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2023年に公開されたカバー動画で、シティーハンターを楽しもう!

 劇場版シティーハンター・エンジェルダストが、9月8日に全国ロードショー。観客動員・興行収入1位という、絶好のスタートを切ったようだ。当ブログでは、過去記事でさまざまなカバー曲をとりあげてきたが、今回は今話題のシティーハンター関連曲を歌ったカバー作品から、今年公開されたものに焦点を当てて、気になるものをピックアップしてみた。

せなすけ『Whatever Comes』
 まずはTM NETWORKの新曲『Whatever Comes』のカバーから。こちらの楽曲のカバーは、まだ数多く出てはいない。他にもインストや弾き語り、静止画による作品は見受けられるが、歌っている姿を動画で掲載し、伴奏もフルパート揃っている、いわゆるYouTubeらしいカバー動画となると、現状ではおそらくこの作品一点のみではないだろうか。
 最も驚きなのは、仕上がりの早さ。TM NETWORKのオリジナル版が配信されたのが今年の6月14日だが、その5日後にはこちらのカバーが投稿されている。楽器全パートとボーカルのバランス調整に、歌詞テロップ表示の手間まで考えると、5日間すべてを歌だけに注げるわけではない。ショートサイズとはいえ、驚異のスピードだ。アーティスト愛のなせる業だろう。
 筆者も初めてこちらのカバーを見つけたときは、「え?もうカバーがあるの!?」と、目を疑った。5日間といえば、ようやく間違えずにひと通り歌えるようになるぐらいの感覚ではないか。伴奏を制作したり映像を撮影したりする余裕なんて、とても考えられない。
 現在はTM NETWORKのオリジナル版の方も、フルコーラスのものがシングルで発売されているし、完全版の方が歌ってみた界隈でも話題になるといいのだが。気軽に使用できる伴奏がないので、音源制作ができるクリエイターとツテがない歌い手にとっては、手が出しにくい楽曲なのかも知れない。だからこそ、バックトラックの制作者にとっては、腕の見せどころだとも思える。
 『Get Wild』では数が多過ぎて、他の作品との差別化もなかなか難しくなってきているし、今こそこの『Whatever Comes』に注目が集まって欲しい。


CHiCO『Angel Night~天使のいる場所~』
 続いては、先月配信されたばかりの、CHiCOのカバーを聴いてみよう。オリジナル・アーティストはPSY・S。筆者はCHiCO with HoneyWorksという名前を、あちこちで見かけたことがあるのだが、彼女の歌をきちんと聴くのは、今作が初めてだ。声質はオリジナル・シンガーのCHAKAと大きなギャップを感じない。スンナリと受け止められた。名曲揃いのシティーハンターの中でも、この曲は他と違って、カバーがバンバン上がってくるというわけではない。そんじょそこらの歌い手では、中盤のフェイクを聴いただけで、尻尾を巻いて逃げてしまいそうな難曲。一定水準の歌唱力がなければ、この曲の世界観は再現できないだろう。CHiCOはそのあたりもしっかりクリアしている。
 伴奏もオリジナルをキッチリ踏襲した上で、曲中に何度も「ん?」、「おやっ!?」と思わせる、面白く聴ける仕上がりになっている。全体的には音が分厚くなる箇所と薄くなる箇所が、オリジナルよりもメリハリをハッキリつけてある感じ。2コーラス目の、極端に静かになる入り方からの複雑なリズム構成は聴きどころだ。
 また、「虜になんてできないほど謎めいてね」に続くパートである、終盤のサビに入る直前のブレイクが、フェイントが効いていて良い味付けになっている。これは中川翔子の既発カバーでも同様の手法がとられているのだが、中川翔子のはスペーシーな効果音なのに対し、CHiCOのはストリングスの駆け上がりフレーズというように、アプローチが異なっているのが面白い。
 カバーを制作する際に、サビの繰り返しの前に一瞬の間を置いてみるのも、リスナーをハッとさせる手法のひとつ。わずかな間だが、両者それぞれの表現方法は参考にしたいところだ。
 尚、このカバーと同じ日に、中川翔子による『City Hunter~愛よ消えないで~』のカバーも配信されている。こちらもあわせてお楽しみいただきたい。
 先の、せなすけによる『Whatever Comes』同様、動画ではショートサイズだが、Spotifyなど各配信サイトではフルコーラス音源が公開されている。



Nanao『CAT'S EYE』

 最後は杏里のヒット曲の、Nanaoによるカバー動画。原作者は同じだが、違う番組だろうと見る向きもあるかも知れない。しかし、劇場版シティーハンターの作中にはキャッツ・アイ三姉妹も登場することだし、この括りで紹介するのもアリだろう。
 Nanaoのカバーは過去記事でも紹介している。Nanaoは同じ曲をすでに一度投稿しているので、今作はリベンジ的な意味合いもあるのだろうか。彼女のカバーのクオリティーの高さは保証されている印象を持っていた。「そもそも歌いなおす必要があるのか?」、「元が良すぎて、何が変わったのかを聴き終わるまで感じられないかも知れない」聴く前はそう思っていたが、しっかりと改善されている。
 サビに入る前の「ミラーがどこかで」の部分は、歌っていてもタイミングを合わせにくいポイントだ。プロのカバーでも違和感のある作品は見受けられるが、Nanaoの歌唱は前作の若干のあやふやさも解消され、撮り直し版では狙い通りに歌えた感じがする。まさにしっくりくる仕上がりだ。また、他の個所ではコーラスも追加された。
 『CAT'S EYE』は杏里本人のものでも、いくつかのバージョンがある。『CAT'S EYE 2023』は北条司の原画展でもBGMで使用された。杏里以外だと、MAXのカバーのバックトラックは、筆者のお気に入りだ。せっかくの歌い直しの機会だから、別バージョンを採用しても面白かったと思うのだが、あえてのオリジナル版の継続採用である。最初は違いがわからないかなと思ったが、改めて前作を聴きなおしてみると、伴奏もグレード・アップしているのがすぐ分かる。
 『CAT'S EYE』は他の歌い手にも広くカバーされているし、歌唱力では負けていなくても、伴奏で見劣りしかねないところだったが、今回は作り直した甲斐があるといえるだろう。
 映像の見どころとしては、歌詞に登場する「青いドレス」にあやかっているのか、それとも偶然なのか、衣装もそれに合わせてきているところ。歌い直し前のギラギラした感じと、歌い直し後の余裕が出てきて少し大人になったNanaoのようすも、長く続けているからこその変化が見られて楽しめる。
 初めてNanaoを聴く方は、歌い直し版だけを聴けば十分だと思うが、以前から彼女を知っている方も、「なんだ、前に歌った曲の同じバージョンか。これはもう聴いている。」とは言わずに、この変わりっぷりをチェックしてみていただきたい。


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