見出し画像

我々はいま、超人類へ進化している(仮)

(ド文系物書きによる理系展望)

草薙 渉

目次
第1章 我々は何処から来たのか
 換算修正後のコズミック・カレンダー
 生命誕生(真核細胞→光合成→共棲)
  (シアノバクテリアの地球的繁茂)
 そして大いなる疑問
第2章 我々は何者か
 思考革命
  (時間という虚構)
  (思考革命の中での時間
 農耕革命
  (農耕革命後の思考革命)
 ここで宗教について
  (仏教)
  (神道)
  (ユダヤ教)
  (キリスト教)
  (イスラム教)
  (ヒンズー教)
  (資本主義と共産主義)
  (まだ宗教ではない宇宙的自然法則)
 儒教思想の効用と弊害
 エゴイズムについて(まずは動物と植物の違いから)
 脳という器官の獲得進化と、エゴイズムの発達進化
 人間や生物種の度し難さについて
 進化戦術としての群棲
  (人類における群棲)
 集団と個人
 世界史的に
 植民地革命
  (植民地革命の効果と弊害)
 経済学について
 経済とイデオロギー(主観的観念の体系、思想形態)
 産業革命
 日本列島の誕生
 日本史に絡めて
 死について
 生と死が重なり合っている状態
 臨死体験
 安楽死
 血統というもの
 血統から見た日本人の起源
 心とか魂というもの
 マクロ的に観た心とか魂
 感情という厄介なもの
  (恋愛論)
  (幸福論)
 現実は常にシビアなもの
 芸術について(あえて掌篇小説風に)
 表現の自由について
 フェルミのパラドックス
 神はサイコロを振らない(未来予測について)
 量子重力
 磁気の性質
 ブラックホール
 ワームホールとかダークマター
 次元というもの
 ここで東洋医学(待たれる曖昧さの解明)
 人体のアルゴリズム
  (DNAについて)
  (DNAと我々の生き方)
  (DNAと政治経済宗教などの、諸々の「虚構」について)
 進化のアルゴリズム
第3章 我々は何処へ行くのか
 2045年のシンギュラリティー
 すでに始まっている超人類への進化
 人間の脳とAI(人工頭脳)
 今後のAI開発のコンセプト
 根拠なき直感から
  (たとえば半導体に関して)
  (アイデンティティーの度し難さ)
 意識、無意識の海に漂う精神
 感情の今後について
 中庸ということ
 環境問題について
  (原子力発電に関して)
 ダイソンの指摘する今後の問題点
 自由について
 宗教のゆくえ
 地球の未来
 そして生きることの意味とは
  (参考文献等)

ーーーーーーーーーーーーーー 

 我々はいま、超人類へ進化している

(ド文系物書きによる理系展望)

草薙 渉 
 

第1章 我々は何処から来たのか 

 138億年前にビッグバンが起こった、といきなり言われても、何の実感も湧かないだろう。 2、3万円ならわかるけれど、いきなり138億円なんて言われても、というのと同じで、財布の中身を心配していたら、いきなり近隣市町村の年間予算を聞かされたようなものだ。
 現代は21世紀。西暦2千年そこそこの今日を、我々は「今」と呼んでいる。その「今」も宇宙誕生から思えば、金額に換算して138億円の中の、在ってないような2千円そこそこでしかない。 

 138億年というこの途方もない歳月は、ベルギーの天文学者で司祭だったジョルジュ=アンリ・ルメートルが、1927年に提唱した膨張宇宙論(時空のインフレーション。宇宙の無際限な膨張)から始まっている。我々のいるこの宇宙は、今現在も膨張しているというこの仮説は、仏語のマイナーな雑誌掲載だったため、当初はほとんど注目されなかった。

 しかしその2年後、毎晩天体望遠鏡を覗いていたエドウィン・ハッブルが、遠方の銀河が僅かずつ離れているという緻密な観測結果を発表し、たしかに宇宙全体が現在も不断に膨張していると裏付けて世界の耳目を集めた。
 天体フリークだったハッブルはさらにこの遠い銀河間の離反速度をオタク的にじっくりと観察し、宇宙の膨張速度を厳密に計測して「ハッブルの法則」(後に「ハッブル=ルメートルの法則」)を発表した。しかしこのハッブルも、まさかこの宇宙に始まりというものがあったとは考えもしなかった。 

