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まれに天使のいる場所(上巻、全44篇)

草薙 渉


目次
前書き
小倉競馬場
  (第1回)白馬の椅子 
  (第2回)消えもの
  (第3回)ダンディー・ドライバー
  (第4回)天網恢恢、疎にして漏らす
阪神競馬場
  (第5回)超スクープ
  (第6回)悲惨な復讐 
  (第7回)昇級戦
京都競馬場
  (第8回)淀の二月
  (第9回)オジサンと呼ばれて
  (第10回)常ならぬ人
栗東トレーニングセンター
  (第11回)一瞬の犬 
  (第12回)大きな声では言えないが、小さな声では聴こえない 
  (第13回)仁さんの勝負服
  (第14回)一期一会、二会三会 
中京競馬場
  (第15回)二百万本の彼岸花
  (第16回)紙ヒコーキ 
  (第17回)有馬記念のスナップ写真
東京競馬場
  (第18回)ホテル・カリフォルニア
  (第19回)二の足
  (第20回)たそがれトライアングル
  (第21回)役者馬鹿 
中山競馬場
  (第22回)レット・イット・ビー
  (第23回)僕のプロメテウス 
  (第24回)中山の堕天使
  (第25回)弥生賞前日の中山
美浦トレーニングセンター
  (第26回)美浦の夕焼け
  (第27回)源さんの臨死体験
  (第28回)ウーロン茶で乾杯
  (第29回)新作落語『敗因の原因』
新潟競馬場
  (第30回)大女優 
  (第31回)一生の不覚
  (第32回)円空仏を彫る
  (第33回)最終レース 
福島競馬場
  (第34回)二十一歳の老婆
  (第35回)色違いの毛虫
  (第36回)福島のニーチェ
  (第37回)弾けろタンパク質
函館競馬場
  (第38回)今親鸞 
  (第39回)アラウンド40
  (第40回)ケツパーの光夫
札幌競馬場
  (第41回)原始読者 
  (第42回)天使のいたずら電話
  (第43回札幌)一点突破全面展開
  (第44回)ピンクのケータイ

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前書き

 競走馬に限らないのだけれど、繋がれたりしている馬がその前足でしきりに地面を掻いているのをときどき見かける。あれは前掻きといって、馬がイラついたり、怯えたり、空腹だったり、嬉しかったりと、そんな何かを伝えようと、喋れないもどかしさもあってもじもじしているのだと、どこかの厩務員が話してくれた。で、この掌篇小説集を本として編むについて、著者としていろいろ考えたもどかしいあたりを、こうして前書き(前掻き)することにした。

 JRAの『優駿』という月刊誌に七年間連載した原稿(原稿用紙十枚ほどの掌篇小説が84篇と当初掲載の40枚ほどの短編)。これを本として編んでおきたく、何人かの編集者に読んでもらった。一篇一篇まったく違う話だから全部読むのは大変なので、5、6篇のサンプルとしてそれぞれにメールした。
 
 だが危惧した通り、「短編集でも売りにくいのに、掌篇小説集というのは、どうもね」という意見がほとんどだった。ただ2、3人、「一篇一篇は悪くないのだけれど、これをただ並べても、読むほうは読み口の格差にかなりの努力を強いられるわけで、そのあたりが難ですね」と真摯に評価してくれる編集者もいた。

 うーむ、本としての読み口かと、そこで必死に考え、まず場所(競馬場とトレセン)ごとに並べ替え、一つ一つの掌篇小説の前後を多少とも関連づけるよう加筆してみた。

 が、それでもまだ物語を並べるだけでは、読み口の格差はクリアできていない気がした。「問題は、定まりのない方向性ですね。つまり人情噺かユーモアか、ミステリかブラックか、それともSFとか風刺なのか、そのあたりがバラバラのサドン・フィクションだから、どうしても読み口に違和感を覚えてしまう」
 返信された読後感を読み返し、うーむなるほど、と思った。たしかに方向の統一性からみると、一篇一篇が独立の読み切りで、同じジャンルでは括れない物語ばかりだし、と途方に暮れた。

 それからしばらくたって、だったら思い切ってネギマにしてみようとヒラめいた。つまりジャンルの方向性よりも、掌篇小説集を編むという網羅性から考えてみると、ここは一番ネギマしかない、と思いついた。

 おりから掌篇小説の書き方本などを書いていて、そこでそのあたりを試行錯誤していたという状況もあって、漠然としたネギマの絵は見えていた。

 ネギマ……。つまり掌篇小説ごとに、短いけれど後書きに近いエピソードなどを書き込み、一篇読んだ後そこで一息入れ、そしてまた次の一篇に入る、という形はどうだろうかと考えた。
 そういう形式は、小説本としてはおそらく空前の形だろう。けれど何だか形式の奇をてらっているようで、小説の王道に反しているような、そんな気がしないでもなく、またしばらくは躊躇、放置していた。
 だがこのままではいかんともしがたく、前進か死か、とりあえずやるだけやってみることにした。というわけで、ちょっと風変わりな掌篇小説集となった。

 したがって構成としては、JRA全国十場の競馬場と美浦、栗東のトレーニングセンターを舞台とし、それぞれの掌篇小説をその舞台ごとにザクッと串刺し、小説ごとの合間にネギマのネギのごとく後書きもどきを入れる、という形にしてみた。
 掌篇小説集として本に編むには、いま考えられる中では読み口の滑らかさをより確保できるベストの方法ではないかと思うのだけれど、さてさて、どうなのだろう。

 ということで、ネギマの串は全部で12本(小倉、阪神、京都、中京、東京、中山、新潟、福島、函館、札幌の各競馬場と、栗東、美浦のトレセン)になるが、前書き(前掻き)はこのくらいにして、競馬場における人間模様等々(各篇の後書など参考に、掌篇小説の書き方など考えながら)、楽しんでいただけたらさいわいです。

★なお、この上巻全44篇(¥800)の掌篇小説集の他に、とりあえず上巻の各競馬場ごとの3篇と、4篇(各¥100)ずつを、切り売りで掲載したいと考えております。(それまでは、現在サンプルで無料掲載している3篇は継続するつもりですが、有料版には1篇ごとに短い後書をそえてあり、自分で掌篇小説を書いてみたい方々には、それなりにお役に立つと思い〼)

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