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現代でも輝き続ける、他界したアーティストの遺した作品

 今回は大内義昭・hide・SACHIKO、以上3名の他界したアーティストが遺した楽曲を鑑賞する。オリジナル・バージョンの方は労せず見つかるだろうから、ここではそれぞれカバー曲をピックアップした。これらがどのように歌い継がれていったのかも興味深い。死去しても尚、リスナーの心に残り続けるような傑作は、なかなか生み出せるものではない。このように長く愛される作品を作ることは、クリエイターにとっての究極の夢。彼らが生きられなかった分まで、自分が名曲を作るんだ!という意気込みで制作活動にあたれたら、どんなに素晴らしいだろうか。

 話が壮大過ぎて自分には置き換えられないという方もいるだろう。それももっともだ。しかし、自分がそのような作品を生み出せるかどうかの結果は別として、せめて今を精一杯生きていきたいものだ。


大内義昭(1960-2015)

 90年代にJ-POPを聴いていた方なら、NHK紅白歌合戦など、各TV局の年末特番で藤谷美和子とのデュエットで披露した「愛が生まれた日」を覚えている方も多いだろう。これがおそらく最も知名度が高い。しかし、当ブログでプッシュするのはコチラ!「CITY HUNTER〜愛よ消えないで〜」。この作曲者が大内義昭である。

 オリジナル歌手は小比類巻かほる。この1曲限りのスポット的な付き合いではない。小比類巻かほるのアルバムの歌詞カードを開けば、大内義昭の名前があちこちに登場する。厚い信頼を得た作曲家だ。僕はビルボードライブ大阪で小比類巻かほるの公演を観覧したことがある。そのときのMCでも彼女は追悼の意を表していた。

 発売から20年以上の時を経て、この楽曲がm.o.v.eによってカバーされた。しげの秀一原作のTVアニメ「頭文字D」を観ていた方には、おなじみのアーティストだろう。ボーカルとラップがめくるめくように交差するスタイルは、彼らの得意技。日本のポピュラー音楽シーンにラップが採り入れられ出した当初は、1曲の中でも歌のパートとラップのパートは明確に分かれていて、どちらかが出ているときは、もう片方は完全に引っ込んでいた。僕は、m.o.v.eがその概念を打ち破ったと思っている。ボーカリストが歌っている真っ最中でも、ラッパーがお構いなしにガンガン割って入る。このスタイルは、初めて聴いたときにかなり衝撃的で、一気に虜になった。

 僕は第一興商のカラオケ録音・録画サービス「DAM★とも 」をよく利用しているのだが、この曲は女性ボーカルな上にハモるところもこれといってない。好きな曲ではあるが、専ら他のユーザーの歌唱を聴いて楽しむだけだった。しかし、m.o.v.eのバージョンを知ってからは、小比類巻かほるバージョンの伴奏に乗って、m.o.v.eのラップ・パートをつけてみたこともある。これがスリリングで面白い。m.o.v.eがこのバージョンをリリースしてくれて、カラオケのコラボ録音がさらに楽しくなった。

 残念ながら既に彼らは解散してしまっているが、ラッパーのMotsuは精力的に活動を続けている。彼の今年のリリース作品にも踏み込んでいきたい。それが、芹澤優with DJ KOO & Motsu「EVERYBODY! EVERYBODY!」だ。

 TRFとm.o.v.eは、それぞれ僕が長年愛聴してきたユニット。そのメンバー同士の夢のタッグが実現した。こんな嬉しいことはない。彼ららしさが存分に発揮された、とびきり痛快なパーティー・チューンの完成だ。

 ボーカルの芹澤優のことは今作で初めて知った。彼女はインタビューで「クラブに行ったことがない」と言っていたが、自分の引き出しにはないことにも果敢に挑戦したのは好感が持てる。

 芹澤優の現状では考えにくいことだが、仮にこの楽曲提供を跳ね除けたり、または受けたとしても完成まで持ち込めずにお蔵入りになってしまっていたら、十中八九、僕は未だに芹澤優の存在を知らないままだったろう。未知なる分野へも、ドシドシとチャレンジしてみるべきだね。


m.o.v.e「CITY HUNTER〜愛よ消えないで〜」

芹澤優with DJ KOO & MOTSU「EVERYBODY! EVERYBODY!」




hide(1964-1998)

