見出し画像

Jazztronik Trio Live 2022 福岡公演

 Jazztronikのトリオ編成でのライブを見てきた。日時は2022年10月15日。会場は福岡・ROOMS。アルバム『Universal Langage』収録曲や、『七色』、『Voyage』などの歌ものをインストゥルメンタル・バージョンにアレンジした楽曲を披露した。

 やっぱり生演奏は良い。今回の彼らの音楽はリズム的にもトリッキーな仕掛けがふんだんに盛り込んであった。ここのところ、四つ打ちダンスビートの聴き過ぎで、筆者の感覚は知らず知らずのうちにカクカクの市松模様に凝り固まっていた。だがそれも素晴らしい演奏によって、良い案配でほぐされていった。

 シーケンスに頼らなければ、急激な変化も自由自在。これを肌で実感できた。野崎良太のMCでは、アレンジが固まったのが昨日で、エンディングなんかは、ついさっきのリハーサルで決まった。披露された中には、そんな曲もあるそうだ。
 まさに彼らの音の最新情報が生で聴けるわけだ。こういうことができるのも、少人数編成の強みだという。これプラスせいぜいサックスが一人くらいまで。これならプレイヤーとしてのスリルを楽しみながらライブに臨めるようだ。

 野崎良太が弾き終わった後で、「この曲、こんな速かったっけ?途中で指が回らないかと思ったよ」とメンバーの藤谷一郎と天倉正敬に話しかける場面もあった。演奏中は、狙ってこういう速いアレンジにしているものだとばかり思っていた。ところが本人たちでも演奏がコントロールできるかできないかの瀬戸際になるまで熱い展開になった、ということか。

 大人数編成になると、決まったゴールがあって、それをいかに再現できるかという方向に意識がどうしても行かざるを得ない。先の展開がどう転ぶか分からない面白さは、少人数編成の醍醐味なのだということだろう。

 もちろん、人数が多い方が華やかな音になるし、それにはそれの良さがある。ただ、筆者の思うJazztronikの音楽の持ち味は、基本のリズム隊の他に管楽器やパーカッションなども配した上にボーカリストも複数いるという、彩り鮮やかで豪華な体制。これでナンボ!という固定観念があった。ライブが始まるまでは、「たった3人で大丈夫?」という不安が少なからずあったが、これは見事に払拭された。手数の多い演奏で、むしろ鍵盤奏者としての見せ場がいつもより多かった印象がある。

 観覧前は、SOIL & "PIMP" SESSIONSを観た後に、その派生バンドのJ.A.Mを観るような感じになるのかなと思っていた。同じ体験をした方なら分かるだろうが、スケール・ダウンなどしない。個々の魅力がよりクローズ・アップされる。たとえるなら集合写真からズームアップ写真に切り替わったような感じだろううか。

 藤谷一郎はウッド・ベースとエレキ・ベースを頻繁に持ち替えるし、野崎良太も片方で生ピアノ、もう片方でシンセサイザーを演奏という具合に、ジャズトリオでは見たことのない表現方法をとっている。単にJ.A.Mと同類には括れない。別物だ。

 この日一番面白かったMCは、新作のCD『Universal Language』をPRする場面。自ら勧めておきながら、最近のリスナー同様に、野崎良太自身もCDの再生環境がないそうだ。
「飾っておくといいですよ。あと、カラス避けに使えるかも。5枚ぐらい並べて」とかなんとか言っていたが、みんな笑っていたなあ。ここが一番盛り上がっていた。「買いまーす」という声も出ていた。

 MCで笑えたのはもうひとつある。今しがた弾いたばかりの自分の曲のタイトルを失念するという場面。側から見てる分には微笑ましいで済むが、いざ当事者となったら焦るよなあ。

 ここまでは笑い話だとしても、CDに代わる音楽を届ける手段については、野崎良太も真剣に考えているそうだ。サブスクが違法ダウンロードの横行に一矢報いたのは確かだと思うが、ミュージシャンの利益を完全に守るまでには、まだ至っていない。このあたりの動向には、筆者としても注目していきたい。

 野崎良太はこんな話もしていた。海外のバンド・イエスのライブに行ったときのこと。始まったはいいが、ステージに立っている中で、オリジナル・メンバーは1人だけ。筆者はイエスに詳しくない。おそらく長いキャリアの中で幾度もメンバー・チェンジを繰り返し、かなり変わった姿になっているのだろう。
 「ああ〜、(一応)イエスなのか…」と、若干腑に落ちないながらも、無理矢理納得しようとしていたようだ。DA PUMPのような状況と言えば、邦楽リスナーにも分かりやすいのだろうか。
 このライブを観て、野崎良太が考えたことはこうだ。表現する側としては最新の作品をぜひ聴いてもらいたいけれども、観客の心理を考えると、過去作も大事にしなければならない。

 この発言を受けて、筆者は次のように考えた。どちらか一方だけでは駄目。新作ばかりで過去作をないがしろにしていては、リピート鑑賞によって生まれる愛着がなくなる。
 作り手自身が、年月の経過とともに作った当初より作品への熱が引いてしまったとしても、いざパフォーマンスするとなったら、引いてしまった熱を呼び覚まして、観衆を熱く沸かさなければならない。
 過去作に頼ってばかりで新曲を一切作らないのであれば、予定調和でトキメキがない。バランスが大事なのだ。

 ホットな演奏に、クールな語り口ながらも考えていることは実に面白いMC。やはりJazztronikの存在感は健在だ。まだ公にはできないが、11〜12月には「なんらかの動きがある」と言っていたので、今後の活動にも注目してみよう。

 アンコールでやっていた、『In The Morning』。


関連記事 Jazztronik楽曲のダンス動画をピックアップ

関連ツイート

各会場の映像や写真を掲載。