 だがロシア出身の核物理学者ジョージ・ガモフは、ルメートルの膨張宇宙論を支持してこれを展開思考し、1940年にビッグバン仮説ともいうべきものを発表した。つまりガモフは、ルメートルの言った「膨張」の逆の「収束」、それも無限の収束(ビッククランチ)を思い付き、花火の映像をスローモーションで逆回転させるように、得られた詳細緻密なデータを地球時間単位で逆算した。目標は特異点、つまり実測結果の微細な膨張を、逆に縮めて縮めて圧縮しきって、もうこれ以上凝縮出来ない超高温高密度の特異点にいたる(花火が爆発する瞬間)までの時間を、ハッブル定数を利用して計算した。と、そういうことだろうと文系の人間はロジカルに考えるのだけれど、理系の科学者的思考は、物事を結果に基づく仮説から逆に数理的検証、実験等で立証していく方法論をとる。

 ガモフはまず、自然界における水素とヘリウムの高濃度性から「かつての宇宙は極めて高温高密度だった」という結果としての仮説を持った。つまり直観としての結論(思い付き)で閃いた仮説を、科学者らしく数理学的に熟考展開させていった。そしてそこから、ハッブル定数を駆使して高温高密度の最初の特異点までの時間を逆算(ここからはロジカルに)したのだった。 

 しかしこの宇宙の始まり時点の特定という荒唐無稽な発表は、定常宇宙論者(宇宙は、平穏にひろがっているだけのもの)だった英国のフレッド・ボイルによって「まるでこの宇宙に「ビッグバン」があったというような、実にアホな仮説だ」と嘲笑された。
 つまり1940年。ガモフは天動説常識の社会で最初に地動説を言い出したようなもので、宇宙の始まりは150億年前(現在は138億年前が通説)だった、という彼の計算結果発表は学会からおしなべて白い目で見られ、ボイルにアホ呼ばわりされたのだ。

 物質とエネルー、原子と分子が初めて出現する、すべての物理科学現象が始まるその瞬間としての特異点(シンギュラリティー)。この宇宙という時空間の点のようだった始まりが、150億年前に現実にあったという彼の発表は、一時世間を呆然とさせた。だがガモフと仲間の研究者たちの発表は説明図式がうまくゆかず(決してアホだったからではなく、たんに発表がヘタだった)、ボイルのみならずあちこちから反論が沸騰して学会からはほとんど無視された。

 当時の天文学者や物理学者は、フレッド・ボイルのように宇宙は不変で定常的というのがゆるぎない常識で、その宇宙に始まりがあったなどとは考えようともしなかった。
 一般相対性理論のアインシュタインでさえ、荒唐無稽なこの説にはきわめて否定的だった(実は一般相対性理論の重力場の方程式の解に、ビッグバンもブラックホールも示されていたのだが、アインシュタイン自身が見落したのかあえて無視していた)。晩年(1955年没)になってようやく、「彼らの説を認められなかったのは、私の生涯最大の過ちだった」と、舌を出して述回している。 

 このガモフの革命的な発表はその後多くの研究者によってじわじわと追実証され、どうやらそういうことらしい、と広く支持されるようになった。そして天文学だけでなく、物理学者やその他の科学者、研究者たちにも大いなる刺激を与えた。そして皮肉にも嘲笑したフレッド・ボイルが名付け親にされ、「ビッグバン理論」と呼ばれるようになった。

 もっともガモフ計算の150億年前というビックバンの初期数値が、その後の緻密な観測結果から、現代では138億年に訂正されている(この後出しジャンケンは、欧州天文衛星プランクによる宇宙マイクロ波背景放射観測によって、ガモフから73年後の2013年に導き出された数字)。計算結果を12億年も修正されたガモフ(1968年没)としては悔しいかもしれないが、金額換算で言えば、今現在二千円そこそこしか持っていない我々にとっては、150億円も138億円も実感し難い違いでしかない。 

