落とし物で怖い目にあった話


公園で大量のひょっとこの面を消毒し乾かしていると、短パンをハイレグ状に引き上げ生足を見せつけるオヤジが現れた。

オヤジが短パンに手をかけ、いよいよハイレグ化すると思われたその時、強風でひょっとこが飛び散った。

オヤジのハイレグの威力に耐えかねたようになってしまった。

ひょっとこの捜索の協力を要請したがオヤジが逃走した為、一人で行う事なった。
茂みに入ると、今度は巡回の警官が現れ
「何してます?」
と、訊ねてきた。
「ひょっとこを集めてます」
と、正直に答えると警官の思考が追いつかなかったのか暫し沈黙が訪れた。
説明が足りぬと付け足したが
「あと8人います」
と申した為に、この公園にあと8人もひょっとこが潜んでいるという不気味な事態となった。

何故コイツはひょっとこを乱獲しようとしているのだろうかと理解に苦しんでいるようであった。
その最中、警官と私の横をひょっとこを被った子供が駆け抜けていった。
そのすぐ後ろを母親が追いかけ
「ごめんなさい、すぐ捕まえますので」
と、走り去っていった。

何とか警官にはご理解頂いた。
「ほどほどに…」とエールを頂き別れた後、茂みの奥へ進むと見知らぬ柴犬がひょっとこを齧っていた。

ひょっとこが一人、犬にやられてしまった。
犬は首輪はしているものの、あたりに飼い主の姿は見られなかった。
動物病院へ一報を入れた後、犬を抱え曲がり角を曲がると、ハイレグのオヤジと先程の警官が視界に現れた。
ハイレグがばれたのか、警官に呼び止められ注意を受けているようであった。

一日に二回もハイレグのオヤジを見ることになろうとはと感慨深く見ていると、オヤジと警官の視線がこちらに移り会話が止まった。
二人の目には、両腕両足に大量にひょっとこの顔が生えている不審者と、それに抱えられている犬が映った。

さっきより佇まいが悪化していると両者共に思った事だろう。
両手が犬で塞がる為、ひょっとこの面を四肢や頭に装着する他に道が無かった事が原因である。
後に獣医師に語るが、相対すると大量にひょっとこの顔が向けられ大変落ち着かなかったという。

暫しの沈黙の後
「俺はダメで、アイツはいいのかよ!?」
と、オヤジが叫びに近い声で警官に訴えた。
論点のすり替えはやめて頂きたい。
ハイレグの生足とひょっとこでは大分異なる形質なのでと反論しようとしたところ
「体質なので」
と偉く短縮されたうえに言葉を誤った為、全身にひょっとこが生える体質として認識を促してしまった。

謎の化け物と化してしまった。
私が警官ならば、オヤジに続きひょっとこの集合体まで相手にするのはご容赦頂きたい。

「膝を痛めているので、限界を迎える前に行きます」と膝を理由に早急に去ったが、丁度犬に噛まれたひょっとこが膝に装着されていた為、妙なリアリティを醸し出していた。

そのまま二人の横を通り過ぎると、近くにいた帰宅途中の男子高校生が私の後ろ姿を見たのか
「あ……後頭部にも顔が付いてるんだ……」
と言葉を漏らした。

オヤジは抗議する途中で高校生の言葉が耳に入り、私の後頭部のひょっとこと目が合ってしまったのか
「おかしいだもんごろあぁいっ!」
と、抗議の声が途中で奇声に変わっていた。

その後、動物病院では獣医師達が苦労を要した。


【ブログバージョンです】
柴犬のその後についてなどの【追記】あり。


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