塗料の歴史 6(紀元前1000年頃、顔料編②)
⬛️古代中国の合成顔料
前回(塗料の歴史5)では紀元前1000年頃に西洋で発明された(記録が残っている)人工顔料を紹介しましたが、当然東洋でも人工顔料は発明されています。
今回紹介する人工顔料はハンブルー、ハンパープルと呼ばれる顔料で化学式はハンブルーがケイ酸バリウム銅(BaCuSi4O10)、ハンブルーよりケイ酸が少ないのがハンパープル(BaCuSi2O6)です。
今回は古代中国の人工顔料について起源、製法、用途を紹介していきたいと思います。
エジプシャンブルー
ハンブルー
⬛️起源
このハンブルーですが、起源には諸説あります。
塗料の歴史3ではエジプトの人工顔料エジプシャンブルーを紹介しましたが、エジプシャンブルーの化学式はケイ酸カルシウム銅(CaCuSi 4 O 10)でした。
実はハンブルーとはカルシウムかバリウムかの違いです。
この関係性からハンブルーはエジプトからシルクロードを渡って陶磁器用釉薬の開発、銅−亜鉛鉱石の精錬の副産物から生まれたという説。
いやいや、これはエジプシャンブルー以前に生み出されて中国独自の顔料であり、道教の導師が屈折率の高い鉛バリウムガラスの開発過程で生み出された顔料であるという説もあります。
どちらが先かには個人的には興味がないのですが、古代より東洋と西洋は繋がりが有り、影響を及ぼし合っていたことが示唆されます。
⬛️製法
個人的にはこちらの方に興味があります。
まずは反応式を示すと以下になります。
Cu2(CO3)(OH)2+8SiO2+2BaCO3 → 2BaCuSi4O10+3CO2+H2O
マラカイトと石英と毒重石を900〜1000℃で加熱するとハンブルーと二酸化炭素と水が生成されます。
マラカイト
毒重石
エジプシャンブルーとは毒重石が石灰石に置き換わっているだけです。
また、上記の反応を段階を追って行くと、まずは900〜1000℃付近でハンパープル(BaCuSi2O6)が生成されます、このハンパープルは過剰の石英存在下で長時間(20〜48時間)加熱することでハンブルーが形成されます。
このような反応形態をとるので、製造初期の頃はハンブルーとハンパープルは様々な割合で混ざって生産されていました。その為に、生産毎での色味は安定していなかったと推測されます。
現在の顔料製造でもロットブレを毎回起こしたら、塗料としても生産毎で色味を合わせる事が難しく、製造現場から「いい加減にしてくれ」と怒られます。
しかし、流石は人類です。色味を安定する工法を編み出します。
上記で示した。ハンパープルが長時間の加熱でハンブルーが形成されることに気付きます。また、ハンパープルは熱安定が悪く、分解反応を起こします。それが、ハンブルーの割合を高める為、生産を安定させることに繋がっている様です。(下記反応式)
3 BaCuSi 2 O 6 →BaCuSi 4 O 10 + 2 BaSiO 3 + 2CuO
ハンパープル が分解して、ハンブルーとケイ酸バリウムと酸化銅を生成しています。
さらに酸化銅(黒色)は熱で亜酸化銅(Cu2O、赤色)になる事がハンブルーを赤味を帯びたブルーへと仕上げる要因にもなっています。
また、ハンパープルを製造する場合はハンブルーより製造が難しく、感熱生が高い物質である為に温度管理が非常に厳密で(±50℃)長時間加熱するとハンブルーが生成され始める事から加熱を10〜24時間に留める必要があり、非常にシビアな製造条件でした。
⬛️用途
ハンブルーは秦王朝(前771−前206)で初めて使用されたとされています。
ハンブルーは当時としては製造コストも高く、一般庶民が気軽に手に入れられるものでも無かったようです。
ハンブルーを多く使用することは権力の象徴とされて、始皇帝の兵馬俑の彩色に使用されたと言われています。
兵馬俑
⬛️参考
今回はハンブルーのwikiをまとめてみました。
英語版のwikiはハンブルーまであるのかと驚愕しています。
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