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恋の持ち腐れ

仲の良い友達が最近同じワンピースを良く着ているので似合ってるねと褒めたら、驚く程可愛らしく顔を紅くしながら彼女は少し早口で、

「そう!このワンピ凄い気に入ってるの!一目惚れしてね、だから毎日でも着たいくらい好きなんだよ」と

あまりに無邪気で、まるでその服とは運命的な出会いだったと言わんばかりのその笑顔が可愛かった。好きなものを好きと言える人がする太陽みたいな表情がずっと脳裏に焼き付いていた。

そして、私はその日の夜、なんとなしに自分の1番気に入っているワンピースを取り出し、改めて眺めてみる。その服は、私にとって彼女と同じように、凄い気に入って、一目惚れして奮発して買った服。けれど彼女と徹底的に違うのは、そのワンピースに対して

「好き過ぎて着れない 」という奇妙な愛で方をしている事

普段着ている服も、どんなにお気に入りの服があっても、まぁ好きでも嫌いでもないシンプルで万能な素材も値段も程度のいい服を結局選んで着てしまう。
私は昔から大好きで大好きで大好きが過ぎると途端に手を出せなくなるのだ。
大好きなものは毎日でも着ていたいという彼女の思考とは真逆だ。むしろ大好きなもの程頻繁に着たくないし、特別な時に着て行きたい。
でも、だからって特別は日常に溢れていないから、こうしてひたすらに大好きな気持ちだけを溜め込む。

おそらくこれは服に特化した思考ではなくて、大好きなお店を見つけても、あえてやたら頻繁にはいかないし、大好きな人ができても、どれ程好きかを気軽に口にしようとはしない。好き過ぎてしまうと、胸の内に秘めてしまうこの癖はきっと小さな頃から。実に馬鹿げた話だと、友達に言えば笑われるのは分かってる。

だけど今日だって、私のクローゼットの中に眠る上質なワンピースや、誰にも見えない心の奥にある気持ちが、大好きなのに、大好きだから 大好き過ぎてはち切れそうだというのに、今日だって、ただただ持ち腐れていくのです。


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