信濃毎日新聞(2024年3月5日)江戸文化研究者田中優子氏による「風評加害」と題された記事への質問書

2024/03/06
信濃毎日新聞 御中

福島県在住ジャーナリストの林智裕と申します。2024年3月5日、貴紙に掲載された「今日の視角」にて、江戸文化研究者田中優子氏による「風評加害」と題された記事を拝読しました。
当該記事には明確な事実誤認が複数含まれ、SNS等では福島でいまも風評に苦しむ被災者をはじめとする多数の人々から差別助長につながるという批判の声、貴紙および田中氏の責任を問う声が溢れ、いわゆる「炎上」状態になっています。
個人的にも双葉郡内に先祖代々の出自を持ち、今も福島に暮らし続ける住民の一人として福島への差別を助長する内容は看過出来るものでは無く、ここに強く抗議致しますと共に、ジャーナリストとしていくつかの質問をお送りさせて頂きます。
つきましては、お忙しいところ恐縮ですが、3月8日(金)までに、【メールアドレス】宛に、下記質問に対するご回答をお願い申し上げます。なお、頂いた回答やご対応内容はお返事の有無も含め、書籍や雑誌等各種媒体の記事、SNSなどで公開する可能性があることを予めご了承ください。



(1)田中氏は当該記事において「政府はコストを基準に海洋放出を決めた」「結局~どの方法より高くなった」とするが、この記述は明確に事実に反しています。何を根拠にそう主張したのでしょうか?
必ず具体的・客観的な根拠を明示した上での回答をお願いします。

(2)田中氏は当該記事において、スリーマイル島原発事故後、「助言委員会」なるものが「13年間にわたって汚染水処理の方法を議論し」たことに倣い、「議論をして結論を出すべきだった」と述べています。ただ、スリーマイル島原発事故の廃炉プロセスにおいて「13年間」の「汚染水処理の方法の議論」でその「結論を出」した事実はありません。何を根拠にそう主張したのでしょうか?

(3)同じく、田中氏は当該記事において、スリーマイル島原発事故後の対応に倣って「議論をして結論を出すべき」とし、そのためには「日本政府は地元漁民、科学者の他、韓国、中国、太平洋の島々の代表者と共に納得ゆくまで議論」をすべきと主張しています。
しかし、スリーマイル島原発事故に関する、田中氏が「助言委員会」とおそらく表現しているであろう会議体に、地元漁民、外国人が含まれていたという事実もありません。何を根拠にそう主張したのでしょうか?

(4)田中氏は当該記事において、「風評対策費は科学的調査と情報共有ではなく、原発でお馴染みの「安心・安全」の宣伝に使われている」としていますが、ここでいう「風評対策費」に当たりえる予算を網羅的に確認してもそのような事実は存在しません。何を根拠にそう主張したのでしょうか?

(5)田中氏は当該記事において、「多くのメディアが中国を非難した」ことを問題視しています。
しかし、その原因は中国政府が影響を及ぼしたと考えられるフェイクニュースが国内外で盛んに流され、SNSでも日本への非科学的・差別的な投稿が繰り返され、その結果、福島県内の罪なき人々に対して、中国から無数の「嫌がらせ電話」が発信されるなど具体的な被害が生じたことにあるのは多くの報道が示してきた通りです。これは福島の被災者にとっては具体的かつ深刻な被害であり、政府や国内メディアが中国を非難すべき事実は十分に存在しています。
一方で、ALPS処理水の安全性と海洋放出の妥当性はIAEA(国際原子力機関)もG7(先進国首脳会議)も認め、支持を表明しています。中国が問題化を図った昨年9月の東南アジア諸国連合の関連首脳会議でも、中国側の強い要望にもかかわらず全く賛同を得られていません。
そして、田中氏の記述する「多くのメディア」が何を指すかは不明ですが、例えば読売新聞は2023/08/29の社説にて「市役所やホテル・旅館、小中学校、飲食店などに、中国の国番号『86』で始まる番号からの迷惑電話が多数あった」としつつも、同時に「日本政府は、中国の宣伝戦に冷静に対処し、処理水の安全性を客観的なデータに基づいて国際社会に説明し続けることが重要だ」と日本政府への批判的視点も示しています。
これらの事実がある上で、田中氏は当該記事において、日本が「事故を起こした」「近隣に迷惑をかけた」加害者であるのにメディアがその「論点ずらし」をした、と論じております。具体的にどこにそのような事実があったのでしょうか。具体的根拠をお示し頂けますか?

(7)前述の通り、処理水についてはIAEAが安全性を認め、主要先進国も支持をしています。問題視しているのは中国、ロシア、北朝鮮とその強い影響下にある国などの少数に限られます。しかも、処理水放出後に日本の水産物を禁輸した中国とロシアの漁船はその後も福島県沖で漁をしています。
田中氏は当該記事において、「科学的に正しい完璧な処理方法はまだ発見されていない」としていますが、何を根拠にそのような主張をし、貴紙はその主張を掲載したのでしょうか?

(8)田中氏は「「風評被害・加害」という言葉は事実に蓋をし、言論を封じることや、さらなる科学的検証を抑制する」としていますが、そのような事実はありません。何を根拠にそう主張したのでしょうか?

(9)上記、(1)から(8)の質問について、仮に「田中優子氏の考えや発言だったから信濃毎日新聞は関知しない」という旨を主張するとしても、事実に基づかない情報をそのまま何ら注釈無く掲載した以上、誤情報を拡散させた責任は当然ながら貴紙に存在します。誤情報が福島やそこに暮らす人々への差別・偏見を助長し続けている現実がある中で、事実誤認が確認された場合、貴紙は訂正・謝罪をする予定はありますか?

(10)貴紙2017年12月2日の社説では、福島の県民健康調査に触れ、「これまでに甲状腺がんと診断された人は154人、疑いは39人に上る。それでも検討委は『放射線の影響とは考えにくい』と繰り返し、事故との因果関係を認めていない。断定するには長期の調査が要るのかもしれない。」と主張しています。しかし、この時すでに国連科学委員会による検証は進んでおり、報告書が2013年、2016年、2017年と出され、そこに書かれた事実にこの主張は反しています。何を根拠にそのような主張をしたのでしょうか?
以上


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