 X JAPANのギタリスト・hideの没後から23年が経過した。hideの生きていた時代とはカスリもしない世代が、もう社会に出始めていることになる。

 これほどまでに月日が経過しても、尚hideの音楽は人々の心から消えずにいる。今回は改めて彼の作品を、ボーカル・Miiとギター・Tsukushiの2人組ロックバンド・MINT SPECのカバー動画で振り返ってみたい。楽曲はX JAPANからhideの作曲した「SCARS」だ。

 映像の見どころは、ボーカルのMiiが週2回行っているYouTubeの生配信で話していたので、そちらからご紹介しよう。ワンコーラス目の「四文字のTATOO」という歌詞にちなんで、胸元のタトゥーが顔を覗かせる場面にご注目いただきたい。ちなみに刻まれた(いや、正確には貼られた)文字は、I am  [王冠の絵文字]である。現在ではこのタトゥーは取れ落ちてしまっているので、タトゥー姿のMiiが見られるのは、数多く掲載されているMINT SPECのカバー動画の中でも、この楽曲だけだ。

 聴きどころはTsukushiのギター演奏。単に腕が立つだけではなく、MINT SPECの動画はすべてカメラ・アングルが絶妙だ。ギター演奏がエキサイティングかつエモーショナルに感じられるような撮り方をしている。TV朝日のミュージック・ステーションでも、さすがにここまでガッツリとギターに寄った撮影はしない。かつてギター小僧だった方にも、いやいや、俺はまだまだ現役でギター弾いてるぜ!って方にも、刺さるのは間違いない。もっと言うと、かつてのギター小僧たちに現役復帰をさせたくなるような、ワクワクする動画だ。

 ギターのみならず、録音からボーカル・ディレクションに至るまで、音響面のことはTsukushiが一手に引き受けている。彼の良しとするボーカル・テイクがなかなか生まれなかったのと、Mii自身の喉のコンディションの悪化も重なり、レコーディングは難航したようだ。前作から2ヶ月以上のスパンが空いた。これまでのMINT SPECの活動の中でもかなり長い。MiiのYouTube生配信で、「お待たせしてすみません」という旨のメッセージとともに、制作途中のMVが部分的に公開されたこともある。彼らの真摯な姿勢を感じる一面だった。

 苦労の甲斐あって、見事な仕上がりの完成品ができた。これは渾身のテイクが出るまで辛抱強く待ち続けたTsukushiの粘り勝ちだろう。OKテイクを選ぶ判断力も冴え渡っている。そして、Miiもよくついていったと思う。

 こんなに年月が経過しているのに、高いクオリティーのカバー動画が生まれていることを、hideも喜んでいるに違いない。

 それではMINT SPECの音楽に、もう一歩踏み込んでみることにしよう。彼らのオリジナル曲はまだないが、ボーカルのMiiはMINT SPEC結成以前に、藤崎未花の名前でソロ・シンガーとして活動していた時期がある。そのときの持ち歌のひとつが「SUPER STAR」だ。歌だけでなく、歌詞も自ら書いている。行進で威勢よく駆け進むようなイメージの曲。エネルギーに満ち溢れていて、聴けば元気いっぱいになれそう。

 Mii(この当時、藤崎未花)の歌唱には、並のシンガーよりも母音の発音にインパクトがある。なので、歌詞を書く際もメロディーの重要な音符に母音を当てるようにすれば、楽曲がより活きるだろう。とは言うものの、これにとらわれ過ぎるあまり、本来言いたかったことを曲げてしまうのも良くない。歌詞を考えるときに、言い換えが可能な表現をいくつか思いついて、どれにするか迷ったら母音が活きる言葉を選ぶ、という程度でいい。

 この「SUPER STAR」は配信アルバム「ALL OF FUJISAKI MIKA」収録分とは別に、MINT SPEC結成後、Tsukushiによってギターが弾き直されたバージョンがある。こちらを聴く手段はいまのところ、MiiのYouTube生配信で彼女がリクエストに応じた場合のみ。結構なレア音源だ。興味を持ったら、ぜひともリクエストを寄せてみてはいかがだろうか。SUPER STAR -MINT SPEC Version-という書き方で通じると思う。


