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MAX / Love impact

 今回はMAXのシングル『Love impact』を皮切りに、この楽曲ゆかりのアーティストや作品の魅力に迫ってみた。MAXは自身のYouTubeチャンネルで、今年出演したTBSのTV番組「UTAGE!2022新春4時間スペシャル」の舞台裏を自身のYouTubeチャンネルで公開するなど、現在も精力的に活動中。TRFの『EZ DO DANCE』を、メンバー本人のDJ KOO、それと演歌歌手の島津亜矢とのセッションで披露したのには筆者も驚いた。また、作曲を担当した安部潤も、今月だけで4本のライブが決まっている。


MAX『Love impact PAX JAPONICA GROOVE MIX』

アルバム『NEW EDITION ~MAXIMUM HITS~』収録。2008年発売。

 1999年リリースのシングルを上品にアレンジ。このリミックス盤はジャケットのデザインも大人びていて良い感じ。サウンドのイメージにもピッタリだ。

 シングルとして発売されたオリジナル版も、実に聴き心地良いダンス・チューンだ。特に何のバージョン・アップも必要ないほど完成されている楽曲だと思うが、ここへきてPAX JAPONICA GROOVEによる、よりドレスアップしたリミックスが登場した。

 シングル収録のオリジナル・バージョンは、アレンジの主張が強く、ヒット・チャートに乗せても、ランキングされている他のアーティストの楽曲にも埋もれない派手さがある。玉石混淆な環境にも耐えうるサウンドだろう。

 対してPAX JAPONICA GROOVE Mixは、最初からこの手のジャンルが好きなリスナーに狙いが絞り込まれた、緻密な作り。ある程度まとまった長い時間、ダンス・ミュージック三昧で楽しもう!というときに、前後にどんな曲をかけても繋がりやすいように、調和の取れたアレンジになっている。この辺りは、直前直後に続く他の曲の存在感を打ち消さんばかりの勢いを持つシングル版とは対照的だ。

 例えば、次の電車が来るまでの5分を待つ間に聴くなら、シングルやベスト盤収録のオリジナル版、ジョギングやサイクリングのお供には、数々のダンス・ミュージックを集めたプレイリストにPAX JAPONICA GROOVE Mixも組み込む、というように、聴く状況によってバージョンを使い分けるのも面白いだろう。


PAX JAPONICA GROOVE『Ever after』

アルバム『PIANORIUM』収録。2018年発売。

 先のPAX JAPONICA GROOVEによるオリジナル曲も聴いてみよう。『Love impact』のリミックスで示したイメージそのままに、独自のメロディー・メイクで極上の空間を作り出している。シャンパンが似合う、お洒落な雰囲気。

 ダンス・ミュージックに対して、刺激が強過ぎて苦手意識を持っている方は、こういうジャンルからお試しいただいたい。このジャンルは、耳をつんざくキツいエフェクトで、やたらめったら派手な音色を連打しているものばかりではない。

 この曲は、メロディーの動き方も繰り返しを多用したワンパターンなものではない。非常に変化に富んでいる。主旋律を歌うボーカリストの歌唱力も確かなもの。聴き心地の良さは保証できる。アレンジもリフ一辺倒にはならずに、ハーモニーにも相当の重心を置いている。まったく踊れなくても、ただ聴いているだけで楽しめるダンス・ミュージックだ。大声を出したり、ドタバタと足音を立てるわけにはいかない場合でも、『Ever after』ならダンス・ミュージック・フリークの心を満たすことができる。

 アレンジの肝はピアノの流麗で軽快な動きだろう。特に注目したいのは、2コーラス目が済んでからの間奏。グリッサンド奏法で演奏の盛り上がりに勢いをつけるのは、たいていのジャンルでみられる。ただ、この楽曲ではグリッサンドの直後にすべてのパートの音が突然止まってしまう瞬間がある。これは驚き。筆者はこういうアプローチには出会ったことがない。グリッサンドの後は、アンサンブル全体の同時発音数が最大に高まるのが常だ。そう思っているから、音がなくなる瞬間は「え!?」となってしまう。

 この手法はDTMのみならず、弾き語りのピアニストにも使えるのではないか。ストリート・ピアノを弾く機会のある方は、グリッサンドに続く展開で、いつものように勢いに任せて、指のほとんどを一斉に鍵盤にジャーン!と置いてしまわずに、無音の空間を作ってみてはいかがだろう。感情の赴くままではなく、ある程度狙っていないとできない表現だが、聴衆をハッ!とさせられる奏法だ。

 


chi4 『恋しさとせつなさと心強さと』

 先の『Ever after』でボーカルを務めた、chi4のカバー動画を聴いてみよう。情感豊かな歌いっぷりは、本職のボーカリストならでは。伴奏はピアノ1本のみだが、豪華なバッキングに支えられなくとも、歌声のみで存在感を出せている。リスナーの心を打つには、この歌声さえあれば十分だとは思うが、chi4の強みは演奏からトラック・メイキング、レコーディングに至るまで、ほぼすべての過程をひとりでこなせることにある。

 筆者としては、弾き語りよりもPAX JAPONICA GROOVEとのセッションでみせたような、フルパートの賑やかなアレンジで伸び伸びと歌う楽曲に興味がある。でも、どんな形でもコンスタントに作品を発表し続けるというのは大事なこと。chi4のこうした活動姿勢には大いに注目すべきだ。

 歌に興味はあるけれど、メンバーが揃わなくて地団太を踏んでいる方は、まずとにかく1本の作品を公開してみよう。chi4のこの作品のように、必要最小限の構成から始めればいい。こういう小さな積み重ねが、糧となって活きていく。

 ゆくゆくは敏腕トラック・メイカーとの制作の機会が訪れたときに、演奏や録音の心得を持つシンガーが、持てる能力のすべてを歌唱1本に絞り込んで歌うと、良い結果に繋がりやすい。作曲家の意図を汲む歌い方ができるからだ。

 これが歌うこと以外は何も知らないシンガーだと、「俺の歌を聴いてくれー!」と言わんばかりの、無駄に自己主張の強い、アンサンブル無視の歌い方に陥りがち。演奏や録音の技術は、通用するレベルに到達しなくてもかまわない。経験しておくのが重要だ。 

 小室哲哉作曲によるこの楽曲は、いろいろなアーティストにカバーされており、先のMAXが歌うものもある(アルバム『BE MAX』に収録)。カラオケでも、第一興商のLIVE DAMにはMAXのバージョンでもラインナップされている。篠原涼子のオリジナル・バージョンは既に歌ったという方も、今度はMAXのバージョンで歌い直してみるのも面白いだろう。



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