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宇都宮隆・広島公演(2022.11.05)

 11月5日、宇都宮隆のライブツアー『TAKASHI UTSUNOMIYA TOUR 2022 U MIX #2』を見てきた。会場はブルーライブ広島。
 メンバーは、ボーカル・宇都宮隆、キーボード・nishi-ken、バイオリン・NAOTOに、声の出演・神谷明。
 幾度となく足を運んだ宇都宮隆のツアーだが、セットリストの半数近くが知らない曲だった。筆者が見てきた宇都宮隆のライブの中でも、こんなことは滅多にない。1992年のソロ・デビューから2004年発売の『Overtone』までのアルバムは揃えている。それでも初めて聴く曲が目白押しということは、今回は年代的に新しめの作品を集中的にやったのだろう。体感時間は過去イチで短く、アッという間に終わってしまった印象だ。
 初めて聴く曲が生歌というのも、なかなか得難い体験だ。新しい発見をプレイリストやAIのレコメンドではなく、ステージ上の本人から直々にというのも、スリリングで楽しい。
 その場でわかりやすいリアクションを即座に体で表現したりはできないが、だからといって退屈しているわけではない。全曲おなじみのヒットメドレーに仕立て上げれば、パッと見の盛り上がりの良さはある。ただ、先の読めない緊張感を生むには、聴いたことのない曲や未発表曲の方が良い。今回はそちらに比重が置かれていたような印象だ。セットリスト中でもSpotifyで聴くことができるのは、5曲あるかないか。そんな気がする。

 宇都宮隆のステージングは毎回、一番の見どころだ。今回、最も心に響いたのは、『daydream tripper』の間奏で、右手を高く上に掲げた体勢から、手のひらを横にスライドさせつつ、音が絞り込まれるタイミングに合わせて拳を握りしめるシーンだった。抜群のカッコ良さ。
 その他の見どころは、楽器の持ち替え。メンバー全員が本職のパートとは別にいろいろな楽器を演奏し、見たことのない一面を見せる。
 宇都宮隆は、近年では鍵盤を弾く姿を見せるようになってきた。映像的にはレア感たっぷりだ。決して似合っているわけではない。TM NETWORKのメンバー・小室哲哉が、ギターを抱えている姿がどうもしっくりこないのにも近い感覚だ。一方、木根尚登は何を演奏していてもビジュアル的には特別違和感ない。これも不思議だ。似合わないのは、何の楽器も持たずにマイクスタンドで歌う姿ぐらいだろう。
 鍵盤に加えて、バイオリンを演奏する姿も見せた。こちらはビジュアル的にもバッチリとハマっていた。仮に何も発音していなくとも、ただ楽器を抱えて立っているだけでカッコいい。少し後ろ姿も見せながらという角度で弾いていたが、これがまた絶妙だった。まるでバイオリンでデビューしたかのようで、いかにもとってつけた感じの鍵盤とは対照的だった。
 鍵盤を弾いて欲しくないのではない。これはこれで見ていて面白いし、宇都宮隆の指が鍵盤に向かって発音するまでには、謎のワクワク感もある。ただ、バイオリンの方はボーカル同様に華がある。そしてスマートだった。
 nishi-kenもバイオリンを持って、3人がステージ中央に揃い立つ場面は見ごたえたっぷりだった。後々、映像作品にも収められるとは思うが、これは3人の立ち位置が距離のあるところから一気に集まって、3台のバイオリンが中央にズラッと並ぶから凄みが出るのであって、映像化の際にはカメラアングルが切り替わる際に、3人が集まる動きの肌感覚も一緒にカットされてしまうだろう。生で見る感覚をそのまま再現というわけにはいくまい。TVの音楽番組で、ダンス・ミュージック・ユニットのフォーメーションの妙が伝わりづらいのと同様だ。やはり、できることなら生のステージを現場で楽しんでおきたい。
 『風を感じて』では、イントロで鍵盤のリフを宇都宮隆が演奏するところからスタート。筆者も久しぶりに聴く曲だった。曲が進むにつれて記憶が蘇っていく中、「ラストのwow wowを声を出さずにいろというのか。参ったなあ」と思ったが、漫画でいうところの、歓声があがったときに使う擬音が出るんじゃないかってほど、強い念を込めて観覧した。出演者にも届いていて欲しい。オリジナル音源で飯島直子が担当している最後のセリフは、宇都宮隆自ら行なった。こちらも良い感じ。


