今年イチオシな夏の歌

2020/08/03


今年の梅雨は異様に長かった。連日雨ばかりで気が滅入っていた方も多いだろう。それもようやく明けて、遅まきながらやっとこさ訪れてきた夏を、音楽で満喫したいところ。僕は音楽鑑賞の際に、季節感を特別重視することはなかった。よく閲覧している第一興商のカラオケ・サイトDAM★ともでも、季節外れでごめんなさい的なコメントもあったりするが、「別にいいじゃん、歌いたいのなら」と思ってみている。真夏にクリスマスソングとか、そこまで極端じゃない限り、今の時期に「桜の花の咲くころに~」とか、木の葉がすっかり散り落ちて、年の瀬が迫ってくるような時期に「あの娘は太陽のKomachi~Angel」なんて歌詞の曲であっても、特に違和感なく聴いていられるタイプだ。自分でもそう思っていたが、今年はどういうわけだか無性に夏歌が恋しい!今回は夏だからこそじっくり味わいたくなる楽曲を集めてみた。

LIPSELECT「夏色モーメント」

 まずは今年の夏リリースされたばかりの出来立てホヤホヤの新曲から。冒頭から耳障りの良い、メロディアスで良質なポップスだなという印象を受けるが、ただそれだけでは終わらない。聴きどころは2コーラス目が終わってからの間奏。それまでの流れとは明らかに脈絡が別になっていて、ハッ?とさせられた。これだけ流れを派手にブッタ切っているのに、ちゃんと元のサビに戻れているのは驚きだ。

 「夏色モーメント」とは対極に、間奏のフレーズにおいて、それまでのボーカル・パートから流用したものを楽器に置き換えて表現する手法は一般のポップスでもよく用いられる。この方がキャッチーで覚えやすいことは確かだ。僕も音楽鑑賞自体をするようになって間もない頃なら、こういう作りの方がとっつきやすいと思っただろう。しかし、自宅の収納棚に100枚以上のCDがあるようなリスナーにとっては、これだけではなんとなく先が読めてしまうというか、刺激に乏しくなる感も否めない。掴みは大衆を意識しつつも、終盤に向けてコアなリスナーも退屈させないように、うまく作ってあるなあと感じた。

 ダンス・ミュージックではスネアドラムなどの打楽器を打つ回数をだんだん増やしていく盛り上げ方がある。この曲でも「俯くひまわり」に至るまでの終盤のサビでその手法が見られるが、打楽器を打つ間隔がトリッキーで面白く聴ける。通常だったら、4分音符、8分音符、16分音符の順に打ち込みそうなものだが、ここにひとヒネリ加えてあるのが良い。

 LIPSELECTの存在を初めて知ったのはTM NETWORK「GET WILD」のカバー動画だった。当ブログの過去記事でもピックアップ済だ。カバーだけではなくオリジナル曲もたくさんある音楽ユニットで、僕もいくつも聴いてみた。作曲を手掛けるMasakeyのサウンドが僕のストライクゾーンにしっかり入っているので、どれを聴いても嫌いな曲というのはほぼない。そんな中でも「夏色モーメント」はポピュラリティーでは頭一つ抜きんでている。「GET WILD」などのカバー動画が良かったから、彼らのオリジナル曲も聴いてみようかという方が1曲目に手を出すとしたら、これがちょうど良いのではないだろうか。

藤崎未花「夢花火」

 続いては、今僕が入れ込んでいるアーティスト・MINT SPECのボーカリストであるMiiが、バンド結成前に活動していたアーティスト名義・藤崎未花として出した楽曲「夢花火」をピックアップ。配信アルバム「ALL OF FUJISAKI MIKA」に収録されている。

 MINT SPECは大好きだけど、まさか藤崎未花時代の曲をこちらで取り上げることになろうとは、筆者自身も思っていなかった。良い曲ではあるけれど、ちょっと当ブログの色から脱線するかなという気がしていた。でも、先の「夏色モーメント」を聴いた後に、これが好きな人はきっとこっちも気に入るよなあ、とパッと閃いたのが、この「夢花火」である。

 先の「夏色モーメント」同様、メロディアスで良質なポップソング。LIPSELECTの新曲は、そうは言ってもまだシンセシンセしていて、ギラギラと尖った一面も楽曲の中に垣間見えるが、こちらは変な小細工なし。まさに直球勝負のポップソングだ。仮に過去にヒットチャートから流れてきたとしても「え、なんでコレが?」とはならないほど、よくできている。むしろ、なんでこれがチャート・インしなかったのか。と思えるぐらいだ。