 ガモフ以降の多くの実証的観測から、この宇宙はビッグバン以降その拡散は収まっていきつつあるのではなく、なぜか現在も膨張し続けているという観測結果になっている。
 それが何故なのか、そのあたりをめぐって、学者や研究者たちからは三、四次元を超えた五次元、六次元などの余剰多次元の存在が提唱され、現在もさらに論議されている。そしてその流れは物理学における量子力学、重力論にもおよび、さらにはダークマターやダークエネルギーなどに展開されているが、そのあたりはブラックホールなどに絡めて後述するとして、ここではまず、ビッグバン理論の138億年という時間(我々の概念としての地球時間)が実際にどういうものなのか、どんな感じなのか考えてみたいと思う。それを感覚的に解りやすく説明してくれたのが、カール・セーガンのコズミック・カレンダーだった。 

(カール・セーガンの写真はWikipedia)

 コズミック・カレンダー(宇宙暦)とは、この宇宙が始まったビッグバンの瞬間を1月1日の午前零時丁度とし、我々が生きている今現在を、12月31日の午後11時59分59秒9999999に換算した一年間の暦で、したがってこのカレンダーによって、ビッグバンから現在まで(丸一年)を時系列的に羅列してわかりやすく表示してくれている。

 ここで現在のビッグバン理論の通説は138億年前になっているが、カール・セーガンは当時の通説150億年前でコズミック・カレンダーを構築しており、彼のカレンダーを現通説138億年に換算修正したいと考えた。しかしド文系物書きにとってはいかにも面倒くさいこの計算は、NET上に簡略な計算ソフトが公開されていて実にありがたかった。(Lovefighters参照) 

 これにより、その換算修正結果のカレンダーは以下のようになる。ここでの13,800,000,000年を1年に換算した1か月は、1,150,000,000年にあたる。そして1日は37,808,219年。1時間は1,575,342年。1分は26,255年。1秒は437年 ということになる。ということは80~100年ほどの我々の一生は、哀しくもわずか0.2秒前後でしかない。それはオリンピックの競泳種目なら、肉眼では判別つかない水しぶきのタッチの差でしかなく、電子時計で表示された数字を否応なく納得して、結果としての勝敗に喜憂するだけの瞬間でしかない。
 ということで個々の詳しい内容は後にするとして、まずはこのカレンダーの重要項目をざっくりと一覧表にすると、以下のようになる。

換算修正後のコズミック・カレンダー 

1月1日0時00分00秒:ビッグバンによる宇宙の誕生(138億年前)
   8日:ガスや雲星から最初の星の出現(135億年前) 
 16日:星々を集合させた最初の銀河の出現(132億3千万年前) 

(ここで、我々人類にとってあまり意味のない半年以上をあっさり流すと)

   9月2日:天の川銀河の隅の方で、太陽系誕生(45億6820万年前。これはサハラ砂漠で発見された隕石、NWA2364に含まれる同位体元素の解析から)        :そこから800万年ほどして地球誕生(45億6000万年前)
       
:その6時間後(1000万年後)、ジャイアント・インパクト(後述)による月の誕生(45億5000万年前)
       7日:地球上に大気と海洋の発生(43億7000万年前)
        17日:原始生命現象としての原核生物の誕生(40億年前) 
        22日:有機体(真正細菌と古細菌)の出現(38億年前) 
        30日:発見されている最古の化石(35億年前) 
10月21日:光合成生物の誕生(27億年前) 
11月  3日:ヒューロアン氷期(地球の全球凍結)(22億年前) 
          6日:細胞核を持つ真核生物の誕生(21億年前) 
        30日:多細胞生物(ボルボックス)の誕生(12億年前)
12月15日:二度目の全球凍結(6億3千万年前)
        18日:魚類出現(5億年前)
        20日:植物・節足動物の上陸(4億4000万年前)
        22日:両生類の上陸(3億6000万年前)
        25日:史上最大の生物大量絶滅(2億5200万年前)
               :恐竜時代が始まる(2億5000万年前)
        26日:再度生物の大量絶滅(マニクアガン・クレーター。2億1500万年前)    
                :鳥類、哺乳類の誕生(2億年前)
        27日:恐竜が栄える(1億6000万年前)
        30日:恐竜の絶滅(6600万年前) 

        31日19時33分人類の祖先の誕生(700万年前)
               
