続・歌ってみた動画のカバー曲から歌い手のオリジナル曲に辿り着く

 このあいだ同じタイトルで記事を書いたばかりだが、まだまだ採り上げきれていない楽曲がある。今回もTM NETWORKの名曲「Get Wild」に注目して、そのカバーの歌い手のオリジナル曲にも踏み込んで鑑賞してみた。

 それにしてもこの楽曲の浸透力には驚かされる。女性シンガーや外国人の歌唱もそうだが、楽器による演奏カバーもこれまた多い。鍵盤カバーであれば、作曲者・小室哲哉のフォロワーによるもので、数が多くとも自然なことかなと思えるが、ギターのカバーも結構見かける。

 そればかりではない。ベース奏者やドラム・管楽器といった、TM NETWORKのメンバーにはいないパートや、三味線やハープなどのレアな楽器にいたるまで、あらゆる方面で広く浸透している。和楽器カバーを見つけたときは本当に驚いた。三味線を弾いてるような人たちには、「Get Wild」みたいな曲は毛嫌いされているんじゃないか、みたいな先入観が僕にはあったからだ。しかし実際には楽曲を通して弾けるぐらいになるまでリピート再生されている。思い込みでだけで決めつけるのは良くないね。こんなことでもない限り、僕が和楽器の演奏に触れる機会なんてなかっただろう。和楽器で君が代とか荒城の月とか演奏されても、僕はまあほぼほぼクリックしないだろうからね。一見、和楽器の演奏曲目としては邪道な選曲のように見えて、実はそのジャンルにまったく興味のない層を振り向かせることに成功している。新規リスナー獲得の手段としても見過ごせない方法だ。


Lipselect「Get Wild」

 まずは鍵盤奏者によるカバーをピックアップ。こちらのカバーはLipselectが過去にライブで「Get Wild」を披露する際に制作された。そのときのライブ映像はYouTubeで公開されており、100万回以上の再生数を記録。好評を博している。ただし、音源として正式に録音されたものは今までなかった。リスナーからの要望もあって、ライブ披露から数年を経た今、スタジオ・レコーディングされたという経緯である。

 ここまでで彼らの環境にも変化がある。ライブ披露時は3人組だったユニット編成が、現在は2人組になっていること。カバー制作時の機材が、故障により使用できなくなっていること。使用機材の買い替えもあって、ライブ音源の完全再現は難しくなったが、アレンジャーのMasakeyは「極力近づけるように頑張った」との旨を語っている。

 ボーカル・Ayumiのパフォーマンスに触れておこう。ルックスの良さが一番の売り。一方でライブ映像を見る限りでは歌唱に不安定さを感じる。これは彼女の発言によると、準備がしっかりとれないまま本番を迎えてしまったため。推測になるが、楽曲をもらってから本番までの日数がそんなになかったのだろうか。決してあのライブ映像の歌唱が彼女のベスト・パフォーマンスというわけではない。

 それでも、ライブ中に見せる所作はフロントマンとしては十分役割を果たしている。サビの英語の部分でマイクを観客席に向けるのも、盛り上がる演出だ。ステージに上がる前からそうしようと決めていたのか、会場の盛り上がりから咄嗟に判断してやったのか、どちらだろうね。ライブ・パフォーマンスとしては二重丸だが、後で見返すと、もちろんサビの一部分がごっそり抜け落ちることになるので、会場に行けなかったり、当時はLipselectを知らなかった視聴者が後追いで鑑賞する分には、これだけではお腹いっぱいにはならない。

 そこへきての、待望のスタジオ・レコーディング音源の完成である。こちらは、Ayumiも宇都宮隆のボーカルを聴き込んでレコーディングに臨んだと語っており、先述の不安定さもかなり解消された。当然、固定したマイクで最初から最後まで通して歌っている。英語詞の部分だけフレーズが飛ぶこともない。何度も歌った中から良いテイクを選んでいるので、音楽鑑賞をするにはもってこいだ。

