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歌ってみた動画で楽しむ、90年代の小室哲哉プロデュース・ワーク

 

 今回は90年代のJ-POPを最も熱く震わせた、音楽プロデューサー・小室哲哉の作品を、YouTubeの歌ってみた動画で楽しんでいきたい。どれも単発で鑑賞しているのではなく、チャンネル全体である程度継続して注目している歌い手ばかり。カバー楽曲に加えて、その歌い手のチャンネルとしての魅力にも触れながらピックアップしていこう。


じゅにひめ「Just a real love night」

 YouTubeの「じゅにひめちゃんねる」で歌ってみた動画を投稿する歌い手・じゅにひめのカバー動画。僕は、このチャンネルにまだ動画が3つ4つぐらいしかないときから追っている。今でこそ何十作もの動画が並んでいるが、その中でもイチオシの動画がコチラ。

 華原朋美の1stアルバム「LOVE BREATH」収録曲のカバー。シングル・カットはされていないが、TV番組で披露したこともある。とにかく選曲が良い。僕は華原朋美の持ち歌すべての中で、これが断トツに気に入っている。他のアーティストだと1曲には絞りきれなかったりすることが多いが、華原朋美に関しては即答でこの曲だ。じゅにひめちゃんねるのレパートリーがひとつひとつ増えていく中で、この曲名が上がってきたときは血沸き肉躍ったものだ。

 それでは聴きどころに迫ってみよう。まずは華原朋美の特徴をしっかり捉えたボーカル。過去記事でglobe「Stop! In The Name of Love」のカバー動画をピックアップしたときもそうだったが、オリジナル歌手の雰囲気を再現するのがうまい歌い手だ。「カップル何組も」や「真実は時に寡黙で」のパートなど、断片だけ聴いたら華原朋美本人のテイクと聴き分けられない部分もあるほど、今回のカバーは再現度が高い。

 歌だけではなく、伴奏も聴きごたえたっぷり。オリジナルの完成度が元々高いので、丸写しのコピーアレンジでも何の問題もなく楽しめる楽曲ではあるが、こちらのカバーはあえてアレンジをいじってきた。攻めの姿勢をみせている。

 イントロの都会の雑踏部分は、聴き取ってどうこうできるものではないので、独自に用意したのだろう。これがうまくハマっている。フェード・インからのスタートではなく、きっちり始まるイントロ。従来のファンも、これだけでも新鮮な感覚でこの楽曲を聴き直せるだろう。

 オリジナル版からの変化の中でも最も印象的なのが、サビで鳴っている、高音シンセサイザーが付点音符で徐々に音階を駆け上がっていくリフ。リミックスの際には、オリジナルから変化をつけたくても、下手にいじるとアレンジがスケール・ダウンしてしまうこともありうるが、これはうまい具合に新しい音を吹き込んだと思う。

 ドラムのフィルインもこのアレンジャーの感性で打っているのだが、これもお気に入りだ。「今夜あなたに任せて生きてみたい」に続くキックの連打なんかは特に揺さぶられるポイント。ここまで止めていた流れが再び一気に動き出す。この踏み方はアガるなあ。

 2コーラス目は音をグッと抑えて、最後にまた全開に戻す構成。ここもオリジナルにはなかった展開。全体の起伏がより大きくなった。

 このように、結構いろいろな箇所で変化をつけながらも、オリジナルの世界観はしっかり踏襲した、理想的なカバーだ。本当に聴いてて楽しいね。何度でもリピートしたくなる。

 じゅにひめの動画の特色は、気合の入ったヘアメイク。毎回スタイルが違うのだが、バリエーションが無尽蔵にあるのが凄い。素人技ではなかなかここまではいかないと思うのだが、美容師免許をお持ちなのか、それともそういう協力者がいらっしゃるのか。もしそうなら、お店の名前とか付記しとくと、ちょっとした宣伝になるかもねと思った次第だ。フラットな状態からヘアメイクが仕上がるまでを撮影しておいて、セットのコツを文字テロップなり音声コメントなりでちょいちょい挟みつつ数分ぐらいにまとめたら、それで1本の動画になりそうな気もする。


