な作品を紹介するか」という点の工夫が感じ取れます。

 例えばネリベル。100曲での中で紹介されているのは『二つの交響的断章』『復活のシンフォニア』ですが、本文中では『トッカータ・フェローチェ』『サンド・サイレンス・ソリチュード(The S-S-S)』『交響的断章』『トリティコ』『アンティフォナーレ』『フェスティーヴォ』などの楽曲も触れられています。

巻末の作品名インデックス(画像加工しています)


 これらの本文中で触れられた楽曲を含め書籍の最後に作品名インデックスが付いておりますが、ざっくり数えても300〜400曲程度は取り上げられているかと思います。
 なので、この書籍を読み終わったあとに「解説で取り上げられている100曲以外にも色々聴いてみたい!」となった場合でも、いろんな作品に手を広げやすいかと思いました。

良かった点:コラムが充実

 作品紹介の合間にコラムや執筆者3名の対談のページがありますが、この内容が非常に充実しています。

 例えば、「グレインジャーの素晴らしき作品」というコラムでは執筆者それぞれがグレインジャー作品を10作品ずつ紹介して、魅力を一言で簡単に紹介しています。

 特に内容が充実しているのが書籍の最後に載っている「世界の音楽家に聞く 世界遺産曲」の部分です。この特集ページでは、海外作曲者の枠でL.S.アラルコン、B.アッペルモント、J.バーンズ、J.デ=メイ、T.マー、J.ヴァンデルローストの各氏が推薦する吹奏楽作品10作品が紹介されています。(絞りきれない場合はそれ以上、とありますが大体の方が10曲を大幅に超えて紹介しています。笑)

 上記名前を挙げた方以外でも海外指揮者・バンドディレクター、日本人の作曲者・プレイヤーが推薦する吹奏楽作品がアンケート形式で挙げられています。

 作曲者とプレイヤーが推薦する曲の違い、海外作曲者から評価されている邦人作品…等、正直この特集ページだけでもしばらく眺めていられるくらい面白いです!

気になった点:解説が多い作品と少ない作品で文量の差が激しい

 良かった点で解説が充実している作品を挙げましたが、目次や索引、コラムなどを含んだ160ページで100作品というページ数の都合上、解説が一言程度になってしまっている作品もあります。

 特に第4章「多彩な世界遺産」はその傾向が顕著です。この章は1ページ2段組の記載で1段1作品の解説となっているページが目立ちます。(つまり見開き1ページで4作品の紹介です。)

 8ページに渡って1つの作品を解説している作品があるだけに、このように解説部分が少ない作品はどうしてもその差が気になってしまいます…。

 ページ数など様々な事情があるのでしょうが、ページ数が倍になっても良いので各作品最低でも見開き1ページで紹介して欲しかった…!というのが正直な気持ちです。

■総評

 良かった点・気になる点を挙げさせていただきましたが、近年発売された吹奏楽関連の書籍の中でもかなり内容が充実している書籍だと思いました。

 吹奏楽CDがなかなか発売まで辿り着けない冬の時代の中、このように内容が充実した吹奏楽関連の書籍を発売していただけた関係者の皆様には頭があがりません…!

 「なぜこれが選ばれてこれは選ばれないのか?」という作品が無いことも無いですが、膨大な作品数の中から100作品を選ぶとなると、各々の好みや重視するポイントによって選出する作品の違いはどうしても出ると思っていますなので選出された100作品について、私は概ね違和感はありません。

 SNSなどで「xxの作品が紹介されているから買う気が失せた」というような過激な意見もありましたが、個人的にはそう言った"面"ではなく"点"の批判はナンセンスだなぁと思いました。

 私が良く閲覧するサイトに「吹奏楽曲とりあえず100」というはてなブログがありますが、このページの作成者のように「各々の考える吹奏楽曲100選」みたいな流れが活発になれば面白いな…!と思いました。

 以上、長くなりましたが『吹奏楽作品 世界遺産100』の書籍の紹介と感想でした!
 第2弾がもし出るならば次は原曲がブラスバンド楽曲の吹奏楽版という作品の紹介数が減って、邦人作品の紹介数が増えてページ数も増えると嬉しいです!!

 購入は冒頭でリンクを記載した出版社ホームページもしくは以下のAmazonからどうぞ!

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