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中川翔子がシングル『65535』リリースイベントを福岡県で開催!(後編)

(前編のつづき)

 ここでしばらくの間、観客との歓談タイムに入る。親指・中指・薬指の3本の指先をつけ、残りの指先を立てて動物を形づくり、シェイクするおなじみの表現・「とぅっとぅるー」をしてみせる。
「恥ずかしいのは一瞬だけですよー。さあ、みなさんご一緒に!」と言って、自分に続くように観客を促した。会場がほのぼのとした空気に包まれる。

 中川翔子の良いところを観客に言ってもらう試みもあった。実際に観客のもとへマイクを向け、生の声を拾おうとする中川翔子。ここでは小さい子供の相手が上手だなと思った。ここだけ切り取ってみると、幼稚園の先生みたいだ。なんの遜色もなかった。
 子供たちの声を拾った後は、大人の観客へもマイクが向けられた。どうやら古参ファンで、名前まで中川翔子に認識されているようだった。子供のたどたどしい回答とは、うって変わって長所をいくつもスラスラ列挙。中川翔子もなんだか照れ臭そうにしていた。
 彼女はひとしきり和やかムードを楽しんだ後、最後の曲に向けて気合を入れ直す。

 ラストは『中川翔子』。

 知らない方のために注釈を入れると、これは打ち間違いではない。楽曲のタイトルが『中川翔子』になっていて、自分で自分自身のことを歌うという、なかなか面白い趣向の新曲だ。それをラップでやるという未来は、想像していなかったと彼女は言っていた。
 テレビやラジオでの曲フリのときでも、「それではお聴き下さい。中川翔子で、中川翔子!」と言われれば、よそ見をしていたとしても「んんっ!?」と振り返ってしまうのではないか。

 歌に入る前のMCでは、作曲家紹介のくだりで水曜日のカンパネラと言おうとしたときに、カンパネラで舌がうまく回らず軽く噛んでいた。そうなっても無理もないほど、ここに至るまでのMCも必死で、短い持ち時間の中に信じられないほど多くの情報量を詰め込んでいたと思う。これだけたくさん喋ったのなら、多少は息切れもするだろう。筆者がこれまで見てきたあらゆるリリースイベントの中でも、MCの情報量という点では、中川翔子は断トツのナンバーワンだ。それだけ歌にかける熱意が高く、話したいことがたくさんあるのだろう。

 この曲も歌う前には不安げなようすだった。2曲目ほどではないにしろ、こちらも軽くトチる。車のレースで例えたら、『65535』は大横転だったが、こちらは片輪がコースアウトしたものの、なんとか踏みとどまったという感じか。だからやり直さず、最後まで歌い通したのだろう。
 筆者も聴いていて、まだ生歌は厳しいかとも思った。速いリズムのバックトラックにも、どうにかこうにか振り落とされないようにしがみついているだけで精一杯という印象だ。もともと中川翔子のバック・ボーンにラップというジャンルがないので、まあこうなるだろう。
 邦楽の女性ラッパーでいうと、AIやAwich、SOULHEADのTSUGUMIなどの直後に聴くと、中川翔子のラップは物足りなく感じるかもしれない。だが、クオリティーがすべてではない。技術が未熟でもそれをカバーする方法はある。
 これがデビューしたての新人なら、歌い手の音楽性や実力に見合った楽曲を当てがってあげる方が良いのだが、キャリアの長い中川翔子。いつもいつもお似合いの曲ばかりやって、長年のファンにとって想定内におさまることばかりを続けていても、大きな感動は与えられないのではないか。不慣れなジャンルにも果敢に挑み、大きなハードルを越えようとする姿勢に感動が生まれるのだ。だから、この曲を練習することには意義がある。
 まだまだリリースイベントは他の会場でも開催される。ここで経験を積んで、ゆくゆくは笑顔でこの曲をパフォーマンスできるぐらいの余裕を身につけたいところだ。
 ステージを観ながらこんなことを考えていたら、中川翔子は曲のラストでヘッドホンを左手で抱えて、右手でレコードをこするポーズで締めくくった。こういう表現も気分が上がる。最後は良いところを見せてくれた。

 この日は中川翔子にとって悔いの残る曲もあっただろうが、見終わってみると、ハッピーな空間に居られて良かったなと思う。なんとか新曲をマスターして、これまでより一段と表現の幅が広がった姿を、他の会場では見せて欲しい。
 特にラストの曲『中川翔子』は、RHYMESTERの宇多丸にも注目されている。株式会社白夜書房の月刊誌『BUBKA』11月号では、彼の連載で今月の5曲★MUST BUY!にオススメとしてピックアップされているほどだ。プロのラッパーに推されているのだ。たとえ自身が本職のラッパーではないにせよ、気後れせずに胸を張って、この曲を大切に歌って欲しい。

 しょこたんがんばれ!

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