シーン１

「スマホを拾っただけなのに……」

「だけど、あーた！そのスマホは自撮り棒とともに白骨化死体が持っていたものでしょう？しかもその骸骨はピースサインをしていたらしいじゃないですか？そんなものよくネコババしようと思いましたね」

僕はつい声を荒げてしまった。

「珍しい機種に見えたものですから、つい……」

「で、あなたの彼女をそのスマホで撮影したらその場で白骨化してしまった……」

「正確には不倫相手です。彼女の旦那に申し開き出来ません。まあ火葬場の費用がタダになったのは不幸中の幸いですが」

僕も名探偵の小籠包蒸（ショーロン・ポームス）もこの依頼人の常識のなさにあっけにとられてしまった。

本来であればポームスの常軌を逸した行動に依頼人のほうが驚くはずだが今回は逆だ。

申し遅れた。僕はこの一回も事件を解決したことのない名探偵の助手で小林という。

そして僕がてっきり都市伝説と思っていた〝白骨化スマホ〟が目の前にあることにも驚きを隠せなかった。

〝そのスマホで写真をとると被写体がその場で白骨化してしまう。しかもそのスマホは誰も処分することができずに持ち主を次から次へ変えて渡り歩いている〟そんなストーリーがまことしやかに語り継がれていたのだ。

今回初めてポースムが口を開いた。

「まあ本来であればこういうものは警察やご祈祷所などに持って行くのが正解かもしれませんが、我々のところに来られたのもある意味何かの導きかも知れません。このスマホを処分するだけでいいのですね。宜しい、引受けましょう！」

まとまった着手金を置いて依頼人が帰るやいなやポームスが叫んだ。

「小林君！ギリシャに飛ぶぞ！」

「えっ。今からか？」

「いいからすぐに私に同行するか決めろ。ただし今回は無事に日本に帰れないかもしれん。あらかじめ警告しておく」

シーン２

結局僕たちはエーゲ航空の直行便でギリシャに向かった。そして現地のタクシーにぼったくれながらも広大な敷地のお屋敷に着いた。

お屋敷の庭にはおびただしい数の石像が置かれていた。いったいいくつあるのだろう？数えるのもうんざりするほどだ。１０００は下らないだろう。

「何だ。彫刻家の住まいか？」

「小林君！表札を確認したまえ！」

「Medoūsa。何？　メドゥーサ！　蛇女のメドゥーサかっ！」

「そうだ…小林君。絶対に女主人を直接見るなよ。見た瞬間に石になってしまうからな。ギリシャにまで来てお地蔵さんや庚申塔などになりたくはないだろう」

そういいながら僕に手鏡を手渡した。鏡越しに見ろということだ。

僕たちは妙ちくりんな眼鏡を掛けた執事に案内され大広間に通された。
やはり執事も直接見ることはできないのだ。

大広間でぽつねんとしているとドアの開く音がした。僕たちは顔を伏せ手鏡を音のする方へ向けた。

「これはこれは、わざわざ日本から私に何の用かしら？」
メドゥーサが入ってきた。

「我々はある写真共有ＳＮＳの日本支部のものです。このたびはご高名なメドゥーサさんにアカウント開設をしていただけないかと思った次第で」

ポームスが嘘八百を並べた。

「まあ！だけどあなた達私をご存じないのね。あのね、私を見たものは恐怖のあまり石になってしまうのよ。しかも例外なく。そんな私がどうしてアカウント開設ができるのかしら？」

「いえいえメドゥーサ様。それはありのままの素顔を載せた場合でしょう。だけど昨今のアプリと言ったら、ご存じない？ちょっとこのサンプルをご覧下さい。いいですか。このどこにでもいるような女性がこのアプリを使うとほれ！この通り」

同じ女性のはずなのに、目は大きく、顔は小顔に、鼻は小さく高く、肌は滑らかに一瞬で見違えるほどになっていた。

「いわゆる〝盛る〟アプリです。別人のようになれます」

これにはメドゥーサも心動かされたようだ。メドゥーサも女性だった。

「ちょっと試してみようかしら……」

「まずはご自身の画像を取り込まないと」

ポームスは例のスマホで早速自撮りの説明を始めた。

そしてメドゥーサがサブカメラで自撮りをしようとシャッターを切った瞬間だった。

メドゥーサが白骨化して崩れ落ち、白骨化スマホは石と化してしまった。

とさ。

めでたしめでたし。

また一つポームスは伝説を作ってしまった。

だが今回の功績も誰も知ることがないだろう……

(今回も軽く1700字近く～)

たらはかに様の毎週ショートショートnoteに参加しました！

今回ネタを思いついた時点で皆さまの作品を確認させて頂きましたが、設定やオチまでもが同じようなネタで先行されてる方がおいででした～😭

私も再び練り直そうかと思いましたがせっかく思いついたネタを変えてしまうのが忍びなくこれで通させていただく事に致しました。

素材は同じですが、調理法が違うと思ってご理解、ご容赦下さいませ～😭