 すでにLipselectのライブ映像を見たという方も、あの作品から映像を抜いただけのものではなく、現在の彼らによる再録なのだということは知っておいていただきたい。

Lipselect「Particular(Ver.20 Update Mix)

 さて、そんな彼らのオリジナル曲にも耳を傾けてみよう。僕が注目するYouTubeの歌い手の中でも、Lipselectはとにかく持ち歌の数が多い。Black Flaverという別名義のユニットまである。そんな中でも、何度も再生してしまう、やみつきになる曲がこちら。

 どでかいインパクトがあるのは他にもある。とくにBlack Flaverにはズシンと重い、刺激的なナンバーが多いが、一度聴いても「もう一杯!もう一杯!」と、ついついおかわりしたくなるのは、この「Particular」なんだよね。4度目より5度目、5度目より6度目の鑑賞の方がますます好きになる不思議な魅力のある曲。

 このバージョンは本来開催されるはずだったLipselctのライブにもセットリストに組み込まれていたが、コロナ渦でそのままお蔵入りになりかねないところだった。それが音源だけでも公開しようかという運びになり、鑑賞できるようになった次第である。僕としては公開してくれて本当に良かった。

 LipselectのYouTubeチャンネル内に「生誕前夜祭スペシャル」と題された動画がある。こちらでは彼らのスタジオ・パフォーマンスを鑑賞でき、この曲も披露された。Ayumiが使う拡声器が良いアクセントになっている。僕は生ライブだとSoil &"PIMP" Sessionsの社長が持っているのを見たことがある。持ち時間の長いワンマン・ライブをする際は、使ってみるのもいいだろう。



ヨメトオレ「Get Wild」

 今度はギタリストによるカバー。最近になって事務所への所属が決まったというYouTuber・実の夫婦による2人組のヨメトオレだ。ギタリストによるカバーというだけなら、他にもたくさん見てきた。だが2人がかりとなると、僕が知っている数もグッと少なくなってくる。アコースティック・パートのみで押し通しても、十分一聴の価値ありだが、途中で差し込まれるエレキギターのソロに肝を抜かれるリスナーは多いだろう。目にも止まらぬ早業は圧巻!

 真剣勝負の本編とはうって変わって、最後のお子様の登場は心和む。裏の一面まで楽しめる動画になった。

 

 鍵盤奏者の作った曲をギターでカバーする試みは、リスナーにとっても面白い結果が生まれる。ただし、ギターの腕が一定レベルに到達しており、楽器の特性を理解しているプレイヤーに限った話だ。ギターを始めたばかりなら、まずは自分の敬愛するギタリストのコピーに一生懸命になればいい。やがてレパートリーが増えてきたら、ギター以外の奏者が作った曲にも手を出してみよう。他の楽器ではあり得ない、ギターならではの奏法を駆使して、「俺ならこう弾く!」という表現ができれば、きっとリスナーを楽しませられる。これまでの、お手本をまるっとなぞるよりも、ひと工夫加える楽しさを感じられるはずだ。

 

 ヨメトオレ「ルージュ」

 そんな彼らのオリジナル曲がこちら。初めて聴いたのが「Get Wild」で、そこからオリジナル曲に直行した方は「なんだ、歌えるんじゃん!だったらGet Wild」も歌いなよと思うかも知れない。彼らは他にもボーカルものをいくつも公開している。僕の第一印象はインスト・ユニットだったが、「Get Wild」はこんなこともできますよという、彼らの側面のひとつに過ぎない。僕が聴いた感じだと、ギターの方が本職だろうなとは思うが、弾いて良し・歌って良しと、天は二物を与えるんだなあ。

 サウンドは本格派なのに対して、映像は家庭で撮った簡易なもの。せっかく事務所に所属できたのだから、ロケに行くとかスタジオを借りるとかして、きちんと作り込んだMVを完成させたら、一気に広く支持を得られそうな気がする。

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