 実は「夢花火」がここにピックアップされるまでの道のりは長い。まずはglobeのカバー動画「DEPARTURES」でMINT SPECの存在を初めて知ることになる。こちらは当ブログの過去記事でも取りあげた。「DEPARTURES」については、僕はglobeのオリジナル版の大ヒットをリアルタイムで体感しているし、福岡ドーム(現在のPay Payドーム)でのライブで生歌にも触れている。その上で華原朋美・スポンテニア・HYDEなどの素晴らしいカバーも聴き込んできた。これとは別に一般のリスナーが歌ってウェブ上に掲載する「DEPARTURES」にも数多く触れている。

 なので、MINT SPECの「DEPARTURES」を再生する前も「ちょっとやそっとじゃ驚かないぞ」と心のどこかで思っていた節は確かにあった。ところが、実際のMINT SPECのパフォーマンスは、ちょっとやそっとどころではなかった。だから他の公開曲も聴いてみようと思ったし、MINT SPEC名義で制作された動画はことごとく当たりだった。

 藤崎未花名義の曲について知るのはそのあとだ。最初、僕のアンテナに引っかかったのは「"Progressive"」1曲だけで、それ以外は途中で再生を止めてしまったんだよね。それでも生配信を何度も聴いていくうちに、ジワジワと脳裏に浸透してきて、パッと一聴しただけでは良さに気づかなかった曲が増えていった。今では歌詞テロップがあれば、僕も「夢花火」を通して歌えるんじゃないかな。

 これもMiiの生配信を視聴していれば自動的に藤崎未花のオリジナル曲が流れてくる仕組みになっているからだ。一度生配信を見終わっても、面白かったからまた見よう!という内容のものを続けて行っているからこそ、最初は再生を途中で止めた「夢花火」が、今では自分で歌えるかも知れないぐらいに身に染み込んでいるわけだ。

 MINT SPECの生配信については先月の記事でも執筆したが、あれからさらに変化した点がある。X JAPAN縛りのコーナーにおいて、ギタリストのTsukushiの映像が使える楽曲では、イントロや間奏で手元をアップで抜くようになった。これは見ていても盛り上がる。今までよりもライブ感が増して僕は好きな撮り方だ。特に「紅」でテンポが落ちて静かになるシーンから一転して「叫びつづける」の後に続く、ギターの弦の上をネックの先端方向に向かって指を滑らせていくシーンは、もう来ると分かっていてもアツいねえー!

 アーティスト名義が変わっても、現在でも生配信で大切に歌われているので、気に入った方は生歌も聴いてみてはいかがだろう。運が良ければコメントに即座に応じてその場で歌ってくれることもある。

 たしかに「夢花火」は、これまで何度も視聴者からリクエストされるほど良い曲だ。しかし当ブログの色もある。なんでもかんでも闇雲に掲載はしない。今回は他アーティストの楽曲ではあるが、「夏色モーメント」のリリースを受けて、それに触発されて掲載に至った。何が起こるか分からないけど、地道な活動ってホント大事だなあと思う。

TMN「Ano Natsuo Wasurenai(motion picture mix)」

 今回ピックアップする中ではおそらく最も知名度が高いのがこちら。作曲は小室哲哉。TM NETWORK(発売当時・TMN)のリミックス盤「CLASSIX Ⅰ」に収録。曲名を日本語表記の「あの夏を忘れない」で検索するよりも、アルバムジャケット裏面の表記に沿ってローマ字入力した方が、こちらのバージョンにヒットしやすいかも知れない。
 リリース時期は先の2曲から一転して、1993年にまで一気に時を遡ることになるが、僕は3曲通して同じテンションで聴いていられる。「夏色モーメント」が好きな人はきっとこれも気に入るだろうと思って「夢花火」の掲載に至ったわけだが、むしろ順序としては「あの夏を忘れない」が好きな方には先の2曲もオススメですよ、という感じ。
 小室哲哉の楽曲はメロディーがずうっと同じ音ばかりなので動きがなくて退屈してしまうという印象を持っている方もいるかも知れないが、そんな曲ばかりではない。先の2曲同様、メロディーラインの良さだけでも十分魅力的な楽曲だ。
 アレンジ面では鍵盤の繊細な調べに、シンセサイザーの音色の減衰具合が儚く心地良い。これからしばらく続くであろう猛暑の中、音楽で涼風を吹かせようという気分のときはピッタリだ。物理的には音楽を再生したから気温が下がるなんてこと、有り得ないのは承知の上だが、このバージョンを聴いていると、不思議と涼しくなったような錯覚さえ起こしてしまう。
 3曲通して聴いてみると、気分はすっかり納涼天国といったところか。
 第一興商のカラオケサイト・DAM★ともを利用していて、この曲のオリジナル・バージョンを歌って録音したこともある。主旋律だけではなく、コーラスも歌えるぐらいによく聴き込んできた楽曲だ。今年の春先に過去の録音の大半が消失してしまったが、こちらは運良く残っていた。他のユーザーさんのテイクに僕がコーラスを被せたものを併載。再生できるのは入会済みの方に限られるが、聴いていただけたら幸い