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続・Get Wildのカバー動画から、その歌い手のオリジナル曲をDigる

 TM NETWORK「Get Wild」のカバー動画を鑑賞して、気に入ったらそのクリエイターのオリジナル曲にも踏み込んでいく企画。2か月連続の投稿となった。企画アルバム「GET WILD SONG MAFIA」リリース後も、続々生まれる数々のカバー。発売から30年以上経過しても、なおこれだけ親しまれるということは、「Get Wild」はすっかりスタンダードになった、と言えよう。前回に引き続き、女性ボーカルの作品にフォーカスしてみた。


ぷろぽりす幸子 feat. セイ★&ゼーノ「Get Wild -Remode2 Ver.-」

 2016年に発売されたglobeのリミックス盤「Remode2」収録のバージョンを土台にしたカバー。丸写しのアレンジではなく、細部で製作者の色も垣間見られて面白い作品だ。僕は結構な数の「Get Wild」を聴いてきたけれど、YouTubeでglobeのこのバージョンのカバーというのは初めてお目にかかる気がする。まず、題材選びが良いよね。

 イントロが鳴り出した瞬間、「あ!これマーク・パンサーが出るやつじゃん!」となって、一気に期待が高まったものだ。一番の聴きどころは、Bメロのラップ・パート。globe版「Get Wild」のオイシイところは、ほとんどココだろう。この動画ではゼーノが担当しているのかな。いやあ、役得だよねえ。

 冒頭のサビのフレーズを断片的に歌うところは、おそらくセイ★が担当しているんだろう。これが終わってから、Aメロの頭へ移るまでの橋渡しとなるパートには注目しておきたい。高音のシンセサイザーの音色が16分音符の連続で展開していくところが、Remode2収録分とは音程の動き方が異なるのだ。初めて聴いたときは「ほぉーっ!」と思った。細かいことだけど、このあたりが作者の「味」ってやつかな。

 ボーカルも、Remode2には入っていない、「Ha-」とか「Yeah」といった掛け声的なパートを足して、もうひと盛り上がり付け加えようとしている。これはセイ★の声?それともぷろぽりす幸子と2人でやってるのかな。アニメソング好きにも引っ掛かりそうなパートだ。ゴリゴリのダンス・ミュージックには縁がない層も、こういうのを入口にして、このジャンルに興味を持ってくれたら嬉しいね。


ぷろぽりす幸子「みんなでせーので大逆転!」

 それではぷろぽりす幸子の音楽にもう一歩踏み込んで、こちらのオリジナル曲も聴いてみよう。曲調はアイドルソングのど真ん中。サビの最後をこの曲名の歌詞「みんなでせーので大逆転」で締めるのだが、メロディーと歌詞のハマりっぷりがドンピシャリ過ぎて痛快そのもの。

 同じ歌詞をあまり繰り返し過ぎると、普通は途中で少し言い回しを変えたりしたくなるところ。だがこの歌詞は何度繰り返しても気持ち良い。貫き通して正解だ。例えば「大逆襲」とか思い浮かんでしまうかも知れないが、ここは横道に逸れない方がいい。もし僕がこんな歌詞を閃いたとしたら「よっしゃあ、もらったあー!」と、思わずガッツポーズだろうな。


 

芦澤サキ「Get Wild」

 続いては芦澤サキ。音楽事務所に所属しているので、YouTubeで見られる一般の歌ってみた投稿者と同列には語れないのだろうが、特筆すべきは声の存在感。キツめのビブラートで低いところからズシッ!と響く歌唱スタイル。いかにもロック・シンガーだなあというパワフルな印象だ。

 SNSでの口調も男勝りのワイルドな感じで、歌声のイメージとぴったりだ。ちなみに「Get Wild」でのコメントは「これで帰り道は決まったな」となっている。Twitterのトレンド・ワードになった「Get Wild退勤」のことだ。まさかこんな流行り方をするなんて、「Get Wild」を知った当初はまったく思いもよらなかった。僕はポータブル・プレイヤーを手に入れてまもなく、こういう楽しみ方はずいぶん昔に実践済みだったが、なんというか、これってブームになるんだ!という驚きがあったね。

 宇都宮隆の、伴奏の上を軽快なステップで舞うような歌唱スタイルに慣れている方には、力強さを前面に押し出した彼女の歌い方は、新鮮に響くのではないか。分厚い伴奏にもかき消されない、強い声を持っている。彼女の声なら、ギタリストも遠慮することなく伸び伸びと弾けそうだね。

 歌の練習もいいけれど、声のコンディションを良い状態に保つ、ということに無頓着になっていやしないかが心配だ。この自分の声は持って生まれたもので、出せて当たり前のような感覚でいるとしたら、コンディション・キープのための知識を身につけて、いつまでもそのパワフルな歌声を届け続けて欲しい。


芦澤サキ「孤独に咲け」

 それではオリジナル曲にも耳を傾けてみよう。これから自分の夢中になれることで一旗挙げてやるんだ!今は周囲の理解をなかなか得られていないけれど、諦めないぞ!という方には共感できそうな歌詞の世界観。歌い手の現状とリンクする部分もあるかもしれない。歌詞の主人公は独りぼっちかも知れないが、現実には再生回数も多く回っていて、リスナーには支持されている。歌い手自身は独りぼっちではないのは幸せなことだね。聴けば聴くほど、エレキギターと相性の良い声質だし歌唱法だと思うので、彼女はギタリストと仲良くするのがいいんじゃないかな。

 声のイメージにぴったりな、良い楽曲を提供してもらったなあと思っていたら、映像のテロップに「みきとP」の名前が出てきた。僕はボカロにとりたてて詳しいわけじゃないが、さすがに名前だけは知っている。初めてみきとPの音楽をちゃんと聴いたのだが、これは良い作曲家だね。注目されたのも頷ける。

 この楽曲を知った以降に、第一興商のカラオケ録音・録画サイト・DAM★ともを閲覧したことがある。そこでみきとPの名前を見かけたので過去作も聴いてみたら、やはり良かった。カラオケ制作スタッフによる打ち込み伴奏データなのに良い曲だと思えたのだから、本人のオリジナル音源はそれ以上だろう。これまでなら素通りしていたところが、目に留まる名前に変わった。それも「Get Wild」が契機になっている。いつ誰に歌われるかの巡り合わせが、結果的にはプロモーションの一環になるんだから不思議なものだ。


 これだけたくさん見つけたにもかかわらず、まだまだ僕の知らない「Get Wild」がいくつもありそうな気がする。これからどんな「Get Wild」にお目にかかれるのかも、楽しみなところだ。


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