 nishi-kenは自身のソロ・パートでは鍵盤の他にもメイン・ボーカルも披露。本人はもちろん鍵盤の方が本職だと思っているだろうが、ボーカルでも十分通用する良い声をしている。鍵盤奏者・アレンジャーとしての才能はもちろん、彼がコーラスに加われるのは、観覧する方にとっても大きい。
 アンコールの『Trouble In Heaven』では、ショルダー・キーボードも引っ張り出してみせた。これは持ってるだけで盛り上がれる。魔法の楽器だなと思う。
 今回は初の試みだと思うが、ギターも弾いてみせた。たいていの場合、彼の立つステージには凄腕のギタリストがいる。西山毅・北島健二・松尾和博などだ。こういった面々がいるのなら、ギターの練習など不要なのだが、今回の編成だとnishi-kenのギターもアクセントとして効いてくる。メーカーや機種は分からなかったが、かなり派手な見た目のギターだった。
 こちらは声を出さないように気をつけながら観覧している。それでリアクションも薄くなりがちなところを、身振り手振りで客席を盛り上げようとしていた。これは好印象だった。

 NAOTOは、その名がメンバーにクレジットされている段階から、すでに異質な存在感を放っている。ポップスのライブだけを見る観客にとっては、本職のバイオリンでさえ珍しい楽器なのだろうが、その他に二胡も演奏。輪をかけてレアな存在に映ったのではないか。さらにギターも弾き、コーラスにも加わった。クラシックにも精通している彼が、ポップスにもそのエッセンスを注ぎ込む。この編成の大きな見どころだ。
 特筆しておきたい楽曲は『Love Chase〜夢を越えて〜』だ。リリース当時は、いかにも王道で定番のポップスの形だった。耳障りの良さはあるが、なんとなくリスナーとしても想定の範囲内という面も持ち合わせていた。ところが今回は彼の音が加わることでピリリとスパイスの効いた仕上がりに変わり、聴きごたえがアップした。

https://youtu.be/n9tBa-bx4bw


 TM NETWORKの楽曲『Fallin' Angel』も披露。ここではAメロで合いの手のように入る、高音の速い旋律を演奏。長い尺を引き続けているわけでもないのに、キラリと光る輝きを放っていた。実際に手の動きが見えると、このフレーズが一段と耳に飛び込んでくる。ワンフレーズ弾き終えてから、次のフレーズを待つ間の佇まいさえも、サマになっていた。


 宇都宮隆がマイクスタンドさばきで魅せるのなら、NAOTOは弓さばきだ。休符の間も、手の動きを止まったままにはしない。弓を回転させる仕草や、床に背を着けて弾く体勢など、筆者がバイオリン奏者に持っているイメージからはかなりかけ離れた、意外な驚きのあるパフォーマンスを見せた。クラシックでは御法度なのかも知れないが、こういう場ではドシドシやって欲しい。ここも盛り上がるポイントだ。

 中盤の息抜きで行われた、短いラジオドラマ。この声の主は、なんとシティーハンターの声優・神谷明だった。「ウツ君、遊びましょ」というセリフから始まる。nishi-kenとNAOTOが誘い続けても、一向に起きる気配を見せない宇都宮隆。ところが、誘う声をボイスチェンジャーで色っぽい女性のものに変えた途端に、即座にOK!と返答するというストーリーだ。これを神谷明が一人三役で演じきった。
 そこで、アンコールでは本人たちで再現してみようということになった。ここでの肝は、NAOTOが色っぽい女性の声を担う場面。会場中も笑いに包まれていて、大盛り上がりだった。NAOTO本人は「楽器演奏よりも、これが一番緊張した」と言っていたが、大成功だと思う。楽しかった。

 ブルーライブ広島は、海を見渡せる絶景にある。波の音が、砂浜よりも静かで心地良い。港に停泊する船が発する、きしむ音。それに、犬を連れて散歩する地元住民。
 こんな光景は、街中のライブハウスでは考えられない。時間が穏やかにゆったりと流れる。ライブ前からなんだかすっかり休日を満喫できてしまった気分になった。
 多少距離があっても、旅行がてらにライブ観覧というのも一興だ。アクリルスタンドを持っているなら、写真撮影も楽しめるスポットだと思う。


ブルーライブ広島


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