22時43分:ホモ・エレクトスがアフリカからユーラシア大陸へ(200万年前
                23時40分:ネアンデルタール人が欧州中東で進化(50万年前)
                23時48分:ホモ・サピエンスへの分化、火の日常的使用(30万年前) 
                23時57分:実体性の無い「虚構」の言語など、「思考革命」発達(7万年前)
                23時58分:ネアンデルタール人の絶滅(3万年前) 

                23時59分:植物栽培、動物家畜化による定住の「農耕革命」(1万2千年前)     :日本でも縄文時代が始まる 
   23時59分48.574秒:最初の王国、貨幣、多神教の出現(5千年前)
   23時59分52.527秒:トロイヤ戦争勃発(3270年前) 
   23時59分56.860秒:大化の改新 (西暦646年)
   23時59分58.108秒:鎌倉幕府 (西暦1185年)
   23時59分58.793秒:コロンブスのアメリカ大陸発見 (西暦1492年)
   23時59分59.040秒:関ケ原の戦い (西暦1600年) 
   23時59分59.061秒:ガリレオが望遠鏡で初めて宇宙を見る(西暦1609年)     23時59分59.653秒:明治維新(西暦1868年 )
   23時59分59.829秒:太平洋戦争終結(西暦1945年) 

  つまり138億年という宇宙の歴史の中では、我々人類の歴史などいかに些細なものかを、実にわかりやすく感じることが出来る。

 このカレンダーのざっくりとした項目羅列として、あえて1月1日から9月2日までをあっさりと省略している。これは宇宙の沿革を緻密に書くことを目的とはしていないので、細かく書いて多岐亡羊(たくさんの道がある方角へ逃げた羊は、見つかりにくい)となるのは避けたいと思ったからだ。つまり網羅的に歳月のバランスを重視しすぎれば、この章の「我々は何処から来たのか」というテーマから逸脱して、話が際限もなく広がってしまう。

 このカレンダーでの9月2日の地球(45億6000万年前)とはどんな状態だったのか。真っ赤に沸騰する地下マントルの流動から、赤黒い地球にはその熱と圧力から磁場が形成された。そして全地球を覆ったその磁場によって、強烈だった太陽風や宇宙線へのバリアが形成された。
 しかし地表は噴出した溶岩の冷えかかった大陸と、ドロリとした熱いポタージュスープのような海洋に覆われていた。氷塊隕石の衝突などで広がった海洋は濃硫酸のような超酸性で、大量の重金属元素に満たされ、およそ生物生存など及びもつかない猛毒の海でしかなかった。

 と、断定的に言い切ってしまうと、「おまえ、見たのか?」と言われそうだが、そんな風景は地球上の誰一人として見てはいない。多くの科学者や研究者たちが手に入る最大限の資料をもとに、それを様々にじっくりと検討して、おそらくそういうことだったのだろうという研究成果でしかない。したがってこの後に断定的に書く地球や生物のあれこれも、現時点でもっとも支持されている科学的研究成果に基づいている。それは人類の叡智とか文明の科学的分野の最先端であって、今後さらに新しい発見等があれば(天動説が地動説になったように)、根底から覆る危険性も多分にはらんではいる。 

 では9月17日(40億年前)になって、ようやく登場したという最初の生物(生命現象)から考えるとどうだろう。最初の生物の発生とは、いったい何事であったのか。「我々は何処から来たのか」というこの第1章では、そのあたりを中心に書いていこうと思う。

 コズミック・カレンダーの12月31日、23時59分59秒。大みそかのカウントダンの最後の1を叫んで息を吸った瞬間が「今」なら、最初の生物の発生(9月17日)はその3か月と2週間前になる。
 といっても実際時間としては40億年前になるが、地球が誕生して2週間ほどというけっこう早い時期に、この地球に最初の生物が出現している。まぁ早いといっても、実際には地球が出来てから5億6千万年後(西暦の28万倍という途方もない歳月)なのだけれど、この9月17日から10月21日の一月とちょっとという時期が、生命にとっては重要で劇的な歳月だった。 

生命誕生(真核細胞→光合成→共棲)

(と、ここから目次にあるとおり進捗していくのですが、まだ現在ブラッシュアップ中で、それが済みしだいアップしたいと思っております。
 ただ、全部で少々厚めの本一冊分にもなるので、そのせつは他のマガジン『まれに天使のいる場所』同様、有料といたしたいと考えております)

 


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?