LIPSELECT「love the island」

 続いてはキーボード・Masakeyとボーカル・Ayumiの2人組・LIPSELECTのカバー動画。過去記事でもTM NETWORK「Get Wild」のカバーや、彼らのオリジナル曲「夏色モーメント」でピックアップした。

 キャッチーなものからシリアスなものまで、作風の手広い彼らだが、今回の鈴木亜美のデビュー曲のカバーは一段と遊び心満載だ。小室哲哉の音楽に詳しければ詳しいほど、楽しくて仕方ない作品。

 先の「Just a real love night」とは打って変わって、原曲の面影はほぼない。鈴木亜美は大きく息を吸い込んでから、のびやかに歌うような側面もあろうかと思うが、LIPSELECTはもっと熱気がほとばしる印象だ。

 まずは動画のオープニングに注目。僕はこちらをプレミアム公開で見ていた。公開前から曲名と開始時刻を把握した上で、待ち構えて鑑賞していたので、始まったときは配信者が間違えて未公開のストックを流してしまったのかと思ったが、まさかこの出だしから「love the island」になるとは思いもしなかったよねー。これは意表を突かれた。面白い始まり方だなあ!これは僕がリンクを張り間違えているわけではないので、戸惑わずに聴き続けていただきたい。

 中盤で音が一瞬なくなる所から「survival dAnce」のイントロがチラッと顔をのぞかせるのもユニークだよね。そして何といってもアウトロ!いくらなんでも好き放題遊び過ぎだろ!と思わず突っ込みたくなるが、このアレンジのハジけっぷり、大好きだねー。

 音楽面だけでも派手な仕掛けがてんこ盛りのカバーだが、それに加えて挿絵、いや差し込み写真か。映像でも遊べるようになっている。こういうパターンは見たことないな。楽曲を最後まで聴いてみて、ぜひどんな遊びなのかを確かめていただきたい。


 LIPSELECTのチャンネルは、楽曲だけではなく解説動画も数多く公開されていて、より深く踏み込んだ鑑賞ができるのが特色だ。一部のサブスクリプション・サービスでは、楽曲に解説コメントも組み込んだ発表の仕方をする試みも最近始まっているが、LIPSELECTは以前からこういうことに取り組んできている。


 さらにチャンネル視聴者の営むお店に訪問!こんな企画まである。視聴者との距離が縮まって良いね。今後はどんな企画が飛び出すのだろうか。

 


chi4「happy wake up!」

 最後は観月ありさのカバー曲。オリジナル版よりも中身がギュッと詰まった、表情豊かなボーカルが一番の聴きどころ。観月ありさのボーカルが物足りないわけではないが、彼女は年中歌だけやってればいい環境にはいない。台本を読んだり、撮影でロケに出たり、女優業にも時間を割かれる。歌いこもうとしたって、どうしても限界はある。これを中途半端と誤解して欲しくはない。自分の出演するドラマの主題歌は自ら歌う女優!これこそ観月ありさの魅力だと思うけどね。こういう人はなかなかいない。

 こちらのカバーでは楽器が弾けてアレンジも自らこなす、本職のボーカリストが歌う、一味違った「happy wake up!」をお楽しみいただきたい。息の残し具合、ビブラートのかけどころ、このあたりからchi4流「happy wake up!」のエッセンスを感じ取ってみよう。自分もこの曲を歌いたい!となったときに、ひとつの指針になるはずだ。

 いろいろなアルバムに収録されているこの曲だが、手に入るのであれば1995年発売「ARISA'S FAVORITE -T.K SONGS-」での鑑賞をオススメしたい。これは観月ありさの楽曲の中から、作詞または作曲に小室哲哉が絡んだものだけを集めた、90年代ならではのアルバムだ。歌詞カードには観月ありさ本人による全曲解説もついている。

 chi4のカバー動画の特色は、味わい深い手書きの歌詞テロップ。直筆の文字は本人にしか書けない。顔立ちが一人ひとり違うように、直筆の歌詞がある意味顔の代わりになってるようにも思える。自分も顔を出さずに歌い手をしているという方も、歌詞テロップを作る際にはタイピングするのではなく、たまにはペンを取って自ら書いてみよう。手間はかかるが、より自分らしさが出る動画になるのではないだろうか。


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