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イグナイト/ブレイズ=変身ヒロインのアナキズム

hello.
地獄からの署名を受け取ってしまった、ひとりのエスパー少女がいた。
誰もが何の疑いもなく口にする退屈な挨拶、日々の平和を確かめ合うような所作として交わし合うその言葉の中に。
hello. hello.
hell=地獄から噴き出した炎を浴びて、寄り添うo=リングが燃え上がる。
そして彼女は火の輪へと身を投げてくぐり抜け、変身、名乗りを上げた。
ヘル・オー!
イグナイト。
彼女は戦うために変身するヒロインではない。
彼女は変身するためにこそ闘う。
彼女には、変身ヒロインは何故そう呼ばれるのかを体現する孤高が託されている。


肖像

『ニンジャスレイヤー』には複数の入場ゲートがある。
アクション、サイバー、パンク、スチーム、伝奇、オカルト、神話、学園、青春、ハードボイルド、カーチェイス、美少女、スパイ……何を求め、どこから飛び込んで、どこへ飛び抜けてもいい。

あるいは、星の数ほどのニンジャたちが次々に登場してきては爆散し消えていく、この息もつかせぬ目まぐるしさ自体も、『ニンジャスレイヤー』の醍醐味のひとつだ。
命の保証は、誰にも与えられていない。
敵ニンジャとして登場した者ならばなおさら、そのエピソードが終わるまでには闘いに敗れて爆死する運命が否応無くのしかかる。

イグナイト……彼女もまた、そうした死の定めと共に登場してきた。
炎の赤髪、華奢な身体に纏ったパンクなレザー装束、熱風にはためくマフラーに染め付けた「地獄お」。
ビジュアルは怪人然とした敵ニンジャたちとは一線を画し、特撮ヒロインをすら彷彿とさせる。
しかし……だからといって死を免れられるほど『ニンジャスレイヤー』は慈悲深い作品ではない。
だから、彼女は過酷な闘いに向かっていくこととなる。
あらゆる定め、その身を地獄へ引き戻そうと絡みついてくる荊の鎖を焼き切り続けるために。
そして読者は知ることになる--変身ヒロインは何故そう呼ばれるのかを。


挑戦

彼女の闘いはいつも、権威や価値への反抗となって燃え盛る。

最初の相手は、金髪美女のメインヒロイン。
次なる敵は、自身が属するニンジャ組織の首領。
道半ば、彼女は半死半生の危機にまで追い込まれもするが、名を変えビジュアルを変え、死闘は続く。
警察、師匠、そして、かつての自身を相手に回してまでの果てしない反抗。
それは、何者かであることへの否、だ。
この反抗は、彼女がこれまで三度にもわたって自身の肉体を蹂躙され、変身をさせられてしまった無力と無関係ではいられない。
生来から与えられてしまった発火念力の異能。
絶望の淵で呑み込まされたニンジャの魂。
地獄の門前で不意に腕を掴んできた男とのよそよそしい融合。
もはや受動的な変身など、望まずとも向こうからやって来る。
ならば、やられる前にやるしかない。
強いられるより先に、自らの身のこなしで、変身し続けてやる。
それがイグナイト/ブレイズの闘い、彼女の変身だ。


流星

彼女は今日もどこかで拳をふるっているだろうか。それとも、トレーラーハウスの布団で寝息を立てているのか。突如ステージに立ってマイクを振り回しているかもしれないし、遠い空の下でひとり、降りしきる流星に唾を吐いているかもしれない。
何をしていてもおかしくない、彼女ならば。
はためくマフラーに「地獄お」の文字が波打つ。
復讐でもなく、何を守るためでもなく。
変身させられない、ために。
彼女だけが彼女の変身をキメる、のだから。

#DHTPOST #ニンジャソン #ニンジャスレイヤー

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