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親子で完走した不登校というトライアスロン

不登校は不意に始まってしまう。本人はなぜそうなったのか言葉にできないし親にとっては全く想像できない状況になってしまい自信喪失。不登校の母親を経験した私が不登校はまるでトライアスロンだと思ったわけ。ついでにウェルビーイングってどいう状態なのか考えました。


「俺は学校に行けないんじゃない、行かないんだ」
世間で言うところの不登校の始まりは彼が中学2年生の夏前だった。

まさか自分の子どもが学校に行かなくなる日が来るとは思ってもみなかった。
自分自身は学校にくことに何の疑問も持たなかったし、子どもは学校行くのが当然だと思い込んでいた。

就職氷河期と言われるロストジェネレーションは人生の折り返し地点を通過中だ。自分の人生はどうだったかなんて感傷的になるには早すぎるけど、これから先の人生をどう生きていこうかと考えるタイミングに来ている。

生きがいとかウェルビーイングとかそういった感覚が実感になる年代になった。
想定外のことは誰にでも起きるけれど、勝手な思い込みをいったんやめて角度を変えてみたら半径2メートルぐらいだったら良好な関係で満たされるものにできるかもしれない。

「やらなくちゃいけないとわかっているのにそれができないでいる自分の苦しさが、お母さんには分からないでしょ」
そう泣いて訴える息子は精密検査の結果で過敏性腸症候群という病名が付いた。
思えばその時から不登校というトライアスロンは始まった。
最初の種目はスイム。
目の前には荒波が押し寄せていた。

起床後まもなくトイレに3時間こもる生活が続いた彼にとって父親との溝は深く深刻だった。
起きている時間の気を紛らわすようにオンラインゲームにハマりいわゆる昼夜逆転生活が始まった。
学校はドロップアウトしかけている子どもに寄り添う余裕などなくて家庭とは不調和になった。
陰の気の流れが渦巻き、夫婦とは家族とはこうであるはずという勝手な思い込みが崩れていった。
荒波で方角を見失い溺れかけそうになりながらも、深夜のお菓子パーティーをしながら彼が熱心にやるeスポーツの話を聞くなどして親子のコミュニケーションだけは諦めなかった。

「中学校3年間で目の前の大きな川を泳いでいてだいぶ流されたけど対岸にはたどり着いた。次に登るべき山ははっきりと見えているから通信制高校で頑張りたい」
彼がトライアスロンのスイムをゴールし次のバイクに乗る瞬間だった。

身近な人間関係が良好だと満たされた感情になるがこれがなかなか思うようにいかないから苦労する。
人生の棚卸しと断捨離を実行し手放して掴んだものを実感しながら、実際にはトライアスロンをしたことはないけれど、耐久競技に挑戦している気分で自分もバイクに乗った感覚だった。

「学校に行かないといけない理由がわかったよ」
自分が見定めた山に挑戦を始めて高校2年生の夏、宮古島で開催されたeスポーツイベントの運営スタッフとして三日三晩企業の方々にお世話になった。
価値観の違う人たちと一緒に仕事をすることの難しさを体験し、業界の最先端で働く人たちの生の声を聞いてきた彼は少し興奮気味に、どうして学校に行かないといけないのかという問いに自ら答えを出してきた。

大人が出す程のいい答えではなく、自分の体験に基づいて導き出した答えは大きい。
働くということや生きるということの本質は、遠回りして時間がかかって苦しくても自分自身で掴んだほうがいい。
その後の人生の支えになる。

そこからは、在校生として通信制高校の合同説明会の会場スタッフとしてビブスを着て、不登校で悩んでいる家族を案内する立場にもなった。
不登校というトライアスロンも終盤のランに入った瞬間だった。
バイクから降りて見渡した景色はきっと壮観だったことだろう。

自分の経験や昭和の価値観だけで測っていては良好な関係は作りにくい。
周囲の人を頼り助けてもらいながら、コミュニケーションを諦めずにお互いを受容していくことで実現していくものかもしれない。

彼は今の自分自身を受け入れることができるようになっていったことで一時は断絶していた父親との関係が修復されていった。
半径2メートルの2倍に良好な関係が満たされた。

臨床心理士を目指したいから大学に進学したいと思う」
何にもなれなかったら将来はどうなるのかと不安をよく口にしていた彼からまさかその名称が出てくるとは思わなかった。

自分の経験を同じように不登校で悩む子どもたちのサポートに活かすこと、日本のeスポーツプロプレーヤーを精神面でサポートできるようになることを新たな挑戦に設定した彼は今、受験の追い込みながらも過去イチの笑顔だ。

自分には不安や悩みがあることを受け入れ、自分の居場所も認識できたことで自己肯定感が爆上がりしている。それを見守る家族全員の幸福度が上がったのは間違いない。
足掛け5年間、親子で不登校というトライアスロンに挑戦し完走した瞬間を噛み締めた。完走した者は全員が勝者というトライアスロンスピリッツが次の挑戦を可能にしてくれる。

息子はそんなに遠くないうちに親元を離れて自分で見つけた新しい場所で挑戦を始めたいと意気込んでいる。
2024年50歳。
自分の人生のこれからを考えるタイミングにきた。
私は長年の夢だった離島移住を実行しようと考えている。


ウェルビーイングを検索してみれば、身体的、精神的に健康であるだけでなく社会的、経済に良好で満たされている状態にあることというものが出てきます。
これは理想であって現実はそうはいかないですよね。

満たされるという結果ではなく、作り上げていく過程や状態のことだと捉えたらどうでしょう。
感覚的には、暑い日に飲む冷えた水とか、寒い日に飲むあったかいお茶のようなものでふぅと空気が漏れる。
足りているというよりもまぁまぁいいんじゃないのという状態かなと思うので、そういう感覚で「半径2メートルの良好」を書いていこうと思います。

#不登校 #親子コミュニケーション #ウェルビーイング #ライティングゼミ #note書き初め



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