MINT SPEC「SCARS」

藤崎未花「SUPER STAR」


SACHIKO(1973-1999)

 R&Bの姉妹デュオ・DOUBLEを結成、1998年にデビューを果たす。姉・SACHIKOと妹・TAKAKOの2人組だ。最初のアルバム「Crystal」を発売するも、クモ膜下出血で急死。さあこれからというときだっただけに、当時は僕も胸を痛めた。あまりにもやりきれない原因で、始まったばかりのDOUBLEのキャリアが終わってしまうのか、と残念な気持ちでいっぱいだったが、妹・TAKAKOが一人でDOUBLEの継続を決断。その後、何作ものアルバムをリリースする。中でも2002年の「VISION」はチャート上位にランクインする。セールス的な成功と中身の充実の両方を成し遂げたと僕は思っていて、当時はこれを夜な夜な愛聴し続けた。夜に聴くのが格別に良い作品なんだよね。

 その後もTAKAKOは安室奈美恵とのコラボレーション「BLACK DIAMOND」で音楽シーンを沸かせた。引退の日に花火大会でのステージに居合わせた幸運な方は、安室奈美恵とTAKAKOが2人並んで立つ姿を存分に堪能できただろう。

 TAKAKOの方しか見たことがない方も、デビュー当初のSACHIKO生前の作品まで遡って注目していただきたい。安室奈美恵のヒット曲「Hero」を作曲した今井了介も「Shake」などの楽曲で制作陣に加わっている。

 それではSACHIKOの生前の作品・「Shake」を、緑子のYouTubeチャンネルにあるカバー動画で鑑賞してみよう。先述の第一興商のサイト「DAM★とも」でも、同曲のカバーを過去によく見ていた。簡単に歌える曲ではない。出回っている数は多くはないが、これを歌う人はひときわ熱い情熱を持って、完成度の高いものを仕上げてくるイメージがある。

 さらに緑子の歌を深く追ってみよう。自身が作曲したオリジナル曲がいくつもある。その中でも、「Shake」のカバーが良いなと思った方は、まずは「ブラックホール」という楽曲に進んでもらいたい。お酒を片手にムーディーな気分に浸ってもよし、体を動かして盛り上がってもよし、DOUBLEをはじめ、クラブ・シーンで活躍するアーティストの楽曲が好きな方なら、アンテナにひっかかる曲調なのではないか。

 この「Shake」のカバーの精度の高さに加え、オリジナルの「ブラックホール」を生み出しただけでも、ひとつの成果を十分出したと思える。だが、これは彼女の手の内の一部に過ぎない。緑子のYouTubeチャンネルを見て、僕はその守備範囲の広さに心底驚いた。先のMINT SPECもカバーしている、X JAPANの「Rusty Nail」もあれば、洋楽にも取り組んでいる。それもミニー・リパートンの「Lovin' You」だ。これは一握りのシンガーにしか歌えない。

 極めつけは、演歌まで歌っている。数も多いし、むしろこちらの方がルーツなんじゃないかと思えるくらい。ただ歌うだけじゃなく、他の歌手に楽曲提供ができるぐらいの極めっぷりだ。過去記事で、演歌歌手・おおい大輔がTM NETWORK「Get Wild」(作曲・小室哲哉)を歌っていたことに触れたが、これぐらいで驚いている場合じゃない。人様から作曲のオファーがくるほどの演歌を歌っている歌手が、DOUBLE・X JAPAN・洋楽いずれにも対応できているのだ。

 僕なんかはひとたび演歌が流れ始めると、一曲終わるまでその場から離席しないというだけでも既に高い壁だ。まずは自分の意志で演歌の再生ボタンを押す!これだけでも困難極まりない。緑子の守備範囲の広さには、ただただ敬服するばかりだ。いちリスナーとしては、演歌なんかで道草くってないで、「ブラックホール」みたいな楽曲をどんどん作ればいいのにと思うが、もっと広い視点に立つと、演歌もR&Bも両方こなせることが大きな強みなのだろう。


緑子「Shake」

緑子「ブラックホール」


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