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FinTech事業はBSの勝負

みなさんこんにちは。バンドルカードというVisaプリペイドカードサービスを提供している、㈱カンム@8makiです。今までマニアックなFinTech話を展開してきましたが、もっと裾野の広いことを書いていきますシリーズ。

#1 生活を変えてきたFinTechサービスとその系譜
#2 日本のキャッシュレス決済の歴史
#3 なぜデビットカードが日本で普及しないのか?
#4 FinTech事業はBSの勝負
#5 FinTechとは何なのか?
#6 リテール金融(キャッシュレス・ネット銀行・ネット証券)の競争環境と経済圏

今回は歴史の話ではなく、事業のことを書きたいと思います。

なぜFinTech事業はBSが必要なのか?

よくFinTech起業家の間で話すこととして、FinTechの事業ってPLも大事だけどBSも死活問題だよね、というものがあります。わかりやすく言い換えると、事業を運営するための運転資金を工面する規模が他業種と比べて桁違い、ということです。PL(売上や利益)を追い求めるのは、事業を営む上で必須ですが、ことFinTech事業においては、お金を流通させる・融通するという性質から、相当量の資金が必要となり、いわゆるBSを厚くする必要があります。

例えば一般的なプリペイドカード事業を見てみましょう。プリペイドカードなので、ユーザーから先に残高がチャージされるため、一見資金の心配はなさそうに見えます。ところが、チャージ手段は基本的には決済代行会社から提供されており、一般的な契約としては月末締め翌月末払いだったりします(会社や決済手段に寄りますが)。また決済されたら早く加盟店に支払うことが往々にしてあり、例えば当月締め当月払いだった場合(実際は月2回締め翌 15日払いとかだったりしますが)、入金差異が1ヶ月あり、約1ヶ月分の立替払いをしている状態です。これを図で表現すると下記のような画像となります。チャージ・決済行為と実際の入金が別なのが肝です。

プリペイドカードの入金・支払いサイト例

この例でいけば、仮に月10億円のチャージがなされれば10億円の立替払い、要は10億円の現金を持っておく必要があります。10億円であればまだ調達できそうな金額感ですが、これが100億、1000億となると未上場企業で対応するのは至難の業です。特に融資といった与信が必要な事業であれば、この規模がもっと大きくなります。これが、FinTech事業はBSの勝負と言われる所以となります。

BSを厚くする組織力

とは言え、BSがあれば事業が伸びる、というわけではありません。ここが事業の難しいところで、事業が成長したらBSが必要となってきますが、あくまでBSが事業の上限になってしまうというだけ、そのBSがダイレクトにPLに貢献するわけではないのです。

そこで一定の役割分担、組織力が必要となってきます。一人で事業を伸ばすことと、BSを準備することを両立するのは、また違うベクトルのためかなり難しい所業です。具体的には、CFOであったり、それを支える組織を作ることになります。事業の初期は規模も小さく、エクイティファイナンスでなんとかなります。よって、社長や事業責任者が自分で手当してなんとかしのぎますが、途中から規模が変わってきて、VCからエクイティファイナンスするのではなく、銀行借入や証券化、リースといったファイナンスを行うことになります。

ここで一定知見がある人がいないと、頭打ちになりがちです。FinTech領域で若い起業家が出てきにくいと感じる理由でもあります。大企業とのアライアンス経験が豊富だったり、そもそも金融機関出身者がいたりといった要素が経営チームにないと厳しい印象。

国内事例

では、国内の事例を見てみましょう。

まず法人カードのUPSIDER社ですが、法人向け与信枠を大きく設定するため、多額の立替払いが発生します。そのため早くから100億の融資枠を引いてました。

大手金融機関から約100億円の追加融資枠を確保する見通しです。

また、ファクタリングのOLTA社も初期に銀行融資を行っています。

銀行融資は、基本は黒字化や設備投資を主軸とした与信判断のため、中々スタートアップとしては十分な枠を獲得できない中、Big Dealを巻いた手腕は当時からすごいと思っていました。

なお、両社はわかりやすいFinTech事業ですが、例えばタイミー社も多額の運転資金が必要です。というのも、働く人には日払いで給与を払う反面、雇用主から給与を受け取るタイミングはもっと遅いはずだと推察されるためです。つまり、給与を払ってから受け取るまで立替払いが必要です。よって勝手ながら私はタイミーを準FinTech事業だと捉えています。

みずほ銀行を中心とした大手金融機関から合計13億円の借入(ファイナンス枠を含む)

最後に、さすがにFinTech事業ではありませんが、Luup社も先に設備投資(電動キックボードの仕入れ)が必要という点で、BSを厚くしている印象です。(実際CFOが証券化とかお強そうな方)。このようにFinTech事業以外でも、初期投資が必要な事業(例えばレンタル事業とかも)もあります。

なお、ソフトバンク社は古くから基地局の証券化で資金調達してますし、

メルカリ社もメルペイの債権流動化を行って大きく調達しています。上場するとまた別の世界線が見えます。

なお、BSを厚くするのは、自社の資金調達だけでなく、銀行といったBSが潤沢な金融機関と提携する、ジョイントベンチャーを作るというアプローチもあります。実際、マネーフォワードはMUFGと中小企業向けオンラインファクタリング事業、および請求代行事業の会社を設立しています。

UPSIDER社もみずほFGとベンチャーデットファンドを立ち上げています。

かくいう弊社も、MUFGと資本業務提携をしており、BSの必要な事業を展開するのに強みを持っていると自負しています。

なお海外FinTechはその問題に対処するために、銀行業に参入事例も数多くあります。

そしてこれもFinTechあるあるとして、ライセンスや許認可の登録が必要で、財務要件が厳しいというのもあります。例えば弊社では資金決済法の前払式支払手段に登録していますが、純資産1億円という要件があります。これは事業所期においては中々に厳しい。当時のことはこちらのYouTubeでお話させていただきました。

まとめ

以上のようにFinTech事業を成功させるためには、PLだけでなくBSも重視した経営戦略が必要になります。このアプローチは、ただ単に資金を調達することを意味するのではなく、事業の成長とBSの健全性を保ちながら事業を継続するための戦略を組織全体に適切に組み込むことを指します。具体的には、予算のBSやキャッシュフロー(CF)を定期的に確認し、大手金融機関との良好な関係を維持し、コスト効率の良い資金調達方法を探求する必要があります。これにより、より高いレベルの組織運営が求められます。

そこに一定成長してきたFinTech企業の間で差が出ていると感じます。

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