リコーダーおじさんが食卓を豊かにする

駅の向こう側のスーパーに用事があり、いつも通り慣れた通路を歩く。すると、いつもは聞こえない、なんだか澄んだ音色が聞こえてくる。

遠くに目をやると、通路の端でおじさんがリコーダーを吹いている。ガン見するのも悪い気がするし、素通りするのも悪い気がする、とにかく当たり障りないように通路を抜け、スーパーへ向かう。

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リコーダーの音色は外まで聞こえてくる。おじさんは、どんなことを考えながら演奏しているんだろう?恥ずかしくないのか?寒くないのか?いろいろなことを考えながら、気が付くと自販機の前にいた。缶コーヒーの一本でもプレゼントしたら、会話のきっかけになるんじゃないか。130円という安い料金で、ちょっとしたエンタメが楽しめるんじゃないか。

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ホットコーヒーを手に、通路へ戻る。すれ違う女子高生たちは「ヤバい人いたね」と会話を交わす。外でリコーダーを吹いているという行為は、冷静に考えると特にヤバくはないんだけど、普段やる人がいないだけに注目をあびるのだろう。若い人がギターの弾き語り、だとよくある光景だと思うのだけど、リコーダーをおじさんが、ていうのは確かに異質かもしれない。

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戻ると、おじさんは「海の見える街(from 魔女の宅急便)」を演奏中。わかってるね〜。わたし、フルートでもピッコロでも吹きましたよ〜!

「こんにちは」と声をかけ、よかったらどうぞ、とコーヒーを渡す。おじさんの第一印象は物腰柔らかいいい人。「いえいえ、そんなお構いなく」と謙遜するが、押し付けてきてしまった。

「きれいな音色ですね、いつも路上ライブしてるんですか?」と尋ねると、「遊びでやってるだけです」と。あまり人目を気にせず、楽しんでやっているみたい(すごいメンタル)。

あまり長居してもあれなので、あとで飲んでください、応援してます!とその場をさわやかに去る。

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リコーダーおじさんは駅で遊んでいただけかもしれないけど、案外多くの人をしあわせに、というか非日常のソワソワを与えてあげたのではないだろうか。女子高生の会話のネタにもなる(きっと「ヤバい」の意味はポジティブ)し、素通りするサラリーマンも家についたら「駅でこんな人がさ〜」と食卓を盛り上げる。

なにより、自分が早速こうして文章を書いている。なんだか素敵な一日になった、気がする。

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かくいう自分も、何回か路上リコーダー経験があるのだけど、アレは本当に緊張する。誰からも声をかけられない。声をかけてもらって、差し入れや投げ銭をもらったときの感動は何ものにも代え難い。ということを知っているから、プレイヤーを見ると余計そういう気持ちが芽生えるのかもしれない。

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理想は、誰でもその辺で勝手に歌ったり踊ったりしちゃう世界なんだけどね。

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やったー!わたしも好きです!
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ハヤシユウ

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