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りんちゃんと幻聴さん #01

たとえば今だったら「死にたい」さんがいる。りんちゃんの頭の中に。同じことしか言わない声があるから、りんちゃんは勝手に命名したりしてる。「もうダメだ」さんと「死ね」さん、あと「殺せ」さんは、頭の中の常連客。

岡崎体育の曲で、『動物さんたち大集合だわいわい』って歌詞があるんだよね。それをりんちゃんは、

「幻聴さんたち大集合だわいわい」

って考えるみたい。

りんちゃんは30代になっても、16歳から続くこの「幻聴さん」たちと共存している。りんちゃんには、その声はフェイクだ、アンリアルだ、って分かるんだ。
だけど、たとえば会議とか、大事な人と会話している最中とかに幻聴さんがやって来るのは、凄く嫌ってる。何故かというと、頭の中がうるさすぎて、現実の会話が困難になったり、変な受け答えをしてしまうからだ。

「モブ」も、りんちゃんの頭にはいる。特に意味のある言葉はないんだけど、ざわざわして、集中できなくなったり、苛々してしまったり。
もちろん、実在の人物の声も登場するよ。ご両親の声が多いみたいだね。りんちゃんの主治医は、「無意識に潜んでる親御さんを殺してみたら?」なんてとんでもないことを言ったことがある。だけどそれは無理な相談なんだな。りんちゃんは家族が大好きなんだよ。

りんちゃんと幻聴さんたちが一番仲良かったのは、2002年から2003年くらいかな?
一時期りんちゃんは、聞こえる声を全てノートに書いていたこともあるんだ。こんな具合に。

 女「ダメよ、もうウエハース始まっちゃう」
 男「それどころじゃないんだ」
 女「くじらがジュウタイにまきこまれてもあの子は帰ってこないのよ?」
 男「真ん中に穴が空いてるんだ。いいか、右でも真下でもないんだ」
 女「どうしてアナタっていつもそうなの?」
 男「どうしてってキミを愛してるからさ」
 女「イルカだって私愛してるわ」
 男「セックスの話はしないでくれ」
 女「誰だってくすぐったいことはあるわよ」
     -15分の休けい- 
 子供「パパ! ボクやったよ! みぞれを勝ったんだ!」
 男「ああ息子よ、人をむやみにパパだなんて呼ぶな」
 子供「でもパパはボクのパパだよ」
 男「そうだったのか? 市役所の交通課に電話しよう」
 女「アナタ、この子はアナタの子じゃないの」
 子供「え?」
 男「ホラ見ろ、ウエハースの言った通りじゃないか」
               -まく-

ひらがなになってる部分があるのは、りんちゃんは漢字が凄く苦手だから。幸か不幸かりんちゃんは英語ができるから、漢字が書けない時なんかは英単語で書くこともある。手書きのものは、完全にミクスチャーだね。
そんなわけだから、りんちゃんの頭の中にはたまに英語の幻聴さんも来る。

だけど、どういうわけか、りんちゃんは幻覚は見ないんだ。幸いなことだと思うよ。幻聴さんだけでもたくさん薬を飲まないといけないのに、これ以上増えたら身体に悪い。

もうちょっと正確に言おうか。
りんちゃんは、確かに幻覚を見ない。起きてる時は。でも、眠ろうとして、まどろんで、現実と夢の世界の境界線がふっとぼやけた時、りんちゃんは変なイメージを見る。それはどれもとても気持ちの悪いもので、りんちゃんはビックリして、時には「わあっ!」って大声をあげて飛び起きてしまうんだ。

具体的にどんなものかって? 悪い言葉だけど、胸くそ悪いやつばっかりだよ。
老人二名が幼児にセックスを見せつけていたり、崖っぷちに立ってる人が飛び降りてしまう瞬間の背中とか、例を挙げればきりがないけど、とにかくりんちゃんはつい最近までこれに悩んでた。薬を増やしたら頻度は減ったけど、その薬は副作用が酷いみたい。

もしかしたら、もう「りんちゃんは精神疾患を持ってるに違いない」と気づいている人もいるだろうね。少し知識がある人なら、「統合失調症かな?」と疑っているかも。
でもそれは残念、半分当たりで半分ハズレです。
確かにりんちゃんは精神障害を患ってる。だけど、統合失調症じゃない。

っていうか、

病名って、そんなに重要かな? 

「りんちゃんは生きることに苦しんでいる」

これだけをひとつの事実として、話せないかな?
命名する、ラベルを貼る、カテゴライズする、っていう行為は、みんなが思っているよりもとても危険な行為なんだ。特に精神の病についてはね。

りんちゃんが幻聴さんに名前をつけてるのは、症状の緩和のためなんだよ。
「頭の中がうるさい」って感じて辛さのドツボに陥ってしまうより、
「あ、『殺せ』さん来た。どうやってやり過ごそうかな?」ってほんの少し俯瞰するだけで、りんちゃんの意識は変わるんだ。

長々と話してごめんね。また来るから、また話そう。

励みになります! 否、率直に言うと米になります! 何卒!!