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岡山の、桃について語ろう~観光協会の中の人より~

私は以前、岡山県の某観光協会で広報関係の仕事をしてました。

観光協会にかかってくる電話といえば、もちろん観光案内や観光地への問い合わせ。

その中でも私が答えに窮したのが「桃ってどこで買えるの?」という県外からの観光客の問い合わせでした。

「桃ってどこで買えるの?」

桃のシーズンには、1日に何件もそんな電話がかかってくるのです。
岡山といえば白桃。
岡山に観光に来たからには、白桃を買って帰りたいと思うのは当然です。ありがたいです。
でも私はこの質問の答えに、いつも困っていて。

地元民感覚で正直に答えるなら、桃は「そのへん」とか「どこでも」買えるという答えにしかならないんです。

岡山県民と桃

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そもそも私は生まれてこのかた、自分のために桃を買ったことがありません。
米農家の子供がわざわざ市販のコメを買わないでしょう?うちは桃農家ではないんですが、あれに近い感覚。

桃は常にそのへんにあって、常にご近所や親戚知人からタダで貰えて、なんなら食べきれずに「どうしよう…」と大量の白桃を前に途方に暮れるのが桃シーズンの日常。子供のころは毎日白桃を食べて「もう飽きた~!」と贅沢な悲鳴を上げていました。

スーパーに行けば県内産の白桃が山のように積まれ、カフェは一斉に桃をぶちこんだスイーツを作りまくり、国道沿いには桃の露天商が出現し、ときにはコンビニやドラッグストアの冷蔵棚にも桃が並んでいる、というのが岡山県です。
たぶん、日本全国の様々な果物生産地で同じような現象があるんじゃないかな。リンゴとか、ミカンとか。

さて、観光客の問い合わせに正直に「県内ならどこでも、そのへんのスーパーでも買えます」と答えると怒られるので、観光客の皆様が好きそうなワードを入れてお答えしてみます。

「JAの直売所か観光農園で買えますよ」
「どこの直売所ですか?」
「県内のどこの直売所でも桃は売っています」

正直にそう答えると、なぜか怒られるのです。

「そういうヤツじゃなくて!地元の白桃が欲しいんだけど!」

ここで私の頭はハテナでいっぱいになります。スーパーでも、コンビニでも、ドラッグストアでも、JA直売所でも観光農園でも、売っているのは県内産の白桃です。
というか他県の桃が進出してくる隙なんてありません

なにしろ私、進学して県外に出て初めて「桃って…ピンクなんだ…!」と気付いたくらいです。
果皮が白くめちゃんこ柔らかい白桃しか知らなかったので、果皮がピンクで果肉の硬い普通の桃を食べたときは色々と衝撃的でした。

「あの、県内には地元の白桃しか売ってないですよ。なにしろ、県内ほぼ全域で作っているので…」
「えっ、そうなの!?」

どうやら観光客の皆さん、白桃は産地の周辺でしか流通していないと思っていたようなのです。
いや、産地の周辺で多く流通するのは正しい認識なのですが、その産地が県内ほぼ全域とは思っていないようでした。

岡山県の白桃は、昔は県の南部での栽培が盛んだったんですが、温暖化の影響か農協の方針か、県の北部地域でも白桃が栽培されるようになったため、今では県内どこでも白桃が流通しています。

「一番良い桃」ってどこにある?

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観光客からの問い合わせで「桃はどこで買えるのか」の次に多いのは「良い桃はどこで買えるのか」というものです。

確実に高い等級の桃を購入する手段としてなら、まず新幹線駅の近くの百貨店やエキナカのお店を紹介するのですが、ほとんどの皆さんが「産地で買いたい」と希望されるんですよね…。

そして「どの産地の桃が一番良いのか」「どこの直売所で一番良い桃が買えるのか」と追及してきます。どうしてそんなに直売所が好きなんでしょう。雰囲気でしょうか。

実は産地のJA直売所や観光農園では、正規品よりB級品の方が販売数が多いです。
白桃は非常に柔らかく傷つきやすいため、果実同士がちょっと触れ合っただけでも茶色い傷ができてしまい、正規の流通ルートにのらないB級品が多くなるのです。

そのため地元民がよく利用するJA直売所や観光農園の直売コーナーでは、「ご家庭用に」「贈答には向きません」と書かれたB級品の白桃がたくさん売られています。
正規品ももちろんありますが、等級の高い白桃は朝一番に地元民が贈答用に買ってしまいます。

そのため、観光客が日中にふらりと立ち寄ったJA直売所や観光農園で、等級の高い白桃を手に入れるのは難しいかもな、というのが正直な認識です。
特に土日は、昼を過ぎると商品そのものがほとんど売り切れている場合もあります。

JA直売所で「そこそこ良い桃」を手に入れるには、私だったら出荷ハイシーズンの晴れた日の開店30分前に並びます。ちなみにJA直売所の開店時刻は朝8~9時です。
「晴れた日」と限定しているのは、桃は雨による落果が多いため、雨が降りそうなときは収穫を早める農家さんもいるためです。よく熟した桃に出会える確率は、お天気の日の方が高いのです。

ところで、多くの観光客が「産地に近いところで買えば良いものが手に入る」と思っているようなのですが、真の高級品は地元民の口には決して入りません。
最高級の白桃は、京都の料亭とか、銀座千疋屋とか、香港の高級スーパーに並びます。

その次に良い白桃は、百貨店かちょいお高めのスーパーに並びます。高く買ってくれるところに良いものを出すのは、商売の基本です。
なので、岡山で何の苦労もなく「良い桃」を買いたければ、実は百貨店が確実なのです…。

ちなみに地元民が買える範囲で「けっこう良い桃」を買おうと思ったら、素直に地元の百貨店で贈答品クラスを買います。
それか直売所の「桃フェア」などのイベント時に、朝一番に並んでバーゲン並みの混雑へ突撃するしかないです。

観光客はどこで桃を買えばいい?

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百貨店はイヤ、朝早く直売所に並ぶのも無理、という観光客が桃を買うなら結局どこがいいのでしょうか。

観光業的にも正解で、観光客の心理的満足度も高めの答えは「観光農園で桃狩り&直売コーナーで買い物」一択です。
一番良い桃かどうかは保障できませんが、楽しい思い出にご満足いただけること請け合い。
岡山県でおすすめの桃狩り観光農園はここ!

桃茂実苑(赤磐市)
https://www.hakutou.jp/

吉井農園(赤磐市)
https://yoshii-farm.com/

大原観光果樹園(新見市)
http://www.kusamadai.com/k/fruit/fruit_01.htm

桃狩りはしないけど、変わった品種、あまり市場に出回らないレア品種を買い求めたいという白桃通な方には、直売コーナーが充実している観光農園がオススメ。近隣の農家から色々な商品が出荷されています。

農マル園芸 あかいわ農園(赤磐市)
http://www.noumaru.jp/index_akaiwa.html

農マル園芸 吉備路農園(総社市)
http://www.noumaru.jp/index_kibiji.html

一度は贈答品クラスの白桃を味わいたい!という人には、通販がオススメ。
特にイチオシの業者はここ!
桃マニアには「岡山の桃全部食べ尽くしコース」という恐ろしいコンセプトの定期便もあります。

岡山果物カタログ
https://www.hyouryuu.co.jp/

桃の豆知識|等級と価格について

桃に限らず、農協の選果場で選別される果物は、糖度や大きさによって等級が分けられます。
岡山県の白桃の場合は、等級の高い順に

 ロイヤル>キング>エース>無印 または、
 赤秀>青秀>優>良 です。

どちらの等級付けを採用するかは管轄の農協によります。

一番人気の品種「清水白桃」で、一番良い「ロイヤル/赤秀」かつ300g程度の大玉なら1玉1,500円前後はします。
私は自分のために購入したことはないんですが、友人に贈ったことはあります。
贈答品クラスの清水白桃は箱を開けた途端に桃の香りが広がり、口にすると歓喜の舞を踊るくらい美味しい、とのこと。(B級の白桃でもじゅうぶん美味しいよ!)

桃の豆知識|品種と出荷時期について

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岡山県の場合、6月~9月くらいまで、間断なくずーっと桃の出荷が続きます。
というのも、農協の作戦で桃産地として長く出荷できるように色々な品種を作っているからです。

県内ではそれぞれの品種名で売られていることが多いんですが、県外では「清水白桃」とそれ以外の「岡山白桃」という感じでざっくりまとめて売られている場合もあります。「清水白桃」のブランド力すごい。
なので、7月の「岡山白桃」と8月の「岡山白桃」は実は品種が違うってことがよくあります。
岡山の主な桃はこんな感じ。

出荷時期6~7月
はなよめ 6月に出てくる早生品種。果肉は固めだが追熟させると甘みが増す。まだまだ桃が珍しい季節に出てくるため、ありがたがられる。

出荷時期7~8月
白鳳(はくほう) 清水白桃より収穫時期が早く、お中元シーズンにドンピシャの人気品種。皮を剥くだけで果汁がボタボタ零れ落ちるほどジューシー。

清水白桃 岡山で生まれたスター品種。果肉がとにかく柔らかくとろける! 次々生まれる新品種の追撃をものともしない美味しさと香りは王者の風格。

おかやま夢白桃 期待の新品種。大玉になりやすく、両手にずしりと400gを超える桃もあるほど。大きくて見栄えが良いので贈答用に大人気。

出荷時期8月
白麗(はくれい) 名前の通り見た目がとても綺麗な、なめらかで白くみずみずしい果皮の桃。果肉は固めでシャキシャキ食感。桃独特の渋みがなく、食べやすい。

出荷時期9月ごろ
黄金桃 白桃ではなく、缶詰で見かけるあの黄色い桃。果肉は固めで食べ応えがあり甘みも濃厚。トロピカルフルーツっぽい味わいで、知る人ぞ知る隠れ人気品種。

出荷時期11月ごろ
冬桃がたり 11月に収穫される超レア品種! 果肉は固めで糖度が高く甘みが強い。なんというか「柿」に近い桃…不思議な食べごこち。

桃の持ち帰りは慎重に

観光客がよくやりがちな失敗が、直売所で家庭用のB級品をどっさり買って持ち帰る最中に、運搬方法が悪くて桃を傷つけてしまうことです。

白桃はめちゃくちゃ柔らかくて傷つきやすいため、贈答品は箱にクッション材を敷き詰めて厳重に保護された状態で売られています。
しかし直売所のB級品は「家庭用」として売られているため、正規品に比べてクッション材が少ないんですね。
そのため、持ち帰る際に箱の中で桃同士がぶつかったり、床にドスンと置いたりした衝撃で、桃が凹んで茶色く変色することがよくあります。

たとえるなら、生卵を持ち帰るのと同じくらい慎重に扱ってもらえると良いかと思います。
一番いいのは、観光農園でその場でもぎたてを食べちゃうことですね!(^^)

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