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'20年Vを語る上で欠かせない救援陣5兄弟と隠れた"次男坊"


 最後はモタつきながらも無事にセ・リーグ連覇を果たした原巨人。

 今季はシーズン序盤から要所要所で原采配がズバリ的中するシーンが多く(特に野手)、変則日程の今季のペナントレースをどの球団も手探りでスタートした中、どこよりも早く今季の戦い方を見出した感はあった。

 投手起用については、宮本和知投手チーフコーチが主導となって継投などを判断していたと思われるが、年間通してファンのヘイトを多く溜めた印象が強い。
 1イニングに3投手が登板などといったマシンガン継投や、救援投手の連投・酷使。試合展開や役割を無視した投手起用など、私自身もたくさん疑問に思った場面が多かった。

 そんなハードな起用に応えながら何度もチームを救ってくれた投手がいた事を忘れてはならない。特に今季の優勝を語る上で欠かすことのできない救援5兄弟を今回はピックアップしたい。


【五男】大江 竜聖

2020年成績 (10月30日時点)
40試合 35.2回 3勝0敗 8H 防2.86

 大江は今季プロ4年目の左腕。
 プロ入り当初は先発投手として期待され、ルーキーイヤーの2017年は二軍の先発ローテの一角を担い12登板4勝3敗 防御率2.30の好成績を残す。
 初の一軍は2019年の春季キャンプ。一軍メンバーに選出されるとOP戦で5戦2S無失点と猛アピール。開幕一軍入りを勝ち取った。

 リリーフとして8試合に登板したが、防御率6.75と結果を残せず、オフには「150km/hを目指す」と宣言。本格派左腕を目指す発言もしていた。
が、コロナの影響で開幕が延期となり、自主練期間が増えた。
 そんな4月に首脳陣からの勧めでオーバースローからサイドスローへ転向。これが大江にとって野球人生を変える大きな転機となった。

 急造ながら高いレベルに仕上げていき、7月に一軍昇格。すると即リリーフ陣の大きな柱となりブルペンに欠かせない存在となった。

 そんな大江は今季、ほぼルーキーの様な立場でありながら過酷で難しい場面での登板が多かった。

 下表に示したのは今季の大江全登板履歴である。(10月30日時点)

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 宮本コーチが「投手陣の三連投回避」を掲げていたにも関わらず、"ルーキー大江"は昇格後即三連投をこなしており、それも昇格月の7月だけで2度の三連投である。(白目)
 なお、今季トータルでは三連投を4度こなしている。(気絶)

 また、40登板試合中半分以上の23試合がイニング途中からの登板であり、そのうち22試合が走者を2人以上背負ったピンチの場面での登板である。

 しかも注目すべきはその火消し能力。
 ピンチの場面で登板した22試合で自責点はなんと0。
 失点こそしているが、ほぼほぼ完璧に火消ししているのだ。若干21歳の若武者にしては十分すぎる働きっぷりと貢献度である。

 また、連投に加えてリード/ビハインド、回跨ぎ、登板イニング等あらゆる場面で登板しており、本人にとっても経験値をガッポリ稼いだシーズンだったのではないかと思う。


【四男】中川 皓太

2020年成績 (10月30日時点)
37試合 36回 2勝1敗 15H 6S 防1.00

 中川は昨年から一軍の救援陣の重要な一角を担うようになった左腕。
 大江と同じく、フォーム修正を行ってから開花した投手の一人でもある。

 '16年2登板、'17年18登板、'18年30登板と、プロ一年目から着実に一軍で経験を積んでいったのだが、防御率が13.50→4.32→5.02と良くならず、ピッチング内容も悪かったため、'18年のオフに阿部慎之助の助言でフォームをオーバー気味のスリークォーターからサイド気味のスリークォーターに変更する。

 するとこれがハマり翌'19年、開幕から16試合連続無失点をマーク。当初のクローザーR.クックが離脱してからR.デラロサが加入するまでの期間は代わりに抑えを務めるなど、同シーズン怒涛の夏場10連投をこなした田口麗斗と共にリリーフ陣を支えた。
 この年は自己最多の67登板、16S 21HP 防御率2.37と好成績を残してオフにはプレミア12の日本代表に選ばれるなど大きく飛躍した1年となった。

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 上表は今季の登板履歴だが、今季も昨季中盤からの継続でデラロサに繋ぐセットアッパーとして8回の男に定着。

 7月にはデラロサが離脱したものの、昨年同様代役抑えに白羽の矢が立ったのは中川だった。約1ヶ月間、セーブ失敗もありながらも無事務めあげた。
 昨年と比べて変化した点としてはメンタルが強くなったように感じた。例えば昨季までだとピンチの場面で泣きそうな顔をしていたものだが、今季は余裕の笑みを浮かべる場面も多く、不運なジャッジにも余裕を見せていた。これは大学の先輩菅野のメンタリティに少し似てきた部分だと思うし、一層頼もしく感じるようになった要因の一つでもある。

 また、こうして見てみるとやはり勝ちパターンとしての地位を確立していたためか回途中の登板は6試合のみで6回以前の登板は無しと、大江や後に紹介する高梨らとは完全に起用法が違う事が分かる。
 スクランブル登板型というよりは完全に勝ちパターンの8回を主に主戦場とし、クローザーに繋ぐセットアッパーに固定されていたという事だ。
 しかし、こうして他の投手に比べると酷な連投も比較的少なくし、疲労軽減を計っていた中であっても10月上旬に左脇腹痛により登録抹消となってしまった。

 昨季、ペナントレース、CS、日本シリーズ、プレミア12と投げまくった疲労もあっただろうしこの過密日程だったので致し方ない部分はある。
 日本シリーズを戦う上で必要戦力であることは間違いないので、ペナントレースは治癒に専念してもらい、なんとか日本シリーズに間に合って欲しいと願う。


【三男】高梨 雄平

2020年成績 (10月30日時点)
41試合 34.1回 1勝1敗 20H 防1.57

 高梨は今年の7月14日に、高田萌生とのトレードで楽天から移籍した左腕。
 楽天時代は1年目からチームのリリーフ陣を支え、2018年には年間70試合登板を記録し、その年に開催された日米野球の日本代表として侍ジャパンにも選出された。

 しかし今季は一軍での出番が無く、二軍漬けになっていた所を離脱者が出始めた救援陣の層を厚くしたかった巨人原監督が目を付け、プロスペクト高田萌生と引き換えに巨人軍にやって来た。

 すると移籍後15試合連続無失点とリーグを跨いでもすぐ対応してみせ、東京Dでは未だに無失点を継続(10月30日時点)と、すぐさまチームのリリーフエースの座に君臨した。

 また、楽天時代に始めたYouTubeや、その日の試合をファン目線で振り返り「高梨はもう寝ます」で締めるおやすみツイート等、馴染みやすいキャラクターから、ファンからもすぐに受け入れられ、絶大な信頼感と愛情を得た。

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 個人的に高梨は大江と似たような起用が多かったような印象を受けたのだが、上表の今季の登板履歴を見て頂くと、登板数は41で大江よりも多いが、イニング途中からの登板は15試合と少ない。
 また、回跨ぎも3回のみで三連投も1度だけと、大江とは若干起用方針が違う部分も感じる。とはいえ、過酷な場面や状況で投げてくれ、途中加入ながらチームに欠かせない存在となった事は間違いない。


【次男】鍵谷 陽平

2020年成績 (10月30日時点)
45試合 36.2回 3勝1敗 12H 防2.95

 鍵谷は昨年シーズン中にトレードで日本ハムからやって来た右腕。昨季も途中加入ながら27登板、6Hと役割を全うしたが、今季は更にチームに貢献してくれた。

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 鍵谷は今季チームトップの45試合に登板(10月30日時点)しており、開幕からずっとブルペン陣を支えた投手の1人である。

 こちらもリード時、ビハインド時問わず起用されており、何でも屋的な要素が強い投手だ。
 実際右のリリーフ陣はなかなか安定感がなく、打ち込まれる場面も目立った。
 そんな中鍵谷は、自責点が付いた試合はまずまずあるものの、イニング途中からの登板時は20試合でわずか2と、火消しとしてもいい働きをしてくれた。

 そんな鍵谷は今季FA権を取得した。トレードという形で日本ハムを去ったため、公使する可能性もないとは言いきれないが、現状一軍で戦えるレベルの救援陣は豊富とは言いきれないし、鍵谷は経験値も高いため若い選手に伝えれることも多いと思う。
 残留が基本線とは思うが、来季のチーム編成をする上で鍵谷の存在は絶対に必須だ。


【長男】大竹 寛

2020年成績 (10月30日時点)
26試合 22回 1勝2敗 15H 防御率
1.64

 大竹は今季一軍で登板した投手の中で最年長でもあるが、昨年に続いて献身的に腕を振ってくれた投手だ。

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 9月末に腰の張りで大事をとって登録抹消されたが、開幕のベンチにも入っていなかった。

 一軍合流は7月8日。そこから主にセットアッパーとして15Hをマーク。防御率1.64とまだまだ元気な姿を見せた。
 守護神デラロサが離脱した7月に代役守護神中川に繋ぐ8回の男として仕事を果たすと、8月末からはイニング途中からの登板が増えながら、繋ぎも火消しも全うした。

 大竹は2014年にFAで広島から移籍。当初は先発でローテを守っていたが、翌年からは打ち込まれる場面も増え、度重なる故障の影響もあり不本意なシーズンが続いた。

 2018年オフには正直戦力外もあるかなと思っていたが、前年の50%オフとなる2625万円で更改。これが正解だった。

 2019年は正式にリリーフに転向し自己最多の32試合に登板すると通算100勝含む4勝をマークし8ホールド、防御率2.77。さらにオフにはプレミア12に日本代表として選出されるなど躍動。36歳シーズンでの復活劇だった。

 そして今季も故障はあったがベテランらしい落ち着いたピッチングは健在。野手陣のベテラン亀井中島はイケおじだが、投手のベテラン大竹はチームのお父さんという存在感と安心感。
 とはいえマウンドで見せる鬼気迫る表情はイケおじという表現も間違っていないくらいカッコいい。

 チームが若返っていく中、大竹のようなベテランの力は必ず必要だ。幸い日本シリーズには間に合いそうだし、来季もチームの戦力としてブルペンという"家庭"を守っていってほしい。


【隠れた次男坊】高木京介

 さて、これまで5兄弟として5名の救援投手たちをご紹介したが、この男のことを忘れてはならない。大江も高梨も大竹もいない中、たった1人で火消しに努めた男 高木京介だ。

2020年成績 (10月30日時点)
17試合 12.1回 0勝1敗 4H 1S 防3.65

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 高木は開幕カード阪神戦にて2試合連続ボーア満塁切りという華々しいスタートを切った。
 大江の時にも言ったが、今季は宮本コーチが投手の三連投回避を掲げていた。しかし、開幕して8日目にして三連投を記録したのがこの高木京介だ。

 この当時は大江は二軍、高梨は楽天、大竹はリハビリ組...と、一軍のブルペン陣の負担は大きかった。   右は沢村、鍵谷、デラロサ、宮國と駒はいたが、左はセットアッパーの中川とロングリリーフ要因の藤岡くらい。そうなると経験値が高く状況を選ばず起用しやすい高木は重宝する。

 実際6月はピンチ時の対左要因として4度の火消しを成功させており、今シーズントータルで見てもイニング途中から登板した場面はいずれもピンチ(得点圏に走者がいる)で対左打者という場面である。

 7月に入っても出番は多く、7月14日時点でチームが消化した20試合のうち13試合で登板という明らかに異常な登板ペース(もちろんこの時の登板数はリーグトップ)でフル回転。
 また、この期間に登板した13試合のうち半分以上となる7試合がピンチでのイニング途中登板という、心身共に疲弊する起用に応え続けたのだ。

 高木にはブランクがあるものの、チームの生え抜き投手内では田原に次いで二番目の登板数を誇る。数々の修羅場をくぐり抜けてきた経験値はもうベテランの域だ。

 その若返るチーム内では貴重な経験値や、状況によってワンポイントや火消し、セットアッパー、抑えまでも務める使い勝手の良さ。
 そう、今シーズン大江、高梨、大竹が担ってきた役割を彼らがいない開幕〜7月半ばまでの間にたった1人で背負って投げてきたのが高木京介なのだ。

 残念ながら前者らと入れ替わるように股関節痛で戦線離脱してしまい優勝の瞬間もブルペンにその姿はなかった。
 しかし、我々は絶対に忘れてはならない。今年の優勝において前半戦のチームを支えた男 高木京介を。
もっと彼の働きはフューチャーされるべきである。
https://twitter.com/kunireni630/status/1301280409137762304?s=19


最後に

 今回紹介した6名の投手は、全員が一軍に揃った時期が実は3試合しかない。(7月31日〜8月2日)
 高木が離脱した後に高梨が加入し、大江もブレイク。鍵谷は開幕から優勝まで唯一リリーフ待機し続け大竹や中川も各々の役割を全うした。
 全員揃っていなくともリリーフ陣の中でカバーし合っている場面が多く見られた。

 この6名中3名が故障して離脱してしまった点は褒められるものでは無いが、先発投手の完投数が大きく減ったチームで彼らの働きはMVPに近いと思う。

 また、大江は昨年オフに、中川と大竹は一昨年オフにフォーム改造やポジション転向等の転機を経て花を咲かせており、そういった点でも本人にとっても実りのあるV2だったのではないだろうか。

 上記の選手の他に菅野もフォーム改造が功を奏し開幕投手から13連勝という記録を樹立したし、戸根は二刀流挑戦、等変化を恐れない原巨人らしいシーズンとなった印象が強い。(鍬原は育成再契約となりそうだが、今季のサイド転向がいいきっかけとなって欲しい。)

 日本シリーズは、"6兄弟"揃ってお立ち台...とまでは言わないが、6兄弟揃った磐石のリリーフ陣で臨みたいし、その為にも故障組の回復と現一軍メンバーの疲労回復と順調な調整を切に願って締めとします。

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