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イチオシ!鈴木亜美のオリジナル曲

 歌手の鈴木亜美が今年40歳を迎える。TM NETWORKの活動を序盤から知るファンにとっては、「BE TOGETHER」のカバーも新しめな位置づけになるのだろうが、現代の新成人にとっては、そのカバーの方すらも知らない曲。そうなっていても不思議ではない。歳月の流れの早さに驚くのみだ。

 彼女のリリース作のうち、最も知名度が高いのは、やはりカバー曲の「BE TOGETHER」だろうが、オリジナル曲の方にも良いものがある。今回はそちらにスポットを当てて、筆者が特に強く推す以下2曲の魅力に迫ってみた。

 この2曲のうち、片方しか知らなかったという方は、鈴木亜美の歌声という共通の要素を通して、作曲家の異なるもう一方の楽曲もお楽しみいただきたい。


鈴木亜美joins中田ヤスタカ(capsule)『FREE FREE』

 小室哲哉が鈴木亜美の楽曲制作から退いてから、彼女の活動を追わなくなったというリスナーには、「超重要な曲を聴き逃している!」と声を大にしてでもオススメしたい。中田ヤスタカは音楽雑誌の企画で小室哲哉と対談し、2人並んだ写真が表紙を飾ったこともある。

 中田ヤスタカのサウンドの特色のひとつは、主旋律のボーカル・パートに施す大胆なエフェクト処理。一部分をスパイス的に加工する手法であれば、従来からあった。しかし彼の作風では、まとまった長い尺を、元の声の主が分からなくなるぐらいまで変えてしまう。これを広く浸透させた事例となると、グッと絞られる。

 歌詞の方も、言葉で強く訴えかける作風ではない。メロディーの音の数が、メッセージを込めるには少ない。だからリスナーの注意を惹くのに一番肝心なのはサウンドにかかってくる。ここがとにかく強力だ。

 自らクリエイターとして活動したい。だが歌のうまいボーカリストと組んでいるわけでもなく、自分自身はもちろん、共に活動するメンバーも歌詞が書けずに困っている。そんな方が状況を打開するのにも、この曲から得られるものは多いはず。ぜひチェックしていただきたい。

 鈴木亜美は、自分の喉元ひとつで場の空気を一変できる、例えばBeverlyのようなボーカリストではないだろう。ピアノ伴奏一本だけで間が持つような音楽は届けられないかも知れないが、ルックスの良さがある。それこそ、声を一切発せられない写真のような媒体でも、人々の注目を集められるのが売りだ。この曲は音楽以外にも、ジャケット写真やMVが視覚的に魅力満載。そちらも要注目だ。

 突出した歌唱力は持ち合わせていなくても、映えるビジュアルときめ細かいサウンド・メイキングでグイグイ押していく楽曲。これでも十分活路を見出せる。筆者はこういうスタイルの音楽も大好き。何度もリピートして楽しみたくなる楽曲だ。


鈴木亜美『all night long Extended Mix』

 中田ヤスタカが登場する以前の音楽シーンに遡ろう。鈴木亜美の歌う、小室哲哉提供曲のうちでも、最も抑えておきたいのがコチラ。

 初めて聴く方も、久しぶりに聴く方も、ベスト盤収録のSingle Mixに触れるケースがほとんどだろう。このバージョンでも十分過ぎるほどワクワクする、完成度の高いトラックだが、一度こちらを堪能した後はぜひExtended Mixの方にも耳を傾けていただきたい。ダンス・ミュージック・フリークのツボをしっかり押さえた、より濃厚な仕上がりだ。

 イントロとアウトロに差し込まれてある、Single Mixにはみられない外国人ボーカルによるフェイクが、夜の雰囲気をアップ。Single Mixではボーカル・パートに山びこ的なエコーをふんだんに仕掛けて、鈴木亜美の声で空間を埋めている印象だ。それに対してExtended Mixのボーカル処理は実にシンプルでスッキリしている。歌声よりもビートがダイレクトに伝わってくる感じがする。

 2コーラス目が済んでからの間奏では、Single Mixよりも音数が抑えられて、尺は長く伸びている。筆者が音楽を聴き始めたばかりのころは、こういう曲のサイズが長くなるようなアレンジについては、その良さがイマイチ分からなかった。展開が遅いような印象だったのだ。

 しかし、TV番組で1コーラス歌うのを視聴するといった方法以外にも、さまざまな環境で生歌や生演奏を鑑賞する機会が増えるに連れて、こういうダンスフロア向けの長尺リミックスの魅力にハマることになる。単にイヤホンで聴くだけなら、なかなか次の展開に移らない印象も受けるだろうが、人数の多いダンス・チームのショーケースで使うとなると、長い尺をめいっぱい使って、ダンサーひとりひとりにスポットを当てたソロ・パートを披露できる。こういう手法の心得があると、クリエイターとしてもダンサーとコラボする際に役立つだろう。

 これも実際にクラブの現場に赴かないと、このジャンルの魅力には気付けないものだ。筆者も自宅だけにとどまらず、ダンスフロアに足を運んでから鑑賞の幅がグンと広がった。ぜひ普段とは異なる環境でも、音楽を楽しんでみて欲しい。

 筆者がひとつ思ったのは、これだけダンスフロア映えする楽曲を、なぜ踊りの達人・安室奈美恵に提供しなかったのか?ということ。発売当時はこの曲で安室奈美恵が歌い踊る姿を何度も妄想したものだった。

 外野から勝手に邪推すると、ライト層からは「Chase the Chance」の延長線上の曲という位置づけになってしまいかねない。それよりは、話題性は強いがキャリアの浅い鈴木亜美の方が、出したときのインパクトは勝るという判断だったのだろうか。こればっかりは製作者本人に尋ねてみないと分からないけれど。

 歌っている当本人の鈴木亜美は、後にDJにも着手して、自らダンス・ミュージックにもアプローチしていくのは見